Ruby言語開発者のまつもと ゆきひろ氏が世界に通用する技術者になるためのハックを語る ―― 第14回 組込みシステム技術に関するサマーワークショップ(SWEST14)
Webアプリケーション・フレームワークは特に新しいアイデアではなく,どちらかというと後発組だったが,開発生産性が高いということで好評を得た.短時間で開発できることを動画で紹介したり,開発者の過激な言動に触発されてRuby on Railsを使ってみるエンジニアが増え,そこから口コミでRubyが広まっていった.現在Rubyは,プログラミング言語の人気度を評価する「TIOBE Index」注1で10位前後となっている(写真3).
注1:TIOBE Indexとは,ニュージーランドのTIOBE Software社が毎月発表しているプログラミング言語の人気ランキングであり,各種検索エンジンやWikipedia,Amazonなどにおける検索数を基に順位をつけているという.TIOBE Indexは2001年6月に25言語のランキングから始まったが,現在では,150以上の言語のランキングが発表されている.
写真3 TIOBE Index

まつもと氏が最近取り組んでいるのが,組み込みシステム向けRuby「mruby」の開発である.組み込みシステム向けにはブラジルの大学であるthe Pontifical Catholic University of Rio de Janeiroが開発したLuaがあるが,Luaよりも機能を増やした言語をいう.APIはLuaのAPIを参考にして作った.コンパイルおよびリンク時に軽量化のためのさまざまな設定が可能で,コンパイラやジェネレータ,クラスを取り除くこともできる.
組み込みシステムといっても,医療機器や自動車制御などではなく,「人間に気づかれない程度」のソフト・リアルタイム・システムを想定しており,ゲーム業界などでニーズがあるという.
●呪いであり祝福である「業」
そんなまつもと氏が「世界に通用する技術者」になるために必要と考えているものは,才能や努力ではない.動機(モチベーション)であり,熱意の対象になるものがあるかどうかだという.また,それを継続できることだという.例えばまつもと氏は自身のことを,日本でもっともプログラミング言語のことを考え続けている一人であると考えている.
そこまで強い動機とは,一種の業(ごう)でもある.まつもと氏は小学生のころ,「どうしてほかの人と同じことができないの!」と教師に叱られたという.業は,情熱や動機になると同時に,「普通の人」とは違うことにより,葛藤や衝突を生む.だから業は「呪いであり祝福である」(まつもと氏).