設計品質確保の思想 ――航空宇宙エレクトロニクスに学ぶ「信頼性設計」
● 人工衛星は宇宙を駆ける"携帯電話"!?
ところで,この人工衛星の機能構成は,実は一般の民生用機器と大きく変わるものではありません.
一例として,図4(b)に一般的な携帯電話のブロック図を示します.携帯電話には,通話回線用アンテナ,送受信機,ベースバンド・プロセッサ,カメラ,バイブレータ制御,電池パック,レギュレータなどがあり,これは人工衛星の機能ブロック図とよく似ています(図5).各機能の対応を表1に示します.
機能カテゴリ |
人工衛星 |
携帯電話 |
無線通信 | アンテナ,送受信機 | アンテナ,送受信機 |
コンピュータ | データ処理装置 | アナログ/ディジタル・ ベースバンド・プロセッサ |
カメラ | カメラ,観測センサ | カメラ |
位置認識 | GPSレシーバ,観測センサ | GPSレシーバ |
メカトロニクス | 姿勢軌道制御装置 | バイブレータ制御 |
電力制御システム | 太陽電池パドル,バッテリ,電力制御装置,電力安定化装置 | 電池パック,レギュレータ |
熱制御システム | ルーバ,ヒータ | 最適な放熱設計 |
また,人工衛星に使われている実装時の技術要素も,一般の民生用機器とほぼ同じものです(図6).一部,ラドハード(耐放射線性)LSIなどが使われていますが,高集積LSIはディジタル家電や車載機器でも必須の部品です.人工衛星は,基本ソフトウェアとしてリアルタイムOSを用いており,ソフトウェアの統合開発環境が重要となってきています(ディジタル家電はもとより,最近では自動車のエンジン制御などにもリアルタイムOSが採用されている).データ圧縮を含む画像処理技術や通信プロトコル技術も,とくに異なるところはありません.
これらのよく知られた技術を用いて,数百km~数億kmのかなたで厳しい環境にさらされながら,修理を期待せずミッションを達成する機器を,着実にていねいに実現していくのが人工衛星の開発です.もちろん,ひとりのエンジニアだけでこのような開発を完遂できるわけはありません.さまざまな視点を有するメンバがチームを組み,クロスチェックやレビューを繰り返しながら,非修理系である宇宙システム機器の信頼性を保証します.