EVの省エネ技術を競う「エコノムーブ2時間耐久レース」がスタート ―― 全日本 袖ヶ浦EV50Kmレース大会(2)
メインの「EV50kmレース」の前に行われる午前中のハイライトが「EVシングル・シータ・エコラン・グランプリ・シリーズ」の第1戦である.このレースは,「ワールド・エコノムーブ・シリーズ」の第3戦にもなっている(ちょっと,ややこしい).
前回述べたように,エコランもエコノムーブも競技規則的にはほぼ同じで,年間のシリーズを通して総合優勝者を決めることになっている.今回の袖ヶ浦のレースは,すべてJEVRA(日本電気自動車レース協会)主催だが,ワールド・エコノムーブ(WEM)協議会が主催するレースとシリーズを組んだというわけである.
ちなみにワールド・エコノムーブ・グランプリ・シリーズの第1戦は2012年3月17~18日にタイのビラ・サーキットで行われた.19台が参加し,優勝は日本のGood Shot MITSUBAチームの「Hyper TESLA」.第2戦は2012年5月4~5日に秋田県大潟村で行われた.65台が参加し,優勝はZerotoDarwinProjectチームの「Tachyon」であった.
さて,EVシングル・シータ・エコラン・レースに話を戻そう.このレースで何を競うかだが,大まかに言うと,大会事務局から支給される同一条件の電池(バッテリ)を用いて,2時間のレース時間内に「走る距離」を競うEVレースである.まさに"エコラン",すなわちEVの省エネ技術を競うレースである(写真1,写真2).ドライバの体重によって結果が左右されないように,荷重が65kgになる調整バラスト(おもり)が搭載される.
写真1 きれいな車台(team ENDLESS,リボンGo!号)
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写真2 ピットの風景(長野工業高校)
工業高校・高校や大学のチームも多く参加している.
速度が遅いと空気抵抗が少なくなり,パワーを使わなくても済む.ただし,遅くなりすぎると距離が稼げない.もちろん速すぎると2時間ももたない.また,今日は晴天のドピーカンだが,モータやインバータの温度が上がってくると,その効率は下がってくる.いろいろな要素を勘案しないとレースには勝てない.
なお,ここではエコラン・レースの車のことを「エコノムーブ」と呼ぶことにする.
●エコランで競う三つのポイント
この技術を競うポイントは,次の三つになる.
1) 電気系
電池は,古河電池製の充電済み「FT4L-BS(12V/13Ah)」を4個,レース前に大会事務局から支給される.この4個の中でレース中に電池交換を行うことは認められているが,レース前やレースの途中で充電することは認められていない.
電気二重層キャパシタ(以下,キャパシタ)を搭載することは許されている(申告義務あり.事前充電がないかチェックされる).コース上の登り坂では電力を平地走行時以上に使い,逆に下り坂で回生する,ということが可能である(写真3).
写真3 白いケースの中に電池2個とキャパシタが収まっている(チーム・スーパーエナジー,GRIFFON号)
インバータの効率も重要かもしれない.電圧をモータ駆動用に昇圧するかどうかも重要なポイントだろう.また,モータの効率を引き上げるために,自分たちの運転に合わせるように,市販のレース用モータのコイルを巻き直しているチームも少なくない(写真4).
写真4 後輪が1輪で動輪
インホイール・モータを搭載している.エコラン用に市販されているモータを自分たちで解いて巻き直したという.
なお,キャパシタを搭載している車は全体の半分ほどだ.キャパシタを搭載していても,「このコースではキャパシタを使わないほうがいいかも...」と言っていたチームもあった.
2) 車体
エコラン・レースでは空気抵抗の対策が重要である.とくに速度が速くなればなるほど抵抗が増す(速度の2乗に比例)ので,上位をねらうなら,ボディ設計は慎重に行う必要がある.もちろん車重は少しでも軽いほうが有利だ.ボーイングの旅客機「787」でも使われた炭素繊維強化プラスチックを構造材として使っているチームもある.
レース規則では全長3m,全幅1.2m,全高1.6mだが,空力の観点から車高も車幅も0.6m以下がほとんどのように思う.風の抵抗をできうるかぎり小さくするため,車体はナメクジや芋虫のような形になる.カウルもきちんとシーリングしておかないと,空気の流れが乱れて,時速1km~2kmほど損をするという.といって完全密閉すると,ドライバがまいってしまうし,インバータやモータ,電池の温度が上昇して,これらの効率が下がる.バランスが難しい.
そして,いろいろな観点から,意外にも女性ドライバは少なくない(写真5).
写真5 First Step Aishin AWチーム,Tsubasa54号のドライバは女性
カウルの中に足を収めるため,人手で足先をカウルの中に押し込んでいる.車体はできるだけ流線型で細く小さくしたいのだ.
3) タイヤ
エコランのレースでは,転がり抵抗が大きく効いてくるという(これは普通の車でも同じだが).エコランでは14~20インチのタイヤを使うことが多い.タイヤのゴムが軽くて薄く,しかも転がり抵抗を小さくしたエコラン専用タイヤが使われているようだ(写真6).いわゆるグリップ(つかみ)は重視されない.競技規則では4輪であっても問題ないのだが,みんな3輪だ.これも転がり抵抗を下げるためか,それとも動輪を1個にしたいためか....
写真6 エコラン用のタイヤが市販されている
上がエコラン用のタイヤ.薄くてふにゃふにゃだが,これはタイヤの中のチューブではない.下は自転車用のタイヤ(いずれも20インチ).