ユビキタスIDセンター仕様RFIDタグの実用化に向けた動きが活発に ――TRONSHOW2004

組み込みネット編集部

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レポート 2003年12月26日

 2003年12月11日~13日,東京国際フォーラム(東京都千代田区)にて,T-Engineフォーラムとトロン協会が主催する「TRONSHOW2004」が開催された(写真1).T-Engineフォーラムは,2003年3月に電子IDの基盤技術の開発と普及を目指す「ユビキタスIDセンター」を設立している.また,同フォーラム内に次世代携帯電話向けの「Wireless T-Engine WG」など,三つのワーキング・グループを新設した.TRONSHOW2004ではこれらの活動成果として,ユビキタスIDセンターが策定した標準IDタグの認定を受けた凸版印刷のRFIDチップ「Tjunction」や日立製作所のRFIDチップ「ミューチップ」のデモンストレーションに人だかりができていた.NTTドコモが開発したWireless T-Engine仕様にのっとった携帯電話向けリファレンス・ボードなどの展示も注目を集めていた.

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[写真1] TRONSHOW2004
2003年12月11日~13日,東京国際フォーラム(東京都千代田区)にて「TRON SHOW 2004」が開催された.今回のテーマは「ユビキタス TRONに出会う」.

●ユビキタスIDセンター標準仕様RFIDチップの実用化,2004年中が目標

 凸版印刷は,RFIDチップ「Tjunction」と専用の読み取り装置(スキャナ)のデモンストレーションを行った(写真2).本RFIDチップは,2.45GHzとUHF帯(800MHz~950MHz)の周波数帯に対応している.スキャナからRFIDチップへはASK(amplitude shift keying)変調が,RFIDチップからスキャナへはFSK(frequency shift keying)変調が用いられている.1KビットのEEPROM(ユーザ領域は896ビット)が内蔵されている.製品化したときの外形寸法は1.0mm×1.0mm×0.15mmとなる予定.

 RFIDチップの回路設計は同社が行ったが,RF部の回路技術についてはテレミディックからライセンスを受けている.テレミディックは,NECの社内ベンチャ企業であり,主に電子楽器や通信機器の設計開発などを行っている.製造はシンガポールのChartered Semiconductor社に委託した.2004年3月までに本RFIDチップの発売を開始する予定.同社が得意とする印刷物に本RFIDチップを埋め込んで流通させていきたいという.例えば,パスポートや有価証券などにおける需要を見込んでいる.

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[写真2] Tjunctionのデモンストレーション
CDケースにTjunctionを貼り付け,スキャナ(写真下中央の緑の四角い部分)でデータを取り込み,モニタにその内容を表示していた.

 また,同社のスキャナは,T-Engineの開発拠点であるYRPユビキタス・ネットワーキング研究所が開発した電子タグ/バーコード読み取り機能付きPHS電話機「UC-Phone」に搭載されている(写真3).外形寸法は50mm×40mm×10mm.周波数帯は2.45GHzのみに対応している.

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[写真3] UC-Phone
凸版印刷の電子タグ/バーコード読み取り装置(スキャナ)が搭載されている.

 一方,ルネサス テクノロジは,日立製作所のRFIDチップ「ミューチップ」を用いた食品トレーサビリティ・システムのデモンストレーションを行った(写真4).ここで使用されているミューチップは,ユビキタスIDセンターが策定した標準IDタグ仕様に準拠している.ミューチップは微弱電波を使用している.通信距離は10cm程度.

 同社は,RFIDチップで取得したデータをT-Engine上で表示または音声として出力したり,ユビキタスIDセンターのサーバと通信するための開発キットを開発している.2004年中には発売を開始したいという.

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[写真4] ミューチップを使った食品トレーサビリティ・システム
果物の模型にミューチップを付け,アンテナ(緑の四角い板)に近づけると,果物の種類などをT-Engine端末に表示する.T-Engine端末には同社が開発したIDタグ「eTRON/16-AE45X(ユビキタスIDセンターの標準IDタグ仕様に準拠)」が搭載されており,アンテナから送られてきたデータの暗号化などを行う.

●NTTドコモ,Wireless T-Engine仕様のリファレンス・ボードを開発

 NTTドコモは,Wireless T-Engine仕様に準拠した携帯電話向けのリファレンス・ボードの試作機を展示した(写真5).Wireless T-Engine仕様の策定は,T-Engineフォーラムのワーキング・グループが行っているが,今回の試作機は同社が独自で開発した.また,PCカード・サイズのFOMA携帯電話機を用いて通信を行っている.

 ベースとなるハードウェア仕様はT-Engineだが,試作機では携帯電話向けに二つの液晶ディスプレイと二つのCMOSカメラを追加している.カメラの有効画素数は31万.保存できる画像のサイズは320×240ピクセル.このほか,16MバイトのSDRAMや8Mバイトのフラッシュ・メモリ,SDカード・インターフェースなどを備えている.

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[写真5] Wireless T-Engine端末
今回は,Wireless T-Engine仕様でアプリケーションが正常に動作するかどうかを検証するために試作機を開発した.実際にWireless T-Engineを用いて携帯電話が開発されるのはまだ先の話になるという.

 試作機には,ブラウザ機能,メール機能,カメラ機能,通話機能を搭載した.ブラウザAPI「T-Wireless Browser API」は,同社独自のソフトウェアをワーキング・グループに提示し,標準化を行った(図1).メモリ管理やファイル管理などのミドルウェアは同社独自のものを搭載している.

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[図1] アーキテクチャ構成

●ITRONとWindows Automotiveを一つのカー・ナビ・システムに搭載

 東芝のブースでは,μITRONとWindows Automotiveを搭載したカー・ナビゲーション・システムが展示された(写真6).システムの開発元はデンソーである.ナビゲーション機能だけであれば,従来のようにμITRONをもとにしてシステムを開発すればよかった.しかし,最近はインターネットやメール・ブラウザなどを備えた高機能なカー・ナビゲーション・システムが出てきており,そうしたアプリケーションをμITRON上で実現しようとすると,多大な開発工程が必要になる.マルチメディア・アプリケーションが開発しやすいWindows Automotiveを併用することで,市場投入時期を早めることができると同社ではみている.本カー・ナビゲーション・システムが実際に製品化されるかどうかは未定.

 GPSやVICS(道路交通情報通信システムセンターから提供される渋滞や交通規制などの情報サービス)などの高速処理はμITRONが行う.一方,経路案内や地図表示などのアプリケーション・ソフトウェアはWindows Automotiveが処理する.

 本システムは,デンソーが開発したカー・ナビゲーション専用LSI「NAVIEM」を搭載している.このLSIは,MIPS64アーキテクチャのCPUコア「TX49(東芝製)」のほか,描画処理,VICS処理,GPS処理などを行う周辺回路を内蔵している.動作周波数は200MHz.

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[写真6] カー・ナビゲーション・システム
μITRONとWindows Automotiveの両方を搭載したカー・ナビゲーション・システム.高機能なカー・ナビゲーション・システムの一つの開発方法として提案された.ナビゲーション機能のみであれば,従来のとおりμITRONで開発していくという.

●Windows CE.NETとT-Kernelの協調動作を実演

 マイクロソフトのブースでは,同社の組み込みOS「Windows CE.NET」とT-Kernelを協調動作させたT-Engine端末「地上ディジタル・ラジオ受信機」のデモンストレーションが行われていた(写真7).端末のハードウェアとしては,横河ディジタルコンピュータ製のT-Engineボードを利用している.動作周波数が200MHzのCPU「DragonBall MC9328MX1」を搭載している.

 T-KernelとほかのOSの間のインターフェースは「T-Bus」と呼ばれるミドルウェアを介して実現される.現在,T-Bus仕様はT-Engineフォーラムで策定中である.そのため,今回の試作機では,T-Busを介さずWindows CE.NETとT-Kernelが直接データのやり取りを行っている.このため,割り込みやスケジューリング,プロセス間の同期を行うための通信部分を変更した.

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(a) 外観


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(b) システム構成


[写真7] Window CE.NETとT-Kernelを共存させたT-Engine端末のデモ
今回の試作機では画面全体をWindow CE.NETのGUIとしている.その裏側ではT-Kernelが通信タスクやリアルタイム処理などを行っている.地上ディジタル・チューナ・カードはピクセラ製.


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T-Engineで開発されたIP電話や教育用端末を公開――TRONSHOW2003レポート

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