バグが激減? 手間が倍増? Wモデル導入成否の分かれ道 ―― ソフトウェアテストシンポジウム 2012東京(JaSST'12 Tokyo)(2)
ここでは,2012年1月25日~26日に開催された「ソフトウェアテストシンポジウム 2012東京(JaSST'12 Tokyo)」において,筆者が特に興味深く感じたセッション「Wモデルで品質向上」についてレポートする.
Wモデルとは,開発プロセスの「V字モデル」を2重化したモデルを指し,ソフトウェアのテストだけでなく,開発全体の改善を図る考え方として期待されている.Wモデルという言葉そのものは,筆者も何年か前から技術記事などで目にしている.しかし,実際にWモデルに基づいて取り組んだソフトウェア開発の結果報告や,Wモデルを採用した組織の具体的な改善事例などを目にすることは少ない.そういったこともあってか,本セッションには約300名の聴講者が集まった.これは,本シンポジウムの基調講演を除く全セッションの中で,きわめて多くの人を集めたセッションだといえる.
本セッションの前半は,特定非営利活動法人 ソフトウェアテスト技術振興協会(ASTER)の鈴木 三紀夫氏がWモデルについて解説した.後半は,電気通信大学の西 康晴氏がモデレータとなり,富士ゼロックスの秋山 浩一氏,日本電気の吉澤 智美氏,鈴木 三紀夫氏の3人のパネリストによるミニパネルを行った(写真1).
●Wモデルについての認識はさまざま
本セッションは,「Wモデルとは何か?」という定義の確認から始まった.現在日本で主に用いられている「Wモデル」の概念の原型となったAndreas Spillner氏の定義によると,開発側(開発者:DEV)とテスト側(品質保証担当者:QA)という対立軸があることを前提として(図1),開発上流工程でテスト計画を立てることにより,開発工程全体が短縮されるという考えだった(図2).あくまでも,開発上流で実施するアクティビティは"Planning xxxx Test",つまり,上流の分析・設計工程に対応するテストの計画のみである.また,テスト計画からの要求分析・設計工程へのフィードバックも想定されていない.
しかし,日本の技術者たちが期待するWモデルは,それとは少し異なるようだ.「テストの準備を前倒しするだけならば,既に多くの日本企業は実施している.日本におけるWモデルは,もう少し定義を拡張して使われている」(鈴木氏).例えば,日本の技術者の考えるWモデルでは,
- テスト仕様書をシステムの設計書とほぼ同時に作成すること
- システムの要件定義や設計時に,テスト用のデータ・バリエーションを作ること
- テスト技術者を上流工程から参画させ,テストの知見を早い段階から開発にフィードバックさせること
など,テスト・アクティビティの前倒しや,開発へのフィードバックまでが期待されている.また,それらの実施効果としても,プロジェクトの短期開発だけでなく,手戻り防止によるコスト削減および利益率向上,要員の最適配置,技術者の単価向上などといった,より広い改善が期待されている.これは,Andreas Spillner氏の唱えたWモデルより一歩進んだ定義といえる.