プロセッサ最新テクノロジ2016 シリーズ7

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2015年12月21日

IP,グラフィックス・コア,MIPS,Ensigma,PowerVR,OmniShield,Hypervisor,ハードウェア仮想化

モバイル, IoTからスパコンまで あらゆる分野にオンリー・ワンの技術を提供するイマジネーションテクノロジーズ 

 英国には大手半導体メーカは存在しないが,ARM,CSR,イマジネーションテクノロジーズなど,半導体設計に特化したユニークなファブレス,IPベンダが多い.中でもイマジネーションテクノロジーズ株式会社(以下:イマジネーションテクノロジーズ)は,PowerVRによりグラフィックス・チップで大きなシェアを占め,メインストリーム・プロセッサのMIPS,マルチプロトコル無線チップのEnsigmaなどのIP群によるトータルなソリューションを提供している.今回は,IP群とその革新的な技術についてお話を伺った. 執筆:宮﨑 仁 

   

 

イマジネーション テクノロジーズ株式会社
代表取締役社長  松江 繁樹氏

 

1.グラフィックスIPからトータルなプラットフォームに発展 

出発点はグラフィックス−今も続くベンチャ精神

 イマジネーションテクノロジーズは,もともとは1985年にグラフィックス・ボード,サウンド・ボード,ホーム・オーディオ・システム,ビデオ会議システムなどボード製品やシステム製品の開発・販売を目的として創業した英国のベンチャ企業(当時の社名はビデオロジック)だ.1990年代には,従来の3Dレンダリング手法の常識を打ち破るタイルベース遅延レンダリング(TBDR)を採用したPowerVRテクノロジを開発し,最先端の技術開発で知られるようになった.

 TBDRは,タイル単位で画面上に見える部分を早期に判定することによって,Zバッファが不要になり,最小限のリソースで効率良く描画する技術だ.既存のグラフィックス・チップに比べて,チップ面積や消費電力を大幅に削減できることが最大の特徴だ.

 意外なことに,同社はベンチャから這い上がってきた経緯を大切にしており,中小ベンチャに対して,契約主旨に納得すれば,開発ツールやボード等を無償で提供している温かい側面がある.


グラフィックIPが世界中で採用

 1996年に最初のPowerVRチップが登場し,セガのドリームキャストを皮切りに,家庭用やアーケード・ゲームなどで広く採用された.またPowerVRをIPとして積極的にライセンスを進め,携帯電話,スマートホンなどの携帯機器のグラフィックス・コアとして大きなシェアを占めてきた.TI,Intel,ルネサスなど多くの半導体メーカがグラフィックス・コアとして採用している.

グラフィックス,無線とCPUコアの3本が柱

 またグラフィックスだけでなく音声,ビデオ,ネットワーク,無線などさまざまな分野のIPを充実させてきた.さらに,2012年にはミップステクノロジーズを買収することで,メインストリームのプロセッサ・コアであるMIPSをラインナップに加えた(図1)
 以下では,3本柱の概要と最新動向を紹介しよう.


図1 イマジネーションテクノロジーズが提供する3つのIP

 

MIPS

 MIPSアーキテクチャは1981年にスタンフォード大学のJ.L.ヘネシー博士による研究プロジェクトとして誕生して以来,代表的なRISCプロセッサとして発展を続けてきた.1980年代後半には32ビットのR3000,64ビットのR4000がワークステーション,サーバなどに採用されて成功を収めた.1990年代からはプロセッサ・コアIPの供給を始め,携帯情報端末やゲーム機,ディジタルTVなどの民生機器からネットワーク機器,通信機器などのハイエンド機器まで幅広く普及した.MIPSアーキテクチャを採用した代表的なMCU製品としては,マイクロチップ社のPIC32がある(写真1)

 


写真1 MIPS32を採用したマイクロチップのPIC32評価ボード

 同社は,2012年にMIPSを買収してすぐに自社の開発人員を集中的にMIPSに投入し,2013年に新しいラインナップとなるMIPS Warriorファミリを発表した.MIPS WarriorはハイエンドのP-class,ミッドレンジのI-class,ローエンドのM-classの三つのファミリから構成される.特に,同社が20年間かけて開発してきたマルチスレッドによる並列技術とMIPSアーキテクチャを融合することにより,チップ・サイズと消費電力の極小化と高い処理性能の両立を実現している.

 MIPSコアは,スパコンなどのハイエンド・コンピューティング用途も以前から注目されてきた.日本のベンチャ企業PEZYコンピューティング社では,イマジネーションテクノロジーズの開発陣から全面的なバックアップを得て4096コアのメニーコアと64ビットMIPSコアを組合わせたスパコンを開発中である.

PowerVR

 2001年発表のMBX(シリーズ4)コアが携帯機器用のGPUとして大きな成功を収め,現在のGE7xxx/GT 7xxx(シリーズ7XE/7XT)へと発展してきた.

 さらに,携帯機器で画期的なレイ・トレーシングを実現するPowerVR Wizard,マルチ規格対応のビデオ・デコーダ/エンコーダ,モバイルや車載カメラに対応する画像処理コアなどをラインナップしている.

Ensigma(エンシューマ)

 無線通信(RPU),ネットワーク接続(NPU)などのコミュニケーションを実現するIPだ.製品名は,2000年に買収したDSPソフトウェア設計のEnsigma社に由来する.

 その中でも,IoTなどで重要な役割を果たすのが無線プロセッサIPのEnsigme RPUだ.Ensigma RPUは無線LAN(802.11a/b/g/n/ac),無線PAN(BT/BLE/ Zigbee/NFC),TV放送,移動体通信などの無線通信とTV/ラジオ復調に対応したマルチプロトコル対応のプロセッサ・コアとなっている.

 

セキュア・ドメインの完全な分離と 高速な切換えを可能にするOmniShield


 IoTアプリケーションでは,さまざまなデバイスがネットワーク通信を含む複数の処理を並列実行することが求められている.そこで問題となるのはSoCのセキュリティだ.同社ではこの問題を解決するために,各アプリケーションが実行されるセキュア・ドメインを完全に分離する技術と,それに必要なハードウェア・レベルでのサポートを実現するOmniShield技術を独自に開発した.

 従来は図2のように,アプリケーション実行環境をノーマル・ドメインとセキュア・ドメインの二つに分けて,SoCのセキュリティを確保する手法が用いられていた.しかしセキュア・ドメイン内に混在する複数のアプリケーションが互いに干渉したり,GPUなど他のコアからセキュア・ドメインにアクセスされてしまう問題があり,セキュリティ強度は低い.

 


図2 従来のセキュリティ構造 

 

 そこで新しいセキュリティ構造を図3のように,ハードウェア仮想化を用いてアプリケーションごとに異なる複数のセキュア・ドメインを作った.各ドメインは完全に分離され,それぞれ独立にゲストOSを稼動させることができる.CPU,GPUなどのハードウェアとそれらのゲストOSの間には,強力なHypervisorが介在する.

 


図3 次世代のセキュリティ構造(OmniShieldハードウェア仮想化技術)

 

 Hypervisorは,ゲストOS(Supervisor)に対する超OSとしての役割をもち,各OSに対して安全なハードウェア・アクセスとOS間通信を提供する.Omni Shieldは,このHypervisorをハードウェアによって安全かつ高速にサポートし,ほとんどオーバヘッドなしにシステムを稼動できる.

 同社では,MIPS Warrior,PowerVR,EnsigmaなどすべてのプロセッサIPにこのOmniShield技術を組み込んでいくという.それによって,モバイル,ウェアラブル,IoT,車載などあらゆる分野でセキュアなSoCが活用可能になる.同社の真骨頂はプロセッサIPの提供だけではなく,世の中で現実に必要とされる技術を総合的に提供していく点にあると言えるだろう.  


 ------------ 第7話 終了 ------------

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インターフェース誌 巻頭企画プロセッサ・メーカにテクノロジ・シリーズの
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イマジネーションテクノロジーズ株式会社  http://jp.imgtec.com/

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