エンジニアに必要なのは現状理解と判断力 ―― 人材育成の小集団活動「清水塾」を主宰する清水 洋治氏に聞く

Tech Village編集部

●「自社は弱いが魅力のある市場」を探せ

―― 市場理解について,具体的に教えてください.

清水氏:「私は外を見ています」と言う社員でも,自社製品の顧客までしか見ていない,ということがよくあります.見るべきは顧客ではなく,その先の市場です.われわれのような業種だと,国内市場だけでなく,世界市場を見る必要があります.

 「シェアが何%」という数字より,実際に市販されている製品を分解し,基板を見てみると,現実のシェアがどのようなものかを肌で感じられます.

 この図を見てください(図1).市場を「自社の強さ」と「市場の魅力度」で9分割したとき,自社に強みがなく,市場にも魅力がなければ,撤退するべきです.しかし,撤退する,という判断が遅く,ずるずると続けてしまうことが多いのです.例えば,テレビを開発して20年,という人が「テレビの開発をやめよう」と言うには相当勇気がいります.自分は「テレビ屋だ」,「回路屋だ」と名乗ってしまうと,そこからなかなか離れられなくなります.

 「'私はAである'と言うな,決めるな,変数Xになれ」 ―― これが私の持論です.そして,なんでも屋の変数Xであるほうが,良い設計ができると感じています.それは,ゴール設定に従って設計を決めていくだけなので,迷わないからです.


図1 市場の捉え方

 

 

清水氏:この図の中で,若いエンジニアにしごとをしてほしい領域は,左上の「市場に魅力があり,自社が弱い」領域です.右上の「市場に魅力があり,自社が強い」領域は,今までのやり方を変える必要はありません.文字通り「死守」で,おもしろくありません.また,この領域は,少しずつゆっくりと下に落ちてくるものです.一方,左上は,市場に魅力があるのですから,右上の領域に持って行ける可能性があります.

 日本はやがて,超高齢化社会になります.現在も展示会などで介護ロボットが発表されていますが,例えばそれが100万台超の市場になるには,どんなハードルを超えればよいのか? というのも,左上の領域だと思っています.


―― 市場の理解や選択でも「早い」ことが重要なのですね.

清水氏:はい.先進国は,先行立ち上げでもうけていく社会です.早いことが重要で,早くないと機会を損失してしまう.早く決断するために,現状理解,市場理解が重要なのです.市場理解の上で決めたことなら,たとえそれが空振りしても,次に生かせます.

 日本製品は品質が高いと言われます.その高い品質は,ルールに支えられています.そこで,「正しいルールは守る,しかし迷ったら早いほうを必ず選ぶ,迷ったら小さいほうを必ず選ぶ」ことを習慣づければ,早い組織になれるでしょう.迷うということは,どちらも正しいということです.もし,早いほう,小さいほうを選べないのなら,そもそも迷う必要はなかったということです.


●ストーリを作る

―― エンジニアが今日からできることは何でしょう?

清水氏:私は「ストーリ作り」が重要だと考えています.ストーリ作りとは「いつまでにこれを達成したい」,「○歳までに自分はこうなっていたい」などのゴール設定や人生設計です.ストーリ作りなしに人生の時間を使ってしまっている人が多いように思います.

 例えば,自分の干支を目安にして,自分のストーリを作ってみることを勧めます.「24~36歳までにこれを実現しよう」などです.そして,自分よりも10歳上や10歳下の世代の話を積極的に聞いてみてください.10歳という年齢を超えるマインドセットを持つようにしてください.

 ストーリを作ること,そして,そこまでのプランを考えること.これが重要です.私は,発表スライドやストーリを絵で表現することが多いのですが,それは,ぱっと見て認識を共有しやすいからです.そして,認識が同じであれば,ゴール設定も立てやすくなります.

 私は,塾生や若手エンジニアに,「ゴールは何? パートナ(顧客,市場)はだれ? もうかりますか?」を問い続けてほしい,といつも伝えています.ゴールが明確になれば,モチベーションが上がります.また,人に言えないゴールなら,ただの妄想かもしれません.相手とゴールを共有できれば,その人とパートナになれるかもしれません.また,パートナ作りの中で,相手との対話やあいさつ,自分の意見表明などが必要となるので,自然としごとをするための人格形成が行われます.そして,やはり,続けていくには「もうかる」ことが必要です.もうかるとは,金銭のことだけでなく,人生を豊かにするという意味でとらえると,ビジネス以外のいろいろなことに当てはまると思います.

 また,エンジニアは,専門性を高めようとしがちですが,「集合知は専門知を超える」という言葉も知っておいてほしいと思います.専門性を高めるのはよいのですが,クラウドやビッグ・データなどに代表される集合知の世界にも入っていってほしいと思います.

 

«  1  2
組み込みキャッチアップ

お知らせ 一覧を見る

電子書籍の最新刊! FPGAマガジン No.12『ARMコアFPGA×Linux初体験』好評発売中

FPGAマガジン No.11『性能UP! アルゴリズム×手仕上げHDL』好評発売中! PDF版もあります

PICK UP用語

EV(電気自動車)

関連記事

EnOcean

関連記事

Android

関連記事

ニュース 一覧を見る
Tech Villageブログ

渡辺のぼるのロボコン・プロモータ日記

2年ぶりのブログ更新w

2016年10月 9日

Hamana Project

Hamana-8最終打ち上げ報告(その2)

2012年6月26日