技術力×創造力で育て! 世界をリードする組み込みエンジニア ―― ETロボコン2013 チャンピオンシップ大会

磯野 康孝

tag: 組み込み

レポート 2013年11月28日

 チャンピオンシップ大会の競技は,先に述べた東京地区大会の印象とは大きく異なり,非常に高レベルな戦いとなった.さすがにチャンピオンシップ大会に出場してくるチームだけのことはあり,ベーシック・ステージを落とすチームはほとんどなかった(写真8).高速走行は当たり前で,レーンをまたいでタイムを稼ぐショートカットを行うチームも多かった.シーソーやルックアップ・ゲートのクリア率も地区大会に比べてはるかに高く(写真9),結果的にリザルト・タイムも1けた台やマイナスのチームが続出し,かなりの接戦となった.優勝したのは「じぇっとあーる(関西地区,企業)」.同チームはモデル審査でも優勝し,総合優勝も勝ち取った.

 

写真8 安定した走りでゴール・ゲートを通過
手前は「MTHS(沖縄地区,高校)」,奥は「追跡線隊ICSレッド(東京地区,企業)」.

 

写真9 惜しくもシーソーで転倒〔CICTube(東海地区,企業)〕
シーソーは最難関のようで,ルックアップ・ゲートに比べてクリア率は低かった.

 

 

●新設「アーキテクト部門」は企画力とプレゼンテーション力が決め手

 続いて行われた「アーキテクト部門」は,デベロッパ部門のボーナス・ステージを取り払い,ベーシック・ステージに続く部分に広大なパフォーマンス・ステージが用意された(写真10).ベーシック・ステージでは走行タイムを競い,パフォーマンス・ステージでは各チームが発案・企画したパフォーマンスを披露する,という流れである.

 

写真10 ボーナス・ステージ部分が広大なパフォーマンス・ステージに変わった

 

 パフォーマンスについての制限はほとんどなく,パフォーマンス・ステージ上にさまざまな構築物やデバイスを配置してもよい.東京地区大会でも,複数の走行体を連携させて動かしたり,大型のロボットを配置して新たなデバイスを走行体にドッキングさせたりと,大掛かりなパフォーマンスを見せてくれた.何を見せるかの企画力と,それらを実現させる開発能力が必須となる競技である.また,企画内容をその場で観客に説明するため,プレゼンテーション能力も必要となる.

 競技は,システムの設置からスタートする(写真11).設置の制限時間は2分.設置の間,これから披露するシステムの概要や狙いなどを観客に説明しなくてはならない.プロモーション・ビデオを流しながらナレーションのようにシステムの説明を加えるチームが多かったが,チーム・メンバらのマイク・パフォーマンスでつなぐ芸達者なチームも見受けられた.

 

写真11 システムの設置も審査の対象となる〔TeamRyomo(北関東地区,企業)〕

 

 設置が完了するとベーシック・ステージの開始だ.走行体が無事2分以内にベーシック・ステージを完走すると,パフォーマンス・ステージに移行する.パフォーマンス・ステージの制限時間も2分で,時間内にパフォーマンスを完了させる必要がある.そして,パフォーマンス完了後,1分の制限時間内にシステム撤収を完了させると競技終了,ということになる.システムの設置から撤収までが審査対象となる競技なのである.

 また,評価についてもユニークな方法が取られた.評価点400点の配分は,事前に行われる企画審査(企画内容を見る)に100点,一致性審査(当日のパフォーマンスと企画書内容との一致を見る)に100点,魅力審査(当日のパフォーマンス度.どれだけすごいと思わせたか)に200点となっているが,評価の半分を占める魅力審査の判定は,実行委員会の審査員ではなく,観客から選んだ一般審査員と業界見識者である特別審査員が行ったのだ.システムの完成度が高くても,観客をあっと言わせなければ評価点が低くなる.つまらないサービスにユーザは関心を示さない,という現実を突きつけるような評価方法だ.

 チャンピオンシップ大会のアーキテクト部門に出場したのは13チームである.音声入力で走行体の動作を指示したり,距離センサとカメラで対象物をとらえて指定場所に移動させたり(写真12)というように,実際の組み込みシステムで使えそうなシステムのパフォーマンスが目立った.

 

写真12 アーキテクト部門で披露された「お片付けロボット」〔SpecialBoys(東海地区,企業)〕
距離センサとカメラで対象物を確認し,アームで捕捉して指定場所に片付けるというパフォーマンスである.走行競技を行う走行体とは別の走行体を使用している.

 

 その中で個人的に面白いと思ったのは,アーキテクト部門で東京地区大会から唯一進んだ「松浦Lab-Arch(大学)」の,Webサービスを使って走行体を誘導する「ETスイカ割り」というシステムである.観客に自分のスマートフォンを使ってWebサービス(同チームのノート・パソコン)にアクセスするよう呼びかけ,参加ユーザの力で走行体を誘導し,スイカ割りを成功させた(写真13).会場を巻き込むパフォーマンスで,魅力審査では147.5点と高い点数を獲得していた.

 

写真13 アーキテクト部門で披露された「ETスイカ割り」〔松浦Lab-Arch(東京地区,大学)〕
観客がスマートフォンに表示される矢印を使って方向を指示すると,同チームのノート・パソコンからBluetooth経由で走行体に指示が届き,走行体が移動する.

 

 アーキテクト部門は新設ということもあり,どういう形になるのか不安があった.特に,東京地区大会のパフォーマンスを見る限り,企画内容と当日の一致性が低く,やるべきことがやれないというチームが多かったからだ.チャンピオンシップ大会の場でも,地区大会ほどではないにしても同様の傾向が見られた.また,プレゼンテーションによるアピール度が低いために,企画内容とどれだけ一致しているのかが分かりにくいケースもあった.実際には複雑な制御をしているのに説明が足りず,はた目から見ると完成度が低いようにしか見えないと,魅力は一気に下がってしまう.

 逆に,企画的には注目度は低いと思われるのに,大掛かりなガジェットや演出で観客にアピールし,会場を沸かせていたチームもあった.企画審査と一致審査の点数は会場では非公開だったので何ともいえないが,魅力審査とのバランスも含め,評価方法は今後も議論されていくだろう.もっとも,最終結果を見れば,それなりに納得のいくチームが上位に入っており,1回目としてはまずまずだったのではなかろうか.アーキテクト部門では,「SpecialBoys(東海地区,企業)」と「男子力∞MAKOTO(中四国地区,高専)」の2チームが同点で優勝した.

 組み込みシステム開発分野の発展は,日本の産業界には不可欠な要素であり,それを下支える技術教育というテーマは重い.来年度以降のETロボコンについても目が離せない.


いその・やすたか

 

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