言葉の壁の前でたたずむ君たちへ ―― Tech Village新春インタビュー(5)

Tech Village編集部

tag: 組み込み

インタビュー 2014年1月16日

Tech Village「組み込みネット」では,新春特別企画として「2014年,組み込み技術の展望」をお届けします.第5回は,東陽テクニカの二上 貴夫氏(写真1)に,2014年の人材育成についてお話を伺いました.

写真1 東陽テクニカ ソフトウェア・システム研究部 技術主管/部長の二上 貴夫氏

 

 

―― 2013年は,人材育成という観点で見るとどういう年でしたか?

二上氏:組み込みソフトウェア技術者が「何を学べばいいのか」を一口に語るのが難しくなってきました.2010年くらいまでは,UML(Unified Modeling Language)を勉強しなさい,フォーマルな仕様記述(形式手法)を学びなさい,で済んでいました.また,抽象度の高い設計だけで終わるのではなく,C++やC言語で記述したプログラムがコンピュータの中でどう動いているのかも勉強するべきだ,という機運が高まり,日本人による,日本語で書かれた「Cコンパイラの作り方」の解説書なども出てきました.

 しかし,プロセッサや開発環境がどんどん使いやすくなる中,ソフトウェア開発だけでは仕事が成立しなくなってきました.組み込みソフトウェアは確かに要(かなめ)ではあるが,システムの一部である.ソフトウェアだけでなく,システム全体を統合的に設計できる技術が必要だ.と言われました.

 では産業はそちらに動いたのかというと,携帯電話端末のように事業ごとなくなってしまうものも出てきて,システム技術が重要だと言いながら,それをうまく使える環境が減ってしまったような感があります.

 一方,秋葉原では,わずか5,000円でクワッドロータのヘリコプタが購入できます.この中にも,電力制御に優れたプロセッサやジャイロの値を基に安定させる技術などが詰め込まれています.これを見ると,ハードウェアとソフトウェアのミックスはやっぱり重要だと改めて感じますが,既に存在する製品は,開発競争や価格競争で決着してしまっているものが多い.

 そうすると,「何が必要か」,「どうやって実現するのか」というところから発想できることが重要になってきます.「与えられた仕様を満たすソフトウェアを作る」という時代ではなくなってきました.

 ちょうど,私がかかわっているETロボコンで新設した「アーキテクト部門」が良い例です(写真2).ETロボコンは,決められたコースをいかにうまく制御して走るか,というコンテストでしたが,アーキテクト部門では,求められるシステムを発想し,仕様を決め,設計モデルを作り,ソース・コードに落とす,さらにはそれを提案するところまでが要求されます.これを行うためには,全体の企画を考える力や,システムとしてとらえる力などが必要となります.

 

写真2 ETロボコン2013 チャンピオンシップ大会 アーキテクト部門のようす
距離センサとカメラで対象物を確認し,指定場所に片付ける「お片付けロボット」の実演(レポート記事「技術力×創造力で育て! 世界をリードする組み込みエンジニア ―― ETロボコン2013 チャンピオンシップ大会」より).

 

 

 システム思考ができる人材を育成するのはなかなか難しいです.受講者が持ち帰れるものを提供しようとすればするほど,個々の要素技術の解説になりがちだし,PBL(Project Based Learning)もどこまで口や手を出すべきかが難しい.大学教育でも,社会人向けの講義でも,共通の悩みです.


―― 2008年から2012年にかけて,東海大学 専門職大学院 組込み技術研究科で教授をしておられました.

二上氏:このときも,どうやって組み込みシステム開発を教えようかと考えたのですが,まずソフトウェアに関しては「何百万行のプログラムを作らなければ理解できない,ということはないだろう」,ハードウェアに関しては「少なくとも実際に触ってみないと理解できないだろう」,と考えました.そこで,小さなプログラムを開発してマイコン・ボードに載せたり,秋葉原のパーツ・ショップをめぐるツアーを組んだりしました.


―― AndroidやRaspberry Pi,BeagleBoardなどの教育向けボードを活用することについて,どう思いますか?

二上氏:Raspberry Piやmbedくらいにインターフェースが整えられていると,教材として使いやすいですね.でも,これらを使うことには,二つ問題があると思います.

 一つは,Raspberry Piもmbedも欧州製である,ということです.日本の得意としてきたプリント基板実装レベルの設計で,欧州の設計したものが普及している,「それでいいの?」と思うわけです.日本でもこういうものを作れないわけではないのですが,世界に向けて売り出そうとすると,言葉の壁に突き当たります.マニュアルやドライバ仕様書などのドキュメントを英語で提供できるか? といった部分で勝てないのです.

 もう一つは,全員が一斉に「Raspberry Piだ,mbedだ」と同じ方向に向いてしまうのが大問題だと思っています.日本の人々は,何かあるとピッと皆で同じ方向を向く傾向があります.欧米では,政府が「脱・製造立国」を宣言しても,脈々と製造技術や試作技術を磨き続ける人たちがおり,必要とされるタイミングでそれが生きてきます.日本でも,みんなが右を向いているときに,自分だけは左に行く,ということができる人が増えてほしいです.


―― これからの組み込み技術者は,どのようなスキルを身に付ければよいのでしょうか?

二上氏:これまでもお話ししたように,できている技術者が少ない,ということは,裏返せば「これさえできればナンバー・ワンになれる」ということでもあります.例えば,言葉の壁を越えることです.また,海外にも仲間を作れるようになることです.仲間になるためには,語学力だけでないプラスアルファが必要です.私は,海外にもエンジニア仲間などがたくさんいますが,彼らに「君の英語はひどい.でも,それは問題ではない.君は私たちの考え方を理解している」と言われます.


―― 国際的に渡り合えるようになるために,何をすればよいでしょう?

二上氏:英語でモデルを作ってみる,開発したものをカリフォルニアの企業にでも持ち込んでプレゼンしてみる,などでしょうか.熱意を持って行けば,話を聞いてくれるところはあります.

 技術者一人一人が,護送船団方式ではなく,それぞれ自分の発想力とコミュニケーション力,ねばり強さを持って,海外に売り込みに行けるようになるとよいと思います.海外からは,当社に新しい技術を売り込みに来る零細企業が雲霞(うんか)のごとくあります.それと同じことをできている日本の企業や技術者がいったいどれくらいあるか,考えてみてください.

 

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