拝啓 半導体エンジニアさま(48) ―― 立場が逆転!? 旧態依然の半導体メーカの設計エンジニアと先端トレンドを追う他業種の設計エンジニア

ジョゼフ半月

tag: 半導体

コラム 2013年5月10日

 

 また昔話になりますが,かつてはICやLSIを設計することそのものが他の業界の方々から見ると,「魔法のようなもの」だったのではないかと思います.LSIの設計者が少なかったうえに,設計技術なども内製のものが多くて一般には非公開.設計技術の参考書もあまりなく,業界の外のエンジニアにとってはかなり敷居が高かったと思います.

 

●ASICの普及に伴い,半導体業界以外のエンジニアでもLSIの設計が可能に

 そのころは,どのようなチップを作るにせよ,半導体メーカとの付き合いを抜きにしてLSIの設計などできなかったように記憶しています.端的に言ってしまうと,他の業種のエンジニアがどのようなチップを欲しいのか,仕様やら希望やらを述べると,半導体メーカがそれに合うLSIを設計していた,という感じでした.このスタイルだと,半導体メーカの側が対象となるアプリケーションをかなり深く理解していないと,LSIを開発できません.

 ところが,ASIC(Application Specific Integrated Circuit;この言葉もちょっと古めかしい感じになってしまった)が一般的になったころから,半導体業界以外の分野のエンジニアでもLSIを設計することが増えてきました.自分で自身の欲しいチップが作れる時代になった,という感じでしょうか.半導体メーカの側からすると,半導体メーカの中のエンジニアは機能をどうやってチップにうまく載せるか,という部分に集中することになります.すると対象アプリケーションを理解する必要はなく,また顧客のIP(Intellectual Property)やノウハウを隠ぺいするという観点からも,アプリケーションとのかかわりは薄くなっていったような気がします.

 そしてHDL(Hardware Description Language)設計が一般化し,FPGAが多用されるに至って,非常に広範な業種の会社のエンジニアの方々が,みずからの仕事としてLSIを設計する機会が増えていきました.内輪のヨイショではなく,客観的に見ても,CQ出版社の各種LSI設計技術の記事や解説書などがLSI設計のすそ野を広げるトレンドを支えていたように思います.

 そのような半導体の設計技術が一般化していく流れの中でも,ひと昔前までは,半導体メーカの設計エンジニアの方がそれ以外の業種の方より,さすがにちょっと高度な設計を行っていたように思われます.まあ,LSI設計技術について“一日の長”があったといったところでしょうか.半導体メーカのエンジニアの方が場数を踏んでいるというか,専業であるだけ数をこなしていた,ということだと思います.

 

●半導体業界のエンジニアとそれ以外の業界のエンジニアのポジションが逆転

 ところがです.最近,いろいろな人と話をしていて気付くのは,半導体以外の業種でLSI設計にかかわっているエンジニアの方が,半導体メーカの中でLSIを設計しているエンジニアよりも,ともすると高度な設計を行っている,新たな設計パラダイムに挑戦している,といったケースが散見されることです.

 このところ日本の半導体メーカは失速ぎみで,会社を維持するのに汲々(きゅうきゅう)としています.なにか新しい設計手法やらアプリケーションやらに挑戦したくても,なかなか企画は通らず,予算もつかず,人は減っても従来の仕事をこなさなければならず,といった具合で,新規の設計手法やアプリケーション分野などに出会う機会のない方も多いのではないでしょうか.

 しかし世の中は待ってくれません.LSI設計そのものは年々高度化していきます.新たなアプリケーション分野も出現し,新たなアルゴリズムも登場し,先端技術はどんどん先に進んでいきます.例えば特定のアプリケーション分野を抱える機器メーカのエンジニアなどは,その分野のトレンドに遅れては一大事,できればトレンドの半歩先を走りたい,ということで,先を見て進まざるを得ないでしょう.必死で先行しようとしているわけです.

 それに比べると,半導体メーカの態度たるや,案件ごとの是々非々.その案件の予想数量と単価を秤(はかり)にかけて,もうかりそうなら受けるけれど,そうでなければお断り,という“当然の”ビジネス・スタンスです.そのような中では,新たな設計手法やらアプリケーションの知識やらを先んじて取得する,といった雰囲気からはどうしても遠ざかってしまうのでしょう.

 結果として,どうも,半導体以外の業種でLSIを設計しているエンジニアの方がモチベーションが高く,LSI設計の先端トレンドを捉えたり,波に乗って進んでいるのに,半導体メーカのエンジニアの方が旧態依然の設計手法で,代わり映えのしないチップを設計している,すなわち「ポジション逆転」という印象を受けてしまうのです.

 

●半導体メーカの中の「設計」が価値を失いつつある

 お金に余裕があったころは,半導体メーカも目先の損得では割に合わなくても,先のトレンドを見据えた上で,顧客の要求以上のリソースをつぎ込み,結果として新たなトレンドを作ってきたように思います.どこの半導体メーカについても,そういう昔話をする人がいかに多いことか….

 ところが,「貧すれば鈍す」でもないのでしょうが,どうもこのところ,半導体メーカの設計が顧客のレベルについていけていないような気がします.そもそも水平分業化が進んでいるので,半導体メーカの設計に頼らなくても,チップの物理設計(レイアウト設計)は行えます.製造もLSIテストも行えるのです.顧客の設計が高度化しつつある今では,半導体メーカの中の設計など,その価値を失いつつあるのではないか,とも思うのですが,いかがでしょうか?

 

ジョゼフ・はんげつ

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