Ruby言語開発者のまつもと ゆきひろ氏が世界に通用する技術者になるためのハックを語る ―― 第14回 組込みシステム技術に関するサマーワークショップ（SWEST14）

　2012年8月30～31日，温泉旅館「水明館」（岐阜県下呂市）にて，「第14回 組込みシステム技術に関するサマーワークショップ（SWEST14）」が開催された（写真1）．今年のメイン・テーマは「世界をリードするエンジニアになるには？ ～グローバルオンリーワンへの道～」である．160人超が参加し，2日間にわたってグループ・ワークや議論を行った．

写真1　第14回 組込みシステム技術に関するサマーワークショップ（SWEST14） のポスタ発表の様子

　SWESTとは，組み込みシステム技術にかかわる技術者や研究者が議論を通して技術交流する場である．参加者同士の議論を促進するため，各参加者が提出したポジション・ペーパを全体で共有する，研究発表は討論しやすいポスタ発表に限る，グループ・ワーク中心のセッションを多数設ける，などの特徴を持つ．夕食後にも分科会が開催され，徹夜で議論できる部屋があらかじめ用意されているなど，文字通り寝食を共にしながら議論する環境が整えられている．

　本イベントに毎年参加している常連の参加者も多いが，上司や先輩に進められて参加した若手技術者の姿も目立った．本イベントは，情報処理学会 組込みシステム研究会（SIGEMB）と組込みシステム開発技術研究会（CEST），組込みソフトウェア管理者・技術者育成研究会（SESSAME），TOPPERSプロジェクトが共催している．

●まつもと ゆきひろ氏が語る，Rubyの歩んできた道と組み込みRuby

　組込みシステム技術に関するサマーワークショップ実行委員会 ステアリング委員長を務める高田 広章氏（名古屋大学）は，今年のメイン・テーマを決定したいきさつについて次のように語った．「組み込みシステムについては日本が強みを持っているのではないかと考えていたが，現状を見ると，日本の技術力をうまくお金に変えることができていない．それでは，日本という枠ではなく，技術者の一人一人が世界に通用するエンジニアになるにはどうすればいいのか？ をテーマとすることにした」（高田氏）．

　世界に通用する技術者として白羽の矢が立ったのが，まつもと ゆきひろ氏である．まつもと氏は，オープン・ソースのプログラミング言語Rubyを開発し，開発コミュニティを15年間主導した．「世界でもっとも知られた日本人プログラマ」を自負している．まつもと氏は「世界に通用する技術者になるためには」というタイトルで基調講演を行った（写真2）．

写真2　基調講演を行うまつもと ゆきひろ氏

　まつもと氏は1995年，プログラミング言語Perlの代替になる言語として，オブジェクト指向のプログラミング言語であるRubyを開発した．当時から，オブジェクト指向プログラミングこそが進むべき道だと思っていたが，そのころはスクリプト記述言語にオブジェクト指向は不要だと思われていた．しかし今や，ほぼすべての言語がオブジェクト指向的な要素を持っており，当時考えたことは間違っていなかった，と確信したという．

　2004年，デンマークのプログラマであるDavid Heinemeier Hansson氏（通称DHH）がRubyによるオープン・ソースのWebアプリケーション・フレームワーク「Ruby on Rails」を開発・公開したことにより，Rubyの人気は高まった．一般にWebアプリケーションは，「ブラウザからリクエストを送信」→「データベースにアクセス」→「レスポンスを構築」→「レスポンスを返信」という共通の構造を持つ．そこで，これらの構造を簡単に用意できるようにし，プレハブ工法（あらかじめ加工した部材を準備し，現場で組み立てる工法）でWebサイトを構築できるようにしたのがRuby on Railsである．