スマホとコンビを組み始めたBluetooth Low Energyの低消費電力を支える技術 ―― 送信受信時のピーク消費電力を,既存品の3割以上削減!

田中 邦夫

tag: 組み込み

キャッチアップ 2014年8月15日

 Bluetoothは,パソコン周辺機器やヘッドセットなどでよく使われる無線通信です.最近は,人体センサなどの身に着ける小型・軽量機器をスマートフォンとつなげる使い方が増えています.背景には,低消費電力通信向けBluetooth Low Energyの登場があります.ここではBluetooth Low Energyが低消費電力な理由や,それを実現するためのLSIの働きを紹介します.
 さらに10mA以下という超低消費電流LSIを開発したロームグループのラピスセミコンダクタ(株) LSI商品開発本部 無線通信LSI開発ユニット 野田 光彦 氏から低消費電力を実現するための工夫を伺いました.

 

ラピスセミコンダクタの野田 光彦氏




●Bluetooth Low Energy
の用途は従来とは違う

 代表的な2.4GHz帯無線の仕様を1に示します.Bluetooth Low Energy(以下BLE)の送信時消費電流は15Aと少なくなっています.従来のBluetoothとは違い,小型電池で長時間駆動の用途に向いています.電話着信,時刻,血圧計,体温計,心拍計,自転車の速度計などが,BLEのプロファイルとして登録されています.

 

1 2.4GHz帯における各電波形式の一般仕様

 
バージョン表記とロゴ表記の紛らわしさ

 まずBLEは,従来のBluetoothとはプロトコル自体が違うため互換性はありません.バージョン表記を2に示します.Bluetooth の表記は,v3.xHSのようなバージョン表記と,Bluetooth SMARTなどのロゴ表記の二種類があります.Bluetooth SMART READYは,従来タイプとBLEの両方に接続でき,Bluetooth SMARTBLEとしか接続しないものと定義されます.バージョン表記の場合は,基本的に下位バージョンを含むため, v4.0と表記するとBluetooth SMART READYを指します(+HSだけは無線LANを使用しているので別扱い).

 

2 従来のBluetoothBluetooth Low Energyの違い

 

 

●Bluetooth Low Energyが低消費電力な理由

その1:スキャンのチャネルを3つに削減

 従来のBluetoothは通信の初めに,通信相手となるデバイスがいないか調べるために全79チャネルをスキャンします.運が悪ければ数秒かかります.しかしBLEはスキャンを3チャネルに減らしスキャン時間を大幅に削減しました.

 

その2:スレーブ側の応答回数を削減(スレーブ・レイテンシ)

 通信中はマスタ(親機)からの問い合わせに対してスレーブ(子機)は必ず応答する義務がありましたが,BLEでは応答を休んでよいことになり,通信回数を減らしました.

 

その3:パケット長を短くして小データ伝送に特化

 BLEのパケット・サイズは,他の通信と比べて短くなり,データの正味量は,最大27バイトで,短いデータを短時間で使うことに特化しました(1).

 

1 従来BluetoothBLEの通信スキームの違い
BLEはデータ・サイズが小さく,通信間隔が長く低消費電力化

 

その4:通信チャネルを従来の79から40に削減

 24022480MHzの間で利用している通信チャネルの数を,BLEでは従来の79ch1MHz間隔)から40ch2MHz間隔)に減らすことで,ピーク消費電力の大部分を占める高周波回路ブロックの簡素化が図れ,低消費電力が可能になりました.

 

なんとコイン電池1個で約3年!低消費電力BLE LSI ML7105

 BLE LSIにも低消費電力を実現する工夫がいろいろとあります.例としてラピスセミコンダクタのML7105を紹介します.これは1の仕様にあるとおり,送信時の消費電流が一般には15mAであるのに対し,10mA以下と約2/3まで消費電流を削減しました.

 ML7105の主な仕様を3に,内部構成を2に示します.駆動電圧が1.63.6Vと低電圧でも動作でき,スリープ時の電流は1μA以下とほとんど流れていません.またコイン電池の寿命を計算すると,通信インターバル2secで,平均電流値が8μAの場合,210mAh÷0.008mA26,250h1093日)となります.

 

3 ML7105の仕様



2 ML7105の内部構成

 

特徴 システムの電源制御を効率化

 BLEのプロトコル構成を3に示します.最下層にはRF回路と直結したハードウェア部分があり,中間層ではリンク・レイヤやGAPが,最上位層はアプリケーションで構成されています.アプリ層と中間層以下で電源制御を以下のように分けて効率化させています.アプリ層は,完全に電源をオフできないので,外部マイコンに任せてスタンバイを多用します.一方中間層以下はBLE内部に取り込むことでハードウェアへの電源供給を部分的に停止させ,消費電流を抑えています.

 


3 プロトコルの最上位層と中間層以下で電源管理を分離した

 

特徴 スレーブ・レイテンシ時の電流量を数mAから数μAに激減

 前述のスレーブ・レイテンシ時にも電流が消費されます.マスタとスレーブ間の時刻同期を維持するため何らかの処理(企業秘)が行われているためです.他メーカはこの電流が数mA以上するのに対して,僅か数μAと桁違いに低い値となっています.ここはデータシートでは分からない重要な点です.

 

特徴 アナログ回路を地道に見直し

 消費電力を下げると性能が低下するのは当然です.しかしアナログ回路の根本的な見直しにより,性能劣化を克服しました.主な例として,PLL回路の構成をスリム化,変復調回路をシンプル化,RF増幅回路をシングル構成にしたなどが挙げられます.

 

特徴 FlashROMがない

 BLE LSILSI内部にFlashROMを含むものと含まないものの2種類に分類されます.FlashROMを含むものは便利ですが,リーク電流が増えるため低消費電力化には向いていません.ML7105は中間層以下をマスクROMで取り込んでFlashROMをなくし,極力消費電流を抑える構造にしています.

 

10mA以下の超低消費電流を実現したBluetooth Low Energy LSI ML7105

 

今後の製品展望

 ML7105の次期製品であるML7125は,さらに電流を下げて送受信とも4mAを切る目標で設計を行っているとのことです.今後が楽しみです.

 

たなか・くにお

 

◆ご参考:

●Bluetooth全般に関しての日本語ページは下記があります

https://www.bluetooth.org/ja-jp

規格を決めているBluetooth SIG, Inc. によるBLE関連のページです

http://www.bluetooth.com/Pages/Bluetooth-Smart.aspx

https://developer.bluetooth.org/TechnologyOverview/Pages/BLE.aspx

http://www.bluetooth.com/Pages/Bluetooth-Home.aspx

 

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この記事に関するお問い合わせ先


 

ローム株式会社 http://www.rohm.co.jp/
〒615-8585 京都市右京区西院溝崎町21 TEL(075)311-2121 FAX(075)315-0172


 

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