バッテリなしで道路情報をワイヤレス送信,「モノのインターネット」時代の基盤が続々 ―― TRONSHOW2011レポート

北村 俊之

tag: 組み込み

レポート 2010年12月22日

 T-Engineフォーラムは2010年12月15日~17日,「進化するTRON」をテーマに,TRONプロジェクトの研究成果や技術成果を紹介する展示会「TRONSHOW2011」を東京ミッドタウン(東京都港区)にて開催した(写真1).また,障害者,高齢者を支援する情報通信技術を議論する「TRONイネーブルウェアシンポジウム2011(TEPS2011)」を併せて開催した.なお,TRONプロジェクトを推進する中核機関として1988年3月に設立された社団法人トロン協会は2010年1月に解散し,その活動はT-Engineフォーラムが引き継いでいる.

写真1 TRONSHOW2011

 TRONプロジェクト(T-Engineフォーラム内に設置されたユビキタスIDセンター)は,uID(ユビキタスID)アーキテクチャの提案や,uIDアーキテクチャに基づいた応用プロジェクトを多岐にわたって行ってきた.その結果,uIDアーキテクチャは国際規格としてITU-T勧告に採用され,世界中でuIDを利用したプロジェクトが立ち上がりつつあるという.

 また今回は,「T-Kernel」の新しいバージョンである「T-Kernel 2.0」が発表され,来場者の関心を集めていた.T-Kernel 2.0は,T-Kernel 1.0の上位互換でありつつ,μs単位での時間制御機能(1.0ではms単位だった)や64ビットでデバイスの入出力を行う機能などが追加されている.また,省電力機能のサポート,ネットワークの標準装備などの拡張が図られている.

●橋の振動で発電して道路情報を送信

 ネクスコ東日本エンジニアリングは,「小型振動発電デバイス」(開発中)や「次世代環境型電源モジュール」を展示した.小型振動発電デバイスは,橋梁や標識柱・照明柱の振動(低周波数)によって発電し,センサやRF送信機と組み合わせることで,道路情報などの送信が可能となる(写真2).二つの電極の対向面積が振動によって変化すると,それに応じて静電容量が変化することで電流が取り出せる仕組み.一方の電極にエレクトレット材料(アモルファスフッ素樹脂:サイトップ)を使用することで,小さな振動エネルギーでも効率良く発電できるという.RFIDにはucodeを格納している.

 

写真2 ネクスコ東日本エンジニアリングの「小型振動発電デバイス」(開発中)

 次世代環境型電源モジュールは,太陽光モジュールとコイン型リチウムイオン2次電池を組み合わせた小型の電源モジュールである(写真3).太陽光発電で得たエネルギを,コイン型リチウムイオン2次電池に給電することで,長期間にわたって電力供給が可能.使用しているコイン型リチウムイオン2次電池「CLB2030」(日立マクセル製)は,独自の積層構造で電極表面積の拡大を図っており,連続140mAの放電が可能.太陽電池モジュールは,両面受光セルを使用し,設置角度にかかわらず,水平設置に匹敵する発電を可能にしている.

写真3 ネクスコ東日本エンジニアリングの「次世代環境型電源モジュール」

 

 

●読み取りデバイスは透明だと便利

 NTTサイバーソリューション研究所は,QRコード,文字,写真などの印刷物を読み取るためのハンドヘルド・デバイス向けの光学ユニット「ClearPlate」を展示した(写真4).本ユニットは,利用者が撮影対象を直接観察可能な透明なビュー・ファインダを備えており,ここから見えるものが全反射を利用してそのまま内蔵カメラの撮影範囲となる.読み取りたい印刷物に重ねるだけでピントが合い,ひずみがほとんどないイメージを読み取ることができる.また,拡張現実デバイスを実現するために,セパレート・ディスプレイやシースルー・ディスプレイと組み合わせることも可能.NTTサイバーソリューション研究所はネットワーク・デバイスの操作性向上に関する研究開発を行っており,本ユニットはその研究成果の一つである.

写真4 NTTサイバーソリューション研究所の「ClearPlate」

●そのまま製品に組み込めるLCD表示機を提供

 コアは,LCD表示機「梅ASURA」(半完成品量産モデル)を展示した(写真5).マイクロプロセッサはルネサスエレクトロニクスの「H8SX/1668R」を搭載している.同社のLCD評価ユニット「ASURA」と同じく,ILC社製のGUIライブラリ「GENIFA2」を標準装備しているため,ASURAで開発したGUIアプリケーションを本機に組み込むことができる.

写真5 コアの「梅ASURA」

●QtやFlash,データベースなどのミドルウェア,開発ツール,リアルタイムOSが全部入り

 イーソルは,リアルタイムOS「eT-Kernel」をベースとしたソフトウェア開発キット「eT-Kernel SDK」を展示した(写真6).同製品には,Nokia社のUIアプリケーション・フレームワーク「Qt」や「Adobe Flash Lite」,「Open GL/ES」,「OpenVGドライバ」といったグラフィックスをはじめ,サウンド,ネットワーク,ファイル・システム,データベースなどの各種ミドルウェアやドライバと,開発ツール「eBinder」が含まれている.また,プロトタイプ開発向けの評価パッケージと,量産前のシステム最適化に適したソース・パッケージが用意されている.評価パッケージでは,ランタイム側の各種コンポーネントが最適化済みのブート・イメージの形で提供されている.

写真6 イーソルの「eT-Kernel SDK」のデモンストレーション(ルネサス エレクトロニクス製のボードを利用)

●マルチ周波数,マルチプロトコルにソフトウェアで対応

 ユーシーテクノロジは,マルチ周波数,マルチプロトコルに対応するパッシブ型RFIDリーダ/ライタLSIを展示した(写真7).本LSIは,SOI(Silicon on Insulator)プロセスを採用することで,アナログ部とディジタル部を1チップ化し,周波数特性を向上させるとともに,低消費電力,小型化を実現している.また,新たに開発したスケーリング可能な専用のDSP(Digital Signal Processor)を搭載しており,世界各国のさまざまなプロトコルや周波数にソフトウェアで対応できる.本LSIを搭載したマルチプロトコル・リーダ/ライタ・モジュールは,標準インターフェースとして,スマートフォンや携帯電話,パソコン,家電,POSレジや自動販売機の追加オプションなど,幅広い機器への提供が可能であるという.「ISO 15693 RFIDタグ」や「ISO 18000-4」,「ISO 18000-6 TypeB」,「ISO 18000-6 TypeC」,「ミューチップ」などのucode認定タグに対応している.

 

写真7 ユーシーテクノロジが展示した「RFIDリーダ/ライタLSI」とそれを搭載したデバイス

●V850で制御する組み込みWi-Fiモジュールを展示

 シマフジ電機は,組み込みWi-Fiモジュール「SEMB1001」を展示した(写真8).無線モジュールとしてMicrochip Technology社製の「ZG2100MC(MRF24WB0MA)」を搭載し,ルネサス エレクトロニクス製CPU「μPD70F3769(V850ES/JH3-U)」で制御する.USBポートとしてUSB Host×1,USB Function×1(mini USBコネクタ),拡張コネクタとしてGPIO,A-D変換信号,D-A変換信号などのインターフェースをサポートしている.デバッグ・インターフェースは,ルネサス エレクトロニクスのMiniCube2に適合している.SRAMの容量は128Kバイト.

写真8 シマフジ電機の「SEMB1001」

 

きたむら・としゆき


関連リンク
・坂村 健;T-Engineプロジェクトの新たな展開 ~ T-Kernel 2.0のリリースと「T2」に向けて ~,
http://www.t-engine.org/t-kernel2_kaisetsu.html

 

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