プロセッサ最新テクノロジ2015 シリーズ1

tag:

2015年7月28日

超低消費電力と高性能が両立した32ビットMSP432マイコン新発売

低消費電力16ビットMSP430マイコンの
ARM Cortex-M4が誕生

 機器どうし,マイコンどうしの通信や連携が重視されるIoT,M2Mの分野では,さまざまな低消費電力の通信機能,とり わけ無線通信が重要になる.日本テキサス・インスツルメンツ株式会社では,超低消費電力マイコンのMSP430シリーズ,低消費電力・高性能マイコンの MSP432シリーズを提供している.ここではMSP432マイコンについて紹介しよう.

  

32ビットMSP432マイコン


いまマイコンに求められている低消費電力と高性能の両立


 いよいよ本格的に始まろうとしているIoT時代では,これまでマイコンが使われてこなかったような環境で,使われるケースが多くなる.十分な電源が得られない環境で,限られた時間内に処理を進めたり,多くのデータを扱うことも要求される.
 もちろん,従来からのアプリケーションにおいても,バッテリの寿命延長やシステムの発熱低減のために一層の低消費電力化が求められる.また,システムの複雑化や高度化,処理時間の短縮のために一層の高性能化が求められ,現代のマイコンには,これまでにない低消費電力と,高性能の両立が要求される.
 その要求に応えて,日本テキサス・インスツルメンツ株式会社(日本TI社)が今年4月に発売した新マイコンがMSP432だ.


● 超低消費電力と32ビットの高性能を融合


 日本TI社ではこれまで,超低消費電力マイコンのMSP430ファミリで業界をリードしてきた.MSP430シリーズは,16ビットRISCアーキテクチャを採用して既存の8~16ビット・マイコンを凌ぐ超低消費電力と高性能を実現してきたが,32ビット・マイコンに対して性能面で優位に立つことは難しくなってきた.
 そこで,日本TI社では,MSP430マイコンで培ってきた高度な省電力技術を生かし,かつ32ビットの採用で高性能との両立をはかった新製品として,MSP432シリーズを開発した.『MSP432』という名称には,MSP430シリーズの超低消費電力と32ビットの高性能の融合を目指した日本TI社の想いがこめられていると言えるだろう(図1)



● MSP432マイコンでCortex-M4Fを採用した理由


 まず,ARMコアを採用したのは,MSP430マイコン独自アーキテクチャとARMアーキテクチャはRISCとして類似点が多く,開発ツールまで含めて移行や統合化が容易という利点からだ.また,日本TI社は優れた独自アーキテクチャを開発してきたが,SoC,アプリケーション・プロセッサをはじめとしてARMコアも広く採用している.Cortex-M3/M4Fコア搭載のマイコンでも,Stellaris,Tiva-CからTM4C123xファミリに至る歴史と豊富な経験をもつ.
 次に,ARMのCortex-Mシリーズの中でCortex-M4Fコアを採用した理由を考えてみよう.一般的に,低消費電力マイコンではCortex-M0/M0+コアを用いることが多いが,日本TI社では採用しなかった.Cortex-M0/M0+コアはもともと特定用途のコントローラLSIを低コストのSoCで実現するために作られた簡略なコアであり,回路規模も小さく消費電力も低いが,そのかわり処理性能もCortex-Mシリーズの中で最も低いからだ.
 Cortex-M0/M0+コアは,命令セットもARM命令のサブセットであり,機能も大幅に簡略化されているため,MSP430ファミリに対して十分な性能向上が期待できない.MSP430マイコンの上位機種としてCortex-M0/M0+コアを採用するメリットは薄い.それに対してCortex-M4Fは,フルセットの機能に加えてDSP機能と浮動小数点プロセッサを搭載した高性能コアであり,MSP430ファミリに対して大きな性能向上を実現できる.消費電力については,日本TI社の高度な省電力技術を駆使することによって他社のCortex-M4Fマイコンを大きくリードし,Cortex-M0/M0+マイコンと同等の超低消費電力を実現した.

MSP432マイコンの概要と省電力技術


 MSP432マイコンは,DSP機能と浮動小数点プロセッサをもつ48MHz動作のCortex-M4Fコアを搭載した低消費電力・高性能マイコンだ.Cortex-M4Fとして業界最高のコアマーク・スコア3.41/MHzを実現している.最初に出荷されている製品は,フラッシュ・メモリ 256Kバイト,SRAM 64Kバイトを内蔵するMSP432P401Rだ.フラッシュ・メモリ容量は,今後最大2Mバイトまでスケーラブルに増加可能だ.数々の省電力技術を駆使することによって,動作電流は95µA/MHzと小さく,スリープ電流(RTC動作)はわずか850nAに抑えられている.動作電圧範囲は1.62~3.7Vと広い.
 MSP432マイコンでは,MSP430マイコンで多くの実績をもつ内蔵ペリフェラルを搭載しており,さらに低消費電力・高性能の改良型ペリフェラルも開発している.従来のMSP430マイコンのユーザは容易にMSP432マイコンに移行でき,ドライバやAPIも簡単な修正だけで再利用できる.改良型ペリフェラルとしては,新設計の14ビットA-Dコンバータがある.これは1Mspsで13.2ENOB実効ビット数をもち,わずか375μAの動作電流で動作する低消費電力・高性能のA-Dコンバータだ.今後も,さまざまな新しいペリフェラルの投入が予定されている(図2)


● MSP432マイコンの省電力技術


 まず,製造プロセスを徹底して省電力化したこと,一般的なオンチップ・レギュレータはLDOだが,高負荷時に損失が大きくなってしまうことから,降圧型DC-DCコンバータを搭載して40%の省電力化.さらに,スタートアップ時や深い省電力モード時には低負荷時の損失が小さいLDOに切り替えてきめ細かく電力を削減させている(図3).独自のRAMリテンション機能を用いて1バンクあたり30nAを削減,基本的なドライバをDriverLibとしてROMに搭載したことにより最大35%の省電力化など,さまざまな部分で消費電力を削減している.
 また,DriverLibをROM化したことによりアクセス速度をフラッシュ・メモリの200%に向上,同時リ
ード/消去可能な2バンクフラッシュを採用するなど,高速化についてもさまざまな技術を駆使している.

 


● スムーズなツールサポート


 ソフトウェアツール,エコシステムについては,従来のMSP430マイコン用ツールと,広く普及しているARM用ツールをともにサポートしている.これまでMSP430マイコンを活用してきた設計者,ARMコアを採用してきた技術者はともに,抵抗なくMSP432マイコンを使うことができるだろう.また,MSP430マイコンの設計資産,ARM Cortex-Mの設計資産を活用していくことも容易である.
 最後になったが,MSP432マイコンの開発を簡単に始められる手頃な評価用ボードとして,日本TI社ではMSP432 LaunchPadを$12.99で提供されているのはありがたい(写真1)



写真1  MSP432 LaunchPad

 

 

 ------------ 第1話 終了 ------------

----------------------------------------------------------------------------------------------
インターフェース誌 巻頭企画プロセッサ・メーカにテクノロジ・シリーズの
他の記事も読む
----------------------------------------------------------------------------------------------

 

  

この記事に関するお問い合わせ先


 

日本テキサス・インスツルメンツ株式会社 http://www.tij.co.jp/tihome/jp/docs/homepage.tsp
〒160-8366 東京都新宿区西新宿6-24-1 西新宿三井ビル Tel:03-4331-2000


 

組み込みキャッチアップ

お知らせ 一覧を見る

電子書籍の最新刊! FPGAマガジン No.12『ARMコアFPGA×Linux初体験』好評発売中

FPGAマガジン No.11『性能UP! アルゴリズム×手仕上げHDL』好評発売中! PDF版もあります

PICK UP用語

EV(電気自動車)

関連記事

EnOcean

関連記事

Android

関連記事

ニュース 一覧を見る
Tech Villageブログ

渡辺のぼるのロボコン・プロモータ日記

2年ぶりのブログ更新w

2016年10月 9日

Hamana Project

Hamana-8最終打ち上げ報告(その2)

2012年6月26日