動き回るピンポン玉をロックオン,1本1本の毛を自在に制御...製品化前のコンテンツ技術を披露 ―― デジタルコンテンツEXPO 2013

磯野 康孝

tag: 組み込み

レポート 2013年11月12日

 2013年10月24~26日,コンテンツ技術をテーマとした国際イベント「デジタルコンテンツEXPO 2013」が日本科学未来館(東京都江東区)において開催された(写真1).主催は経済産業省と一般財団法人デジタルコンテンツ協会

 

写真1 会場入り口の様子

 

 

 クールジャパンの中核をなすアニメやゲームといったコンテンツ産業発展の原動力となってきたのが,コンテンツの制作や表現を支援するコンテンツ技術である.CG(コンピュータ・グラフィックス)や仮想現実(Virtual Reality),3次元(3D)といった技術は言うに及ばず,新技術の研究開発も活発に行われており,芸術やコミュニケーションの分野にも大きな影響を与えている.今後は,医療やロボットなどの産業分野に応用することで,新たな市場開拓の起爆剤となることが期待されている.

 本イベントは,そのようなディジタル・コンテンツの分野にかかわる研究者やクリエータ,企業関係者などが集まる一大イベントである.特に,製品化以前の研究開発段階にある各種新技術やプロトタイプ・システムにスポットを当て,ディジタル・コンテンツ産業の将来像を描き出すことが重要命題とされている.

 

●激しく動く物体を画面の中心にとらえ続けるオートパン・チルト技術

 東京大学 石川・奥研究室は,動き回る物体を画面の中央にとらえ続け,あたかも止まっているかのように撮影できる技術「1msオートパン・チルト」を展示した(写真2).ここでは,被写体にカメラの視線方向を自動で向けることを「オートパン・チルト」と呼んでいる.

 

写真2 東京大学 石川・奥研究室の「1msオートパン・チルト」
手前が録画・表示用のビデオカメラ,上部にあるのが高速度カメラ.

 

 

 動画撮影時,動きのある被写体を画面に収めるためには,カメラを雲台(回転ステージ)に固定して雲台ごと横方向に回転させる(パン),または縦方向に回転させる(チルト)という方法が一般的である.しかし,ピンポン玉のように急速に加減速を繰り返す物体を被写体とする場合,雲台方式で対象を追い続けるのは難しい.同研究室が開発した本技術では,カメラ自体を動かすのではなく,サッカード・ミラーと呼ばれる独自の光学デバイスと高速度カメラを組み合わせた新たなユニットを使用する.

 サッカード・ミラーは,いわゆるハーフ・ミラー(半透鏡)を複数組み合わせたものであり,そのミラー部分を被写体の動きに合わせて高速に動作させる(写真3).最初に被写体を高速度カメラに認識させ,高速度カメラは被写体の動きを1/1000秒に分解し,その情報を使ってサッカード・ミラーを制御している.

 

写真3 本システムの「サッカード・ミラー」
「1msオートパン・チルト」の心臓部ともいえる部分.

 

 

 実際に,ピンポン玉を使ったデモンストレーションを行っていた(写真4).目の前で激しく動いているピンポン玉が画面中央に静止したように映し出されている映像を見て,新しい映像表現の可能性を感じた.スポーツ関連の映像コンテンツへの応用はもちろん,瞬時に物体の動きを判断する必要のある映像取得装置,例えば,車の自動走行を補助するシステムや産業用ロボットなどでの応用などが考えられそうだ.

 

写真4 ピンポン玉を使ったデモンストレーション
被写体の動きを高速度カメラで分析しているため,強めの照明がたかれている.

 

 

 なお本技術は,「特にデジタルコンテンツ分野以外の産業分野への波及・応用が期待される技術」として,「Innovative Technologies 2013 特別賞」を受賞した.


●光を当てると毛がなびく?! 柔軟な触覚インターフェースを展示

 電気通信大学 大学院情報システム学研究科 野嶋研究室は,生物を連想させる新しいインターフェースとして,形状記憶合金を使ったアクチュエータの集合体「Hairlytop Interface」を展示した(写真5).また,本技術の商品化を目指すシンフォディア・フィルが,本技術を応用したデモンストレーション機を展示した.

 

写真5 電気通信大学 大学院情報システム学研究科 野嶋研究室の「Hairlytop Interface」
写真左が「Hairlytop Interface」,写真右が毛を実装したもの.下に敷いたタブレットの映像光に反応して動作する.

 

 

 Hairlytop Interfaceを構成する各アクチュエータは,形状記憶合金が入った細いシリコン・チューブと光センサ,駆動回路がセットになっており,光センサが検知した光の量によってチューブが曲がるしくみ.チューブの曲げ伸ばしの動きが生物を連想させる.また,曲がったときに先端がほのかに暖かくなるため,より生物に近い感じを出すことができる.チューブの直径は約3mm,重さは1本約1gと小型軽量であるため,動物型ロボットなどへの適用が簡単だ.

 ディジタル・コンテンツのユーザ・インターフェースとして毛状のものはこれまでも開発されてきているが,本技術は,既存技術では制限が多かった毛の密度を向上した.また,1本ごとに制御できる点も新しい.

 一方,シンフォディア・フィルは,本技術を実装したぬいぐるみや,タブレットにインストールされたアプリと連動する装置などを展示していた(写真6).こちらは,音や色,磁気などでチューブを制御していた.

 

写真6 シンフォディア・フィルのデモンストレーション展示「ワン・ダ・フル」
タブレットのイヤホン・ジャックに,毛をつけたHairlytop Interfaceが装着されている(耳をイメージしているとのこと).アプリに喜びや怒りを指示すると,内容に合わせて毛状部分(チューブ部分)が動作する.

 

 

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