原価と企業のオーバヘッド ―― 物作りあれこれ(2)

村山 建

 「原価」の問題は,企業人なら,いや応なく直面させられるテーマに違いない.終身雇用制のもとで企業内教育が華やかだったころは,技術者の各階層,管理者の各職位に応じて多くの教育カリキュラムが設けられていた.誰だってあらためて教育は受けたくないし,「この俺を教育するつもりか!」という感情で社内研修から逃げ回る.教育担当者は「ブラックリストに乗っていますよ!」と脅しながら出席を迫る.

 ところがこの企業内教育,後になって非常に役に立っている部分があったことを知ることになる.その一つが「原価と原価管理」,もう一つは,似たようなものだが「損益管理」である.「原価」は企業の命綱のようなもので,この値を売価で引いたものを「粗利益」と呼んでいるのは,よくご存じのところであろう.

 粗利益は八百屋でも料理店でも同じことで,50%を割ったら商売にならないと教えられてきた.この知識は,競合価格を即座に決断するときに大変役に立っていた.この製品の受注を受けて経理実績が出た時に,目標原価の±5%に入っていることが経理上の受注責任の一つだったからである.経理担当者はこの結果にいつも厳しい監視の目を注いでいた.

 それはさておき,原価とは,「直接原価管理法によりオーダごとに集められた原価の集積」と定義してよいかと思われる.だから,原価は小さいにこしたことはない.

 確かに原価が小さくなるに従って原価率は向上して利益が上がる.ただし,「限界原価率」という経理上の言葉がある.これは言うならば,経営状態がある状態に陥ると,いくら設計・製造部門が原価の絶対値を下げる努力をしても,それ以上原価率が良くならない,という数字である.この数字を支配する犯人は,不要なオーバヘッドであった.

 企業のオーバヘッドをゼロに出来ないことは,ご存じの通りである.ところがこのオーバヘッドが自然発生的に膨れ上がる事象がある.景気が悪くなると,いずれかの組織の仕事がなくなる,あるいは仕事が減少する.当たり前のことだが,人は本能的に企業の中に自分の居場所を作ろうとする.そして,理由もなく仕事を作る.その結果,不要な組織や不要な人員が増え,オーバヘッドは急激に上昇して,限界原価率を大きく持ち上げる.

 コーポレート・ガバナンス(企業統治)がきちんと行われていればこのようなことは起こらないと言えるのだが,好景気に慣れてしまった日本の企業社会では反省など起こらない.こうなると,例えば普通なら原価100円で作って利益が出たものが,10円で作る努力をしても利益ゼロ,という現象が起こる.この結果,凋落しかかった企業が何万人というリストラに明け暮れる,という姿が目立つようになるのである.

 実体は知らないが,リストラは機械的に行うしかないと思っている.人員枠を決め,希望退職を募って実施する.会社にとって必要な人材を選別できるわけではないだろう.それを思うと,日本の国際競争力の衰退が心配である.

 

 

むらやま・たけし
(株)テクノクリエート

 

 

●筆者プロフィール
村山 建(むらやま・たけし).日本電気(株) 伝送通信事業部 開発部門で一貫してデータ・モデムの開発などに従事.その後,技師長として十数年間,主として北米に駐在.帰国後に(株)テクノクリエート(http://www.techno-create.com/)を創設.同社社長として現在に至る.

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