技術力×創造力で育て! 世界をリードする組み込みエンジニア ―― ETロボコン2013 チャンピオンシップ大会

磯野 康孝

tag: 組み込み

レポート 2013年11月28日

 2013年11月20日,若手組み込みエンジニアや学生の教育を目的にした「ETソフトウェアデザインロボットコンテスト(以下,ETロボコン)2013 チャンピオンシップ大会」が,組み込み総合技術展「Embedded Technology 2013」の併催イベントとしてパシフィコ横浜(横浜市西区)にて開催された(写真1).主催は組み込みシステム技術協会

 

写真1 「ETロボコンチャンピオンシップ大会2013」会場入り口

 

 

●技術教育の機会を提供してきたETロボコン

 ETロボコンは,若手組み込みエンジニアおよび学生の教育を目的として,2002年に始まった(当初は「UMLロボコン」としてスタートした).今年は全国で363チーム,約2,000名が参加し,9月から10月にかけて,北海道から沖縄までの11地区において地区大会が実施された.本チャンピオンシップ大会は,その地区大会をを勝ち上がった40チームによって行われる頂上決戦なのである(写真2).

 

写真2 「ETロボコン2013 チャンピオンシップ大会」の会場

 

 組み込みシステム分野は,日本の産業競争力になくてはならないカテゴリと言われている.ETロボコンは,この分野における技術教育をテーマに,ソフトウェアの分析・設計モデリングと,もの作りの楽しさの2要素を経験できる機会となっている.参加全363チーム中,企業チームが175チームと半数近い.次に多い大学チームが80チームなので,その倍だ.組み込み業界におけるETロボコンの位置付けがよく分かる数字である.


●新部門を導入し市場創出ができるエンジニアの育成を目指す

 ETロボコンでは,全チームが同じ型のロボット(走行体)を使って競技を行う(写真3).走行体は,LEGO社のマインドストームNXTを同一パーツで規定通りに組み立てたものである.使用するバッテリ(電池)についても,車検後(競技直前)に渡されるオフィシャル・バッテリの使用が義務付けられている.

 

写真3 LEGO社のマインドストームNXTを使った走行体
ETロボコンは,2輪で自立して走行する倒立振子型ロボットを走行体としている.

 

 走行体を制御するソフトウェア・プラットフォームについては,ETロボコン本部技術委員会がサポートする「nxtOSEK」(カーネルはTOPPERS/ATK1)が基本プラットフォームとなっているが,TOPPERSプロジェクトがサポートする「TOPPERS/JSP」や「TOPPERS/ASP」,銀河系はねうまチームがサポートする「leJOS」,アップウィンドテクノロジー・インコーポレイテッドがサポートする「UTOS」なども選択できる.この環境の上で,各チームは設定されたコース上を速く正確に走行(ライントレース)するためのソフトウェアを分析・設計・実装する.

 このように,従来から同一ハードウェアによるワンメイク・レースとして行われてきたETロボコンは,競技の走行タイムと,ソフトウェアのモデリングの完成度を競うモデル審査によって評価が行われてきた.しかし,回を重ねるに従って一部の企業チームなどが常連化し,いわゆるベテランといわれるチーム勢が上位を占めるようになり,初級者の参加が難しくなるという事態が発生した.

 そこで,競技内容を大きく見直し,今年から新たに部門制を導入することとなった.以前までの競技内容を踏襲しながら難易度を下げ,決められたコースを速く正確に走ることを競う初級者向けの「デベロッパ部門」と,参加チーム自身が製品・サービスを企画してテーマ・課題を設定し,開発した完成品を使ってパフォーマンスを観客(審査員)に披露する「アーキテクト部門」だ.

 そこには,昨今の日本経済低迷に連なる技術分野の停滞感や,ETロボコンの目的である技術教育の対象たる若手・初級者層の参加の伸び悩みに対する危機感があるといえる.特に中級者向けの「アーキテクト部門」には創造力やプレゼンテーション能力が求められ,その導入には,技術立国などと言われながらヒット商品に繋がらない日本の製造・開発の現状打破への期待感もにじむ.ともかく,5年後,15年後に世界をリードし,アーキテクチャや製品,サービスを企画し,ビジネスを創り出せるエンジニアの育成を目指すというわけだ.


●難易度を下げたとはいえ,やはり高度な制御が求められる「デベロッパ部門」

 筆者は,2013年9月21~22日に早稲田大学 西早稲田キャンパス(東京都新宿区)にて行われた「東京地区大会」も取材した(写真4).東京地区大会の参加チームは91チーム.参加全チームのほぼ4分の1を占める大激戦区であり,2日に分けて実施された.

 

写真4 ETロボコン2013 東京地区大会のようす
早稲田大学 西早稲田キャンパス(東京都新宿区)にて開催された.

 

 そのときのデベロッパ部門の走行競技に対する印象は,完走すること自体が関門となる難易度の高い競技だ,というものだった.ゴールの先に設定されているボーナス・ステージ(設定された難所をクリアすることで走行タイムが減算される)のクリアはさらに大変だ.ボーナス・ステージの難所の数も昨年より減り,走行競技の難易度は下がっているということだったが,正直なところ,東京地区大会を見る限り,そういう雰囲気は感じられなかった.

 デベロッパ部門の参加チームに求められているのは,課題を速く正確に処理する制御プログラムの開発能力である.事前に行われるモデル審査(写真5)でも,課題解決力(機能実現性)を重視した審査になっているという.

 

写真5 会場の壁に貼り出された参加チームのモデル構成図

 

 なお,東京地区大会からチャンピオンシップ大会に選出されたのは,デベロッパ部門では9チーム(すべて企業チーム),アーキテクト部門では1チーム(大学チーム)の合計10チームであった.


●チャンピオンシップ大会は高レベルな戦いに

 「デベロッパ部門」の走行競技は,競技フィールドに設置されたインとアウトの2コースを,参加チームがそれぞれ1回ずつ走行し,その走行タイムからボーナス・タイムを減算した「リザルト・タイム」を競う.

 コース前半がベーシック・ステージで,スタート直後に坂道がある.東京地区大会では,上りきったところで勢い余って転倒した走行体があった.そこからゴール・ゲートまでの間にはチェック・ポイントとなる四つの中間ゲートがある.ゴール・ゲートを通過すると完走となり,そこまでのタイムが走行タイムとなる.

 ゴール・ゲートから後半がボーナス・ステージだ.そこには,シーソー(アウト・コースの難所,写真6),ルックアップ・ゲート(イン・コースの難所,写真7)という難所が設定されている.最後の難所がガレージイン(指定されたエリア内に尻尾を降ろした状態で完全停止すること)である.ボーナス・ステージでは,時間内での課題のクリアを競う.なお,各ステージともに制限時間は2分だ.制限時間を超えると,ベーシック・ステージではリタイア,ボーナス・ステージではステージ終了となる.

 

写真6 シーソーを通過する走行体〔Joker艮(東北地区,大学)〕
一度渡るとシングル(-5秒),戻って再度渡るとダブル(-10秒)となる.このとき,板の上から降りてはいけない.

 

写真7 ルックアップ・ゲートを通過する走行体〔チームUltraQさま(東京地区,企業)〕
ルックアップ・ゲートは走行体よりも低く設定されているため,尻尾(支持板)を下ろし全体を傾けて通過する.一度の通過でシングル(-5秒),戻って再度通過するとダブル(-10秒)となる.

 

 ボーナス・タイムは,難所の通過以外にも,Bluetoothを使ったリモート・スタートなどによっても与えられる.

 

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