クルマの航続距離とEV,プラグイン・ハイブリッドという存在 ―― EVよもやま話(2)

薄井 武信

tag: 電子回路

コラム 2012年10月25日

 EV(電気自動車)の最大の欠点は「航続距離が短い」ことだ.一般に市販エンジン車は,満タンにすると500km前後の走行ができるので,バッテリを満充電しても100km~200kmしか走れない現状の市販EVが航続距離が短いといわれるのはしようがない.

 ただし,三菱自動車によると,一日の平均走行距離は,平日で90%の人が40km未満,休日でも80%の人が60km未満だったそうだ.これは,同社が2008年に独自調査した結果によるのだが,たしかに筆者の場合もそれぐらいかと思った.しかし,本当にそう?と問われると自信がなかった.そこで,4年ほど前から実際に毎日走行距離を記録するようになった.

 

●都会暮らしでも,田舎暮らしでも・・・

 記録を取り始めたころ,筆者は東京近郊暮らしであった.日常の使用パターンとしてクルマに乗るのは,おもに7km離れた仕事場への往復と,あとは買い出しその他でプラス数km,という感じ.結果は前述の調査どおりで,おおむね30km以下だった.数値化してみるとクルマ関連の仕事をしていてクルマ通勤しているわりにはガッカリするほどしか走っておらず,拍子抜けしてしまった.

 また昨年末には,長野県の原村に引っ越した.今度は仕事場まで300mと徒歩圏内だ.通勤にクルマを使わなくなったが,そこは田舎暮らし(写真1),生活のために何かとクルマを使うので,さすがに走行距離は増えるはずだと思った.ところが意外や意外,あまり変わらないのだ.多い日でもせいぜい50km程度で,ほとんど30km以下だった.

 

写真1 筆者の住む原村の道

 

 

 よく考えてみると,東京という都会には何でもそろってはいるが,ホーム・センタやスーパなどすべてが歩いて行ける範囲にあるわけではない.都会では,気持ち的になんでも近くにあるつもりになりがちだが,距離はそれなりにあるので,知らず知らずのうちに走っている.

 一方,ここ原村では,ちょっと出掛けるとなると,隣町まで行くことになる.すると無意識のうちに,遠くへ行く気になるので,むやみに出かけないように用事をまとめ,走る回数を減らそうとしているのだ.しかも,出掛けたとしても村そのものが狭いので,思っているほど走行距離は伸びない.村の生活に慣れてきたら,自制心が薄れて,もっと走行距離が伸びるかもしれないが・・・.しかし,そうならないような気がする.

 

●移動にかける時間はそれほど多くない

 その理由は,そうそう日常では「移動」に時間をかけていられないからだ.筆者の場合も,クルマで走ってばかりでは仕事が進まない.当たり前のことだ.特別な用事があるときは仕方がないが,普段はできるだけクルマに乗らないで済むように段取りを考えている.

 だから反対に,クルマで走ることを仕事にしていたら,逆の結果になると思う.例えば,走ってナンボの運輸業などだ.また田舎は田舎でも1kmを1分で移動できる北海道のような広い土地なら,毎日100km走るなんてこともめずらしくないだろう.そうなると現在のEVでは厳しい.だからといって,いつか走るための500km走行分のバッテリを積むことは,現状のリチウムイオン電池の価格やスペース,重量を考えると,ナンセンスだ.EVの航続距離には「頻度」を加味して,割り切ることが重要だと思う.

 いずれにしても,ここ長野県・原村のような田舎で,筆者のようなライフ・スタイルなら,航続距離100kmのEVで十分だということが分かった.いやむしろ,普段のゲタ・グルマに,軽自動車のEVはサイコーなのだ.

 たまに長距離連続走行の必要に迫られた時はどうするか.その場合はもう1台所有するか,レンタカーを借りなければならない.500km走れるクルマがないと成立しない社会や生活が果たして地球環境的にOKなのか? という議論は別として,結局,2台のクルマを所有するゆとりがないため,購入を諦めるしかないのがEVファンとしては残念なところだ.

 

●プラグイン・ハイブリッド車(PHV)という選択肢

 そう思いながら,気になっているクルマがある.プラグイン・ハイブリッド車だ(稿末のコラム「プラグイン・ハイブリッドとレンジ・エクステンダ」を参照).バッテリを多めに積み,EVモードでより長く走ることができる.コンセントから充電できるので,バッテリがある限りはEVのように使える.なくなったら,通常のハイブリッド・カーとして低燃費で走れる.簡単にいえば,EV要素を強くしたハイブリッド・カーがPHVだ.

 先の筆者の使用パターンに当てはめて考えると,EVモードで50km程度走れれば,とてもうれしい.日常生活はEVで済んでしまうので,実に合理的だ.ということで,とても期待しているのだが,現在はトヨタ"PRIUS PHV"しか販売されていない(2012年1月発売).そのプリウスPHV(写真2)も,残念ながらEVモードでは25km程度しか走れないようだ.これでは,いまひとつ触手が動かない.もう少し航続距離が延びないと・・・.

 

写真2 トヨタ自動車のPRIUS PHV(2012年1月から発売)

 

 

●山生活にも適応したSUV(スポーツ用多目的車)のPHV

 そのような中,注目すべきPHVが発表された.モデル・チェンジを間近に控えた三菱自動車のSUV(スポーツ用多目的車)の「OUTLANDER(アウトランダー)PHEV」である(写真3).2012年9月に来年(2013年)初頭発売予定のプラグイン・ハイブリッドの概要が発表された.なんとバッテリをトヨタ"PRIUS PHV"(2012年1月発売)の2倍以上の12kWhと多めに搭載し(実際使用する容量は8.4kWh),EVモードで55km走行可能だという.これは個人的にかなり魅力だ.

 

写真3 三菱自動車工業のOUTLANDER PHEV(2013年発売予定)

 

 しかもSUVの4WDである.標高1100mの土地に住む身としては,冬の生活を考えると頼もしい.何よりも面白いと思ったのは,ユーザが乗る状況に応じて「バッテリ・セーブ・モード」と「バッテリ・チャージ・モード」を選べるようになっているところだ.

 バイパス道路/高速道路などを走行したのち市街地を走行をする場合など,エンジンの効率が良い信号のない道でより,ストップ・アンド・ゴーが多い市街地でモータ駆動するほうが,トータルの燃費向上には効果的である.バッテリ・セーブ・モードとは,そういう場合に使うモードらしい.とても実用的な発想だと思う.ドライバ自身が考え,積極的に関与できるマニュアル的な部分が残されていることも悪くない.

 一方,バッテリ・チャージ・モードではその名のとおり,積極的にバッテリを充電する.停車中もOKらしいので,コンセントがなくても充電できる.ということは,クルマを緊急時の簡易発電所として使うことができるということだ.

 

●二つのPHVはコンセプトが異なる!?

 三菱自動車は,昨年(2012年)の東日本大震災発生後,試乗車としておかれていた「i-MiEV」を全国のディーラー(販売店)から集めて,無償で被災地に送り込んでいた.そのときの現場経験から発案したのだろうか.当時の被災地では,電気インフラの復旧がガソリンスタンド/道路の復旧よりも格段に早かったので,EVしか使えない状況が長く続き,全国から集められたi-MiEVや日産LEAFが大活躍したという.このOUTLANDER PHEVは,レスキュー車両として優れた資質を持ち合わせていそうだ.

 それだけでなく,新しいクルマ遊びができそうでワクワクする.例えば,このクルマとリンクする週末の隠れ家を作ることができるだろう.電気が来ていない山奥でも家を建てられる.エンジンがディーゼルだったらもっと楽しい.電気は自然エネルギー発電,バイオ・ディーゼル燃料も自作,なんてことにも挑戦できそうではないか!

 総じてネット・ニュースを見る限り,ハイブリッドで先行するトヨタ/ホンダ(ACCORDのPHVを米国で発表)は,エンジンの燃費向上の観点から出発したシステムであるのに対し,OUTLANDER PHEVはEVから出発したシステムのような印象を受ける.レンジ・エクステンダの色が強いようだ.そのため,ハイブリッドと言いつつ,EVファンの気も引くのではなかろうか?

 正直,筆者も気になっている.シリーズ・ハイブリッド走行の実力に興味津々である.航続距離の不安から解放された「プラグイン・ハイブリッドというEV」が,新たなEVファンを増やす可能性は大いにあるだろう.最終的にどのような商品に仕上がっているのか,とても楽しみだ.

 

●EVと航続距離について再考

 多くのカー・ユーザが,現状のEVの航続距離に不安を持っていることはよく理解できる.それまでの自分の価値観を変えるのは苦痛を伴うからだ.その意味でPLIUSは,最初は精いっぱい従来のエンジン・カーのユーザに寄ったシステムで登場した.しかしプリウスPHVを販売したことでトヨタは,「化石燃料は,エンジンではなく発電所で燃やしたほうがエネルギー効率が良い」との立場をとったと見ることもできる.EU(欧州連合)でも,これからEVやハイブリッド車が次々に登場することが政策としてすでに予約されている.いよいよ日本にもクルマとの関わり方を見直す時期が来ているように思う.

 どうせなら,今度はわれわれカー・ユーザが変化を積極的に面白がり,楽しみながら,新しいクルマ社会を築いていきたいものだ.

 

うすい・たけのぶ フリーEVエンジニア

 

●筆者プロフィール
薄井 武信.コーリン・チャップマンに憧れ,二級整備士資格取得後,競技車両や特殊車両の開発会社に就職.ある日,自分の自動車趣味が時代に逆行していることに気づき,フリーになってさまよっていた1994年ごろにEVと出会う.それ以来,日本EVクラブをはじめ,さまざまなEVプロジェクトの車両開発にかかわったり,企画のサポートを行っている.それまでクルマ(特にEV)にしか興味がなかったが,リーマン・ショックと東日本大震災以来,経済と社会と自然の関係にも興味がわき,半工半農を理想に長野県・原村に引っ越したばかり.1966年生まれ.

 

※ 次ページに,コラム「プラグイン・ハイブリッド」と「レンジ・エクステンダ」を掲載しています. 

 

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