レイアウト可変の電子雑誌からオンデマンド印刷,電子書籍の自販機まで,新市場創出を狙うシステムが続々 ―― 第16回 国際電子出版EXPO(eBooks)
●欲しい本をその場で印刷・製本
富士フィルムのブースでは富士ゼロックスが,同社の業務用プリンタ「D110 Light Publisher」と米国On Demand Books社のオンデマンド印刷用(必要な時に少部数でも印刷できる)製本機「Espresso Book Machine」を接続した「電子書籍出版システム」を展示した(写真5).本システムを利用すると,手に入りにくい専門書や希少本,絶版書籍の復刻,自費出版など,少量多品種の出版物の印刷・製本サービスに対応できる.
写真5 富士ゼロックスが展示した電子書籍出版システム
On Demand Books社が提供するWebサービス「Espresso Net」を介して,GoogleやLightning Sourceなどが管理・運営するクラウド・サーバ上のコンテンツ,あるいはユーザが用意したPDFデータから書籍を作成する.
「D110 Light Publisher」は本文印刷用のモノクロ・プリンタで,110ページ/分の出力性能を備えている.印刷解像度は1200ドット×1200ドット.富士ゼロックスが開発したEAトナーを採用しており,文字はもちろん,写真やイラスト,グラデーションの再現性も高いという.表紙は別途,表紙印刷用のカラー・インクジェット・プリンタで印刷する.表紙に製本用のりを塗布し,表紙で本文をくるみ,製本する.断裁は,製本された書籍を回転させながら3方断裁を行う(カッターは1枚).作成できる書籍のサイズは,高さが127mm~284mm,幅が114mm~202mm(両面40ページの場合).
デモンストレーションでは,20分弱で文庫サイズの書籍を1冊作成していた.日本の採用事例は三省堂書店や広島の大学図書館などわずかだが,欧米では公共図書館や大学図書館などへ約80台を出荷したという.
●Webでの会員登録不要,現金決済の電子書籍自動販売機が登場
グローリーは,会員登録が必要なく,現金で決済できる「電子書籍自動販売機」を参考展示した(写真6).現在の電子書籍は,パソコンやスマートフォンなどから電子書籍販売サイトへログイン(会員登録)してコンテンツを選択し,決済については電話料金への課金,またはクレジット・カード決済という流れが一般的である.これに対して本自動販売機を利用すると,購入の手続きが簡単になる.
写真6 グローリーの「電子書籍自動販売機」
本自動販売機による電子書籍の購入は,以下のとおり.ユーザはまず,自動販売機上で電子書籍のコンテンツを選択し,その場で自動販売機に購入金額を投入する.次に購入券が発券され,ユーザはそこに印刷されているQRコードをスマートフォンなどで読み取ることで,電子書籍をダウンロードできるようになる.
電子書籍購入のプロセスを簡略化し,誰でも購入できるようにすることで,電子書籍の普及が促進されるのではないか,と同社では考えている.今回展示した自動販売機はまだ試作段階であり,今後はおサイフケータイやクラウド化への対応などが課題となっているという.
●楽天がカナダの電子書籍事業者のサービスを日本国内で展開
楽天は,同時開催の東京国際ブックフェアに出展した.同社の子会社であるカナダの電子書籍事業者Koboが展開するサービスの日本での提供開始にあたり,サービスの概要および電子書籍リーダ「Kobo Touch」を紹介した(写真7).
写真7 楽天の「Kobo Touch」(左はサイズ比較用のiPhone)
Koboの電子書籍サービスは,世界190カ国で約900万人が利用している.取り扱っているコンテンツは,小説,エッセイ,コミックなど約240万冊.今回,日本市場で出荷を開始する「Kobo Touch」は,CPUにFreescale社の「i.MX507」を,ディスプレイに16階調グレー・スケール表示の米国E Ink社製6インチ型タッチパネル付き電子ペーパ「Pearl ディスプレイ」を採用している.内蔵メモリは約2Gバイト(1Gバイトがユーザ使用可能領域).無線通信機能として,IEEE 802.11b/g/nの無線LANに対応する.また,microUSBポートとmicroSDカード・スロットを装備する.バッテリ駆動時間は約1カ月.搭載フォントはモリサワの日本語フォント2種を含む11種で,フォント・サイズは17段階となっている.
本体の外形寸法は165mm×114mm×10mm,重量は185g.カラー・バリエーションは,ブラック,ブルー,ライラック,シルバーの4色を用意する.価格は7,980円.本電子書籍リーダを利用するには,USBポートを備え,インターネットに接続可能なパソコン(対応OSはWindows 7/Vista/XP,Mac OS X 10.5以降)が必要となる.
Koboが展開するグローバル・サービスでは,iOSやAndroid,Windows,Mac OS上で動作するアプリケーションを用意しており,Kobo Touchだけでなく,スマートフォンやタブレット端末,パソコンなどでも同社が配信する電子書籍を閲覧できる.ただし,日本におけるサービス開始時点では,日本語対応のEPUBリーダがKobo Touchのみのサポートとなっているため,パソコンは購入やコンテンツ管理の機能のみの利用となる.サービス開始時点の日本語コンテンツ数は,約3万点である.
きたむら・としゆき