ミドルウェアと受託開発の技術蓄積を基にスマート・アグリ事業へ進出 ―― 組み込みネット新春インタビュー(3) データテクノロジー

Tech Village編集部

tag: 組み込み

インタビュー 2013年1月 9日

Tech Village「組み込みネット」では,新春特別企画として,「2013年,組み込み技術の展望」をお届けします.本企画は,2013年の技術動向や産業動向を紹介する目的で,組み込み関連企業などにインタビューを行いました.第3回は,データテクノロジーの井出 一寛氏と阿部 守氏(写真1)に,同社の新しい事業への取り組みと2013年の組み込みミドルウェアの動向について話を伺いました.(Tech Village編集部)

 

写真1 データテクノロジー Cente事業部 営業部 部長の井出 一寛氏(左)と,同社 開発部 部長の阿部 守氏(右)



 

―― データテクノロジーはどのような会社ですか?

阿部氏:当社は,1993年に組み込み向けの開発ツールを取り扱う商社としてスタートしました.当時,複数メーカのICEやデバッガなどを取り扱う会社は少なかったと思います.2000年前後から,ファイル・システムに対する要求がユーザからあり,組み込み系のミドルウェアにビジネス・チャンスがあると感じました.その後,TCP/IPプロトコル・スタックとOSごとのデバイス・ドライバを揃えて,現在の「Centeミドルウェアシリーズ」につながりました.TCP/IPプロトコル・スタックそのものは当社の製品ではありません.システム・ハウスであるビー・ユー・ジーがエヌ・ティ・ティ・テレコムエンジニアリングと共同開発したISDNルータ「MN128」の開発資産の中から,当社が再利用可能なミドルウェアとして切り出したものです.

井出氏:当社の特徴は,スタートが商社だったということもあり,当社にない製品や技術について,ほかの企業が開発したものを導入している点です.もしくは,共同で開発し,長くパートナとして仕事を続けているところです. 今年で創業から20年になりますが,メーカと商社が融合したスタイルの会社となっています.

 

―― 2012年からスマート・アグリ用途のセンサ機器の販売を開始されました.

井出氏:当社には,開発ツールを販売する商社業務,ミドルウェアを開発・販売するメーカ業務,それと,OEMとして受託開発を行う業務があります.受託開発の中ではハードウェアやソフトウェア,筐体などの設計,および量産を行っています.その受託開発の経験を生かして,約1年半前にシステム製品事業を立ち上げました.

阿部氏:現在はミドルウェア製品を中心に扱っており,この事業はこれからも続けていきます.しかし,ここ数年でミドルウェアのコモディティ化が進んでいます.今の組み込み機器は,32ビットCPUを使用して開発されています.それらの機器の多くには,TCP/IPプロトコル・スタックが搭載されています.以前と比べると,TCP/IPプロトコル・スタックの価値が下がっています.ミドルウェア単体の事業では市場の広がりに期待が持てません.そこで,エンド・ユーザに直接製品を届ける新しい事業展開を図りました.新しい事業といっても,これまでに当社が培った技術を応用したものです.

 

―― どのようなシステム製品を開発しているのでしょう?

井出氏:SenSu(センス)」という通信ユニットです.中身を見ると,組み込みシステム関連の企業であれば作れる製品だと思います.しかし,センサ・ユニットと組み合わせて,システムとしてまとめて提供するところは少ないと思います.その理由は,当社くらいの規模の企業にとって,手ごろな事業だからです.大企業が手がけるには,規模的に小さすぎます.また,システム販売だけの会社であれば,通信ユニットを設計できません.

 この通信ユニットには,もちろん当社のミドルウェアを使用して開発しています.通信方式はMVNO方式を用いたNTTPCコミュニケーションズの「Master's ONE」を採用しており,当社はこの通信網の代理店でもあります.さらに,このシステム向けのサーバも用意しました.このように,自社の技術と資産を活用しており,当社が手がけるのに最適なシステムだと考えています.

 この事業を展開する1年前に,もう1ステップありました.それは,ボード・ビジネスです.ジー・ティーのボードに,μITRONと自社のミドルウェアを実装して販売しました.このボードを今回の通信ユニットに使用しています.

 

―― どのようなアプリケーションを想定しているのですか?

井出氏:センサで情報を集め,集めた情報をサーバに送り,サーバで情報を管理して制御するシステムです.監視と制御が可能となります.想定しているアプリケーションは,例えば,ビニール・ハウスにおける生産管理です.

 当社では,2年前に,新規ビジネスについて検討する会議を行いました.当社では中国から輸入する製品が多くあります.そこで,反対に中国に輸出できるものを考えていたところ,付加価値の高い農作物がある,という意見が出ました.しかし,当社がアグリ・ビジネスをいきなり始めるのは容易ではありません.それならば,このビジネスに当社が協力できることは何かを考えました.それが,センサとネットワークを利用した生産管理だったのです.また,付加価値を上げるには,これから設備投資が必要になります.そこで,今回のシステムを,スマート・アグリ向けに提供することを決定しました.

阿部氏:農業はこれから海外商品との競争になり,何らかの効率化を図らなければならない産業だと考えています.農業関連の大学や研究機関にヒアリングした結果,ITで改善できる個所が多くある分野だと確信しました.ビニール・ハウスについては,温度管理などがシビアに行われており,これを人手で行うのは大変だと思います.しかし,温度だけを監視・制御すればよいのではなく,鳥獣被害やさまざまな被害に関する監視が求められていると分かりました.被害額は当社が考えていた以上に大きく,この1/10程度の出費で被害を防げるのであれば,システム導入を検討する,と生産者の方からお聞きしています.

井出氏:2012年にいくつかの展示会で,SenSuを展示しました.カタログには,「ビニール・ハウス」,「ゴルフ場」,「遠隔操作」,「庭」などの使用例を掲載しました.その中でやはりビニール・ハウスについての問い合わせが多くありました.今年はこの通信ユニットを使用したスマート・アグリの案件が出てくると思います.

 

―― 最後に2013年のミドルウェア技術について,どのような動きがあると予測していますか?

阿部氏:セキュリティ製品への関心が高くなると思います.当社の製品でいうと,「Cente SSL」や「Cente Compact SSL」です.Cente SSLは,OpenSSLベースのコードにITRONのラッパを被せたものです.OpenSSLはUNIX系やWindows系などで使われていたので,機能は豊富ですが,コード・サイズが大きく,組み込み機器には向かないと思います.そこで機能を絞り,組み込み機器に利用していただくためにCente Compact SSLを3年前に開発しました.OpenSSLはオープン・ソースなので情報が公開されています.情報が開示されているからといって解読されるわけではないのですが,セキュリティについてはオープン・ソースであることを懸念するユーザもいます.そこで,Cente Compact SSLは当社で一から開発しました.

 HEMS(Home Energy Management System)で利用されるECHONET Lite注1への関心も高まっています.もともとECHONETという規格があったのですが,仕様が広範囲に決められて使いづらいところがありました.2011年12月に制定されたECHONET Liteは機器間の通信仕様だけが決められていて,物理層は自由に選択できるので,利用しやすいと思います.また,経済産業省が国内のHEMS標準プロトコルとして認定したことで注目を集めています.

注1:ECHONET Liteとは,エコーネットコンソーシアムが策定した通信プロトコル.HEMSや家電,スマート・メータをつなぐのに利用されている.

 このECHONET Liteは,UDP(User Datagram Protocol)を使用する想定となっています. ECHONET Liteでセキュアな通信を行うために,DTLS(Datagram Transport Layer Security)との組み合わせも検討されています.2013年はこのようなミドルウェアに注目が集まると思っています.

 

 ●参考URL
(1) データテクノロジー;Centeミドルウェアパッケージシリーズ
(2) ビー・ユー・ジー;ビー・ユー・ジーのWebページ
(3) ネヌ・ティ・ティエムィー;MN128シリーズ・ラインナップ
(4) データテクノロジー;SenSuのWebページ
(5) エヌ・ティ・ティピー・シーコミュニケーションズ;Master's ONEのWebページ
(6) ジー・ティー;ジー・ティーのWebページ
(7) データテクノロジー;Cente SSLのWebページ
(8) データテクノロジー;Cente Compact SSLのWebページ
(9) エコーネットコンソーシアム;ECHONET Lite規格書 Ver 1.01
(10) エコーネットコンソーシアム;エコーネットコンソーシアムのWebサイト
 

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