自動化ツールと情報技術の変革が大規模ソフトウェアの開発を支える ―― MATLAB EXPO 2013 Japan

福田 昭

tag: 組み込み 半導体

レポート 2013年11月 8日

 制御系ソフトウェア開発ツール群「MATLAB/Simulink」の開発企業である米国MathWorks社の日本法人マスワークスジャパンは,2013年10月29日,顧客向けの講演会兼展示会「MATLAB EXPO 2013 Japan」を東京・お台場の「ホテルグランパシフィックLE DAIBA」にて開催した(写真1).

 

写真1 会場のホテルグランパシフィックLE DAIBAに貼られていた「MATLAB EXPO 2013 Japan」のポスター

 

 

 「MATLAB EXPO 2013 Japan」の講演会は,午前に全体講演である基調講演セッションを開催し,午後は七つの講演会場に分かれて技術講演のトラックを開催する,という流れで実施された.講演会場を結ぶロビーは展示会場となっており,The MathWorksとパートナー企業による製品展示や技術展示などが行われていた(写真2).

 

写真2 「MATLAB EXPO 2013 Japan」の展示会場.大勢の来場者で大混雑していた

 

 

●複雑化するシステム開発に対処

 基調講演セッションは,1件の挨拶と,2件の講演で構成されていた.まずマスワークスジャパンの社長を務める梨澤 利隆氏が挨拶し,顧客向けイベント「MATLAB EXPO」が今回で12回目であること,日本法人が発足してからは5回目(以前は総代理店のサイバネットシステムが主催していた)に当たること,などを説明した.

 続いて米国本社でDesign Automation Marketing Directorを務めるPaul Barnard氏が,「Embracing Complexity~複雑性を受け容れる」と題して講演した.ここで「Complexity(複雑性)」とは,複雑な現実世界そのものを意味するとともに,システム開発がますます複雑になっていることを意味する.複雑化するシステムを設計したり,複雑化する現実の事象を解析したりするためには,どのような手法があるのかを解説した.

 Barnard氏は,三つのプラットフォームが複雑性に対処するために重要だと述べていた.一つは「コラボレーション」を目的としたプラットフォームである.ここでコラボレーションとは,専門の異なる複数のエンジニア(あるいはエンジニアのチーム)が協調して働く(コラボレーションする)ことを意味する.もう一つは,「モデリングとシミュレーション」を目的としたプラットフォームである.システムの振る舞いや現実の事象などをモデル化し,シミュレーションによって解析する.最後の一つは,「自動化」を目的としたプラットフォームである.設計作業や検証作業などを自動化することで,工期を短縮したり,工数を減らしたりする.

 これら三つのプラットフォームのすべてに,「MATLAB/Simulink」のソフトウェア・ツール群が関わってくる.例えば自動車の適応巡航制御(アダプティブ・クルーズ・コントロール)システムの開発には,エンジン制御や横滑り防止制御,ブレーキング制御などの複数の開発チームが協業する必要がある.各開発チームが設計プラットフォームに「MATLAB/Simulink」を利用することで,協業が容易になる(写真3).

 

写真3 「コラボレーション」を目的としたプラットフォームの例.自動車の制御システム開発

 

 

●情報技術の「見えないイノベーション」が生活を劇的に変える

 続く基調講演の2件目では,ユーザ企業を代表して,NTTコミュニケーション科学基礎研究所の所長を務める前田 英作氏が,「基礎研究の現場から眺めた情報技術の見えないイノベーション」と題して講演した.

 一般の人々からは,情報技術のイノベーションは見えにくい.人々の生活をいつの間にか大きく変えてきたのが,情報技術のイノベーションであるにも関わらず,である.情報技術の世界では10年に1度くらいの頻度でものすごいイノベーションが起きているのだが,情報技術の研究開発コミュニティですら,そのことにすぐさま気付くのは,ほんの一部の人々だけだ.前田氏はこのような現実を提示し,情報技術の「見えないイノベーション」と呼んでいた.

 言い換えるとイノベーションにおいて「情報技術」は,「特別な位置にあり」,「市場からは見えず」,「市場価値を予測できず」,さらにはイノベーションが始まった「起点は後になって分かる」といった特徴を有するという.

 そして情報技術の「見えないイノベーション」の事例をいくつか紹介した.最初の事例は,音声認識技術である.2011年1月に,衆議院議会録の速記作業が半自動化された.国会審議の音声を認識して自動的にテキスト化するシステムを,本格的に運用し始めたのである(写真4).この音声認識技術のイノベーションは,2003年の超大語彙(ごい)音声認識技術(100万語の音声を認識する技術)の開発に遡る.「重み付き有限状態トランスデューサ(WFST:Weighted Finite State Transducers)」と呼ばれる,状態遷移マシン技術の開発がベースとなっている.

 

写真4 衆議院の審議音声を認識して自動的にテキスト化した画面の例

 

 それから,音声の残響制御技術「REVTRINA」を挙げていた.マイクで収録する音声には,発生源からマイクに直接届く「直接音」と,物体に反射してからマイクに届く「残響」が含まれている.オーディオCDやDVDオーディオなどの録音された音声から,直接音と残響を分離する技術が「REVTRINA」である.

 このほか,メディア探索技術「RMS」や日本語質問応答システム「SAIQA」,発話抽出システム,プライバシの数理表現などを事例として挙げていた.

 

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