静岡・エコパに学生が製作した76台のフォーミュラが集まる ―― 自動車技術会が「全日本学生フォーミュラ大会」の概要を発表

真野もとき

tag: 組み込み 電子回路

レポート 2012年8月10日

 2012年8月7日,自動車技術会は今年の「全日本学生フォーミュラ大会」の概要を発表した(写真1).それによると,会期は2012年9月3日(月)~7日(金),会場はエコパ(静岡県掛川市/袋井市,小笠山総合運動公園),参加チーム数は82チーム,書類選考通過チーム数は76チームとなっている.また,EV(電気自動車)を対象とした「2012全日本学生フォーミュラEVプレ大会」を併催する.こちらの参加チーム数は7チーム.

 学生フォーミュラ大会は,1981年に米国SAE(Society of Automotive Engineers)で開催されたのち,欧米を中心に同じ趣旨の大会を開催する国が増えて,現在では12カ国で毎年開催されている.日本では,2003年から自動車技術会が主催するようになり,今年が第10回大会になる(写真2).

 

写真1 報道関係者向けの説明会では,参加チームを代表して3チーム(上智大学,静岡大学,静岡理工科大学)がプレゼンテーションを行った

 

 

写真2 2011年の第9回全日本学生フォーミュラ大会の様子

 

  

●大会が自動車産業の人材育成の場に

 この大会は,最大610ccの4サイクル・エンジンを搭載した1人乗りフォーミュラ・カーを独自に製作する,しかも年間1,000台の生産を想定したビジネス・モデルを構築し,企画から設計,生産,走行までを一環評価するというものである.レースの走行時間だけを競う大会ではない.チームはいわば仮想的な会社組織で,技術だけでなくビジネスとしても成功させることを目標とする.現実の開発にはスポンサが必要だが,個々のチームがみずからプレゼンテーションを行って獲得しなければならない(大会の公式スポンサは約130社).実際にかかったコストをいかに抑えるかも評価対象となる.なお自動車技術会では,学生フォーミュラにおける協力依頼があったとき,会員企業は相応のサポート義務を負う.

 静岡のエコパに1,300名以上の学生と200名以上の大人(企業人,先生)と80台以上のフォーミュラ・マシンが1週間も集まるのだから,かなり大がかりな大会である.

 主催者によると,この大会に参加した学生は,大学や仕事の現場(会社)で3~4年間では得ることのできない実のある経験が得られるのだという.この大会が人材育成の場として,大きな効果を上げていることは間違いないようだ.実際に,これまでのこの大会に参加した学生は延べ9,000名を超えており,主催者の追跡調査によると,それらの学生のほとんどが卒業後に自動車関連の仕事に就いているのだという.

 昨年の大会を取材してみて,参加している学生たちも貴重な経験であることを実感しているようだ.チームによって,優勝を目指すチーム,車検パス(つまりレース場でフォーミュラを走らせること)を目指すチームなど,目標はそれぞれ異なるが,チーム全員が一丸となって1週間を過ごす,汗と涙を伴う大会なのである.

 報道関係者向けの説明会では,上智大学,静岡大学,静岡理工科大学の学生が代表として呼ばれており,それぞれ自分たちのチームのプレゼンテーションを行った.

 

●強い危機感を持つ主催者

 現在の日本の"ものづくり"をけん引する自動車業界がこれだけバックアップしているのだから,この大会は右肩上がりかというと,話はそれほど簡単ではない.主催者は強い危機感を持っているという.今回の説明会では,大会の今後に向けての課題として,以下の4項目を挙げていた.

  • 中国やインドなどのアジア勢台頭に対応した人材の育成が必要
  • EV化に対応できるエレクトロニクス技術者の育成が必要
  • 鳥人間コンテストやロボコン並みの知名度の向上が必要
  • 学生の自主性をはぐくむ手作りイベントへの移行が必要

 世界のトップを走っている日本の自動車産業も,アジア諸国の脅威を感じるとともに,この大会の知名度が上がらないことに対するいら立ちが見える.

 

●学生は就活に忙しい

 "フォーミュラ・カーづくり"は,自動車好きにはたまらない魅力があるはずだが,全国的には広まっていない.今年の大会の国内チームのノミネート数は69で,前年から4チーム減ったという.原因は,学生の理工系離れなどが考えられる.また,今の学生は2~3年生から就活に忙しく,1年を通して活動しなければならないフォーミュラのクラブに参加しずらくなったという.説明会に来ていた学生からは,「各大学のチームでは,いわゆる世代間の引き継ぎが難しくなっているところがある.クルマ開発に詳しい学生は少ないので,リーダ格の学生が卒業してしまうと,開発に行き詰まることがある」,「毎年新しいフォーミュラを開発する時間はないので,今年は間に合わなくて,来年の大会をターゲットにするチームもある」という発言もあった.

 若者の"クルマ離れ"も影響しているようだ.クルマ好きの若者が増えないため,クルマの知識に詳しい(クルマいじりが好きなオタク的な)人材が少なくなっている.そうした人材こそが,このような大会への参加には不可欠だという.

 

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