掃除機型ロボット制御で組み込みの新分野を切り開け! ―― ESSロボットチャレンジ2013

磯野 康孝

tag: 組み込み

レポート 2013年10月24日

 2013年9月~10月にかけて,「ESSロボットチャレンジ2013」が開催された.主催は情報処理学会 組込みシステム研究会.本イベントは,例年10月ごろに開催される「組込みシステム シンポジウム」(2013年は10月16~18日に開催)の特別企画として企画されたロボット・コンテストである.今回は,九州大学らが取り組む人材育成プログラム「分野・地域を越えた実践的情報教育協働ネットワーク・組込みシステム分野九州大学事業(通称PEARL)」と連携して開催しており,4月27~28日に九州大学と東海大学高輪校舎にてスプリング・スクールを行ったほか,9月2~3日に競技会を,10月16~18日にデモンストレーション競技とポスタ発表を実施した.ここでは,9月2~3日に開催された競技会を中心にレポートする(写真1).

 

写真1 「ESSロボットチャレンジ2013」の競技会のようす
2013年9月2日~3日に東海大学高輪校舎(東京都港区)において開催された.

 

 

●課題は掃除機型ロボットの制御

 「ESSロボットチャレンジ」は組み込みシステムを支えるさまざまな分野で研究開発や教育に携わっている人々が主体となって企画・運営しており,若手の技術者,研究者を育成することに主眼を置いた内容となっている.そもそも組み込みシステムは,機械系や電気電子系,ソフトウェア系と多岐にわたる分野を基盤としており,分野間のコミュニケーションはなかなか簡単ではない.そのような状況を打破するために,一つのテーマに集うことで分野間のコミュニケーションを容易にし,人材の育成や新分野の開拓,次世代を担う技術の創造を目指したのが「ESSロボットチャレンジ」だという.

 競技内容は,2012年までは小型飛行船の飛行制御であった.「与えられた課題を解決する能力の育成」をテーマに,指定されたエリア内での自律航行による離着陸および静止,高度を維持しながら指定した航路を正確に飛行するといった基本航行競技と,あらかじめ設定(告知)された障害物を回避しながら航行する複合航行競技などによって構成されていた.しかし,小型飛行船は微妙な空気の流れにも反応するため,単純な制御では思うように飛行させることができず,難易度の高い競技だった.

 今回のテーマは,PEARLと連携したこともあり,「未知の問題を見出し解決できる発展的な問題解決力の育成」と設定し,競技内容を自動掃除機型ロボットの自律走行制御(スマート・モバイル・ロボット競技)とした.使用するロボットは,韓国Yujin Robot社の研究用移動ロボット「Kobuki」である(写真2).側距用の赤外線センサやジャイロ・センサ,各種圧力センサと,汎用入出力端子(D-SUB25ピン),USB端子などを備える.前後のキャスター2個と左右の2輪(駆動輪)で接地,駆動するようになっている.

 

写真2 韓国Yujin Robot社の「Kobuki」

 

 


 実は,小型飛行船を使った競技については,2012年の段階で飛行船に充填するヘリウム・ガスの供給量が国際的に極端に減少したため,翌年以降の代替競技が検討されたという経緯がある.現時点では,ヘリウム・ガスの供給量は元に戻りつつあるが,将来の枯渇問題が解決されたわけではないので,最終的に新たな競技を設定したという.ただ,小型飛行船による競技を継続して研究しているグループもあるとのことで,今回は飛行船のデモンストレーション飛行を行ったチームもあった.今後の飛行船競技の実施については未定だという.


●自律走行で地図を作成,開発方法論は任意

 2013年9月2日~3日に東海大学高輪校舎(東京都港区)において開催された競技会には,関東学院大学,九州大学,群馬大学,芝浦工業大学,東海大学,東京電機大学,東京都市大学,徳島大学,南山大学,横浜システム工学院専門学校の10校が参加した.競技は「コンパルソリ部門」,「ベーシック部門」,「アドバンス部門」の3部門で構成されている.コンパルソリ部門とベーシック部門は全チームの参加が義務付けられており,アドバンス部門は希望チームのみの参加となる.

 コンパルソリ部門では,ロボットの正面に充電器を備えたドッキング・ステーションを置き,そこに到達するまでの時間を競う.制限時間3分以内なら何回でもチャレンジが可能で,基本的な制御や処理ができているかどうかを確認するための競技である.

 ベーシック部門では,内容が一挙に高度になる.制限時間10分以内に,以下のミッションを行わなければならないのだ.

  1. 用意された競技フィールド(4m×4mの平行四辺形)内を走行して地図を作成する.
  2. 競技フィールド内に設置されている2個のドッキング・ステーションを巡回し,2個目のドッキング・ステーションで停止して,充電モードに移行する.

 会場には二つの競技フィールドが設置されており(写真3),参加チームは両フィールドを1回ずつ走行する.競技フィールド内にはドッキング・ステーション以外に4個の障害物が設置されており,そのうち2個の位置は走行ごとに変化する.ドッキング・ステーションはL字型に組まれたブロックの裏に配置されており,一筋縄ではいかない状況が設定されている(写真4).ロボットは1チーム2台まで使用できる.スタート地点はフィールド内の任意の位置だ.

 

写真3 二つの競技フィールドが設置された競技会場

 

 

写真4 競技フィールド内には2個のドッキングステーションと4個の障害物が設置されている

 

 

 この競技では,競技フィールドの全体形状,ドッキング・ステーションや障害物の位置などを記録し(距離,角度),それを地図として描画しなくてはならない.どのように競技フィールドを走行させ,障害物を認識,記録するのか,参加チームのアプローチはさまざまだ.単純に前進と後退を繰り返し,エリアを塗りつぶすように外壁や障害物の位置を確定していく動作をするロボットもあれば,センサで障害物の存在を認知し,その方向に走りながら距離を測定,記録するという複雑な動作をするロボット,地図作成よりもドッキング・ステーションの発見と停止を優先しているロボットもある.多様な要素技術が詰め込まれていることが実感できる競技だ(写真5写真6).

 

写真5 ノート・パソコンを載せて走行するロボット
無事ドッキング・ステーションに接続したところ.

 

 

写真6 制御用パソコンを手元に置いて状態を確認するチームも

 

 

1  2  »
組み込みキャッチアップ

お知らせ 一覧を見る

電子書籍の最新刊! FPGAマガジン No.12『ARMコアFPGA×Linux初体験』好評発売中

FPGAマガジン No.11『性能UP! アルゴリズム×手仕上げHDL』好評発売中! PDF版もあります

PICK UP用語

EV(電気自動車)

関連記事

EnOcean

関連記事

Android

関連記事

ニュース 一覧を見る
Tech Villageブログ

渡辺のぼるのロボコン・プロモータ日記

2年ぶりのブログ更新w

2016年10月 9日

Hamana Project

Hamana-8最終打ち上げ報告(その2)

2012年6月26日