2013年のソフトウェア開発環境は,ユーザ要求に踏み込んだ情報の可視化と品質担保が鍵 ―― 組み込みネット新春インタビュー(4) 横河ディジタルコンピュータ

Tech Village編集部

tag: 組み込み

インタビュー 2013年1月10日

Tech Village「組み込みネット」では,新春特別企画として,「2013年,組み込み技術の展望」をお届けします.本企画は,2013年の技術動向や産業動向を紹介する目的で,組み込み関連企業などにインタビューを行いました.第4回は,横河ディジタルコンピュータの竹島 正博氏(写真1)に2013年の組み込み系のソフトウェア開発環境の動向について話を伺いました.(Tech Village編集部)

 

写真1 横河ディジタルコンピュータ エンベデッドプロダクト事業統括本部
            プロダクトマーケティング部長の竹島 正博氏



 


―― 2013年の組み込み市場をどのように見ていますか?

竹島氏:昨年のET(Embedded Technology) 2012における会場の様子から推測すると,多少景気が上向きになるのではないかと感じています.2011年は東日本大震災による部品供給の問題が起き,ビジネスを止めないことだけを考え,今あるものだけで乗り切ろう,という動きが目立ちました.また,危機感が先行し,新しい動きはなかったと思います.しかし,ET 2012の来場者は,新しい案件を持って当社のブースを訪れた方が多く,組み込み業界にようやく新しい動きが出てきたと感じました.

 当社はソフトウェア開発ツールのメーカなので,半導体業界が動き出した後で需要の動きが出てきます.日本の半導体メーカは設備投資を止めずに新しい半導体を開発・製造しているので,今後何らかの成果が出てくるだろうと思っています.

 

―― 組み込み系のソフトウェア開発ツールに対する要求に変化はありましたか?

竹島氏:ユーザはICEを使ってバスを解析するだけではなくなっています.動的解析のニーズが増えています.それは,ユーザの開発環境が変わってきたからです.

 携帯電話で例えると,携帯電話の開発はAndroidによりプラットフォーム化が大きく進みました.半導体メーカはプロセッサを提供するだけでなく,Androidを含めたデバイス・ドライバや開発ボードまで,携帯電話メーカに提供しています.

 携帯電話メーカはプラットフォーム上で携帯電話のアプリケーション機能を開発するようになりました.以前のように,携帯電話メーカが開発ボードを一から作ることがなくなったのです.ただし,プラットフォームを使っても,最終製品はメーカの製品となるので,品質管理が重要となっています.そこで必要とされる開発ツールが,システムのふるまいをトレースする動的解析ツールです.また,携帯電話などの情報家電は機能の進化が早く,仕様書に載っていない機能が後で追加されるケースがあります.このような場合でも,最終的なシステム動作の確認を動的解析ツールを使って行えば,品質を担保することが可能です.具体的なシステム動作として,タッチ・パネルの応答速度や低消費電力モードからの立ち上がり時間を計測したい,という要求があります.当社の製品であれば「adviceLUNA」が,ARM社の製品であれば「DS-5(Streamline)」がET 2012の会場で注目を集めていました. 

 

―― 組み込み系ソフトウェア開発ツールの技術は今後,どのような方向へ発展していくのでしょう.

竹島氏:当社のベースとなる技術はJTAG ICEやフルICEを使ったCPUからの情報の抽出ですが,この技術はこれからも突き詰めていきます.ただし,このときの情報の見せ方は変えていかなければならないと考えています.また,開発現場でユーザが求める最適な情報の見せ方を模索しています.例えば,メモリ・ウィンドウに2進,8進,16進で数値を見せるのが,今までのやり方です.しかし,モータ制御の開発者であれば,何かと組み合わせた演算結果の解を見たいのです.小さなことですが,その答えを可視化できるようなツールにしたいと考えています.このような要求はユーザが扱うアプリケーションによって変わるので,アプリケーションごとにカスタマイズできるようにしたいと考えています.

 また,オフショア開発の比率が上がり,組み込みソフトウェア開発が必ずしも国内で閉じた形ではなくなりました.オフショア開発では実機による開発ではなく,モデル・ベースの開発が主流となりそうです.そこで,ソフトウェア開発ツールも,このモデル・ベースの開発に対応する必要があります.

 

―― 横河ディジタルコンピュータは,ARM関連のツールやトレーニングの提供も行っています. 

竹島氏: 2012年12月に開催されたARM Technology Symposium 2012を例にとって話すと,2012年は,今までと比べて来場者層が大きく変化したと考えています.ARM関連の半導体におけるすそ野の広がりを感じています.以前は,やはり大企業の方が来場者の大半を占めていました.しかし昨年は,その層を含めて,今までARMベースの半導体を使っていなかったようなFA(Factory Automation)関連の来場者やマイコン関連の来場者が増えました.また,車載用のARMマイコンも増えてくると思います.

 FPGAでもARMコアの採用が進んでおり,当社としても大きな市場だと感じています.当社では,ARMのトレーニングを行っています.そのトレーニングでも昨年くらいからFPGA開発者の参加が増えてきています.ARMコアを搭載したマイコンやプロセッサが増えてきたことで,コミュニティ的なバックアップ体制が整ってきています.マイコンやソフトウェア開発ツールを含め,オープンな環境へ移行しています.そこには,新しい発想を支えるコミュニティができています.

 

―― 2013年の注目する市場を教えてください.

竹島氏:当社のツールはすでに,車載の情報系(IVI:In Vehicle Infotainment)の市場で採用されています.次は,エンジンやボディなどの自動車の制御に注目しています.今後,ますますセンサやマイコンが自動車の制御に取り入れられるからです.また,ガソリン車だけではなく,ハイブリッド車やEV(電気自動車)の市場も大きくなると思います.動的解析については,医療機器に注目しています.医療機器ではデバッグより品質担保の概念が重要とされているからです.また,各種の産業用機器についても新たな投資が始まると期待しています.

 

●参考URL
(1) 横河ディジタルコンピュータ;adviceLUNAのWebページ
(2) 横河ディジタルコンピュータ;DS-5(Streamline)のWebページ
(3) アーム;ARM Technology Symposium 2012Webサイト

 

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