バグが激減? 手間が倍増? Wモデル導入成否の分かれ道 ―― ソフトウェアテストシンポジウム 2012東京(JaSST'12 Tokyo)(2)

酒井 郁子

tag: 組み込み

レポート 2012年3月 2日

●Wモデルの効果を計測するには

 次に会場からは,Wモデル導入に関する質問が挙がった.現場にWモデルを展開するために上司や周囲を説得するためには,その効果を定量的に表すことが必要である.しかし,比較対象とするものがない.何か良い案はないかというものであった.

 効果を定量的に示すには,同じ開発に対して,旧来通りのプロセスで実施した結果と,Wモデルで取り組んだ結果を比較するのがもっとも分かりやすい方法である.しかし,同じプロジェクトを2種類並行して実施するにはかなりの投資が必要であり,一技術者が施策として提案するのは難しい.それよりは,Wモデルの効能に着目して,ポイントを絞った効果計測にしてはどうかということで,次に話は進んだ.

[総バグ数が減少していることを測る]

 吉澤氏は,総バグ数(プロジェクトを通して発生するバグの総数)を計測する効果計測の方法を示した.やり方はこうである.いくつかのプロジェクトにおけるバグ発生数(および,そのバグの検出工程)を計測しておく.過去プロジェクトの計測結果と,Wモデルで試行したプロジェクトの結果とを比較し,バグの発生状況から,Wモデルによる改善効果を測る.この計測は,QA(品質保証)活動でも一般的に良く用いられているため,比較的取り組みやすい方法である.

 Wモデルを導入することで,開発の上流工程で,テストの視点(使う側の視点など)を持ってテスト対象物を見ることができる.すると,要求分析や設計工程で作り込んでしまったバグを,作り込み工程に近い上流段階で摘出することができる.また上流でバグを摘出することで,派生バグ(そのバグによって引き起こされる別のバグ)の作り込みそのものを抑えることができる.

 また,テスト技術者がバグのパターンを分析して指摘したり,組み合わせテストで組み合わせパターンの多いところをざっくりと指摘することによって,要求分析や設計そのものの質が上がってくる.設計を改善することは,バグが作り込まれやすい場所をなくしていくことになり,結果としてはバグの発生を予防することにつながる.

 鈴木氏も,Wモデルをうまく適用すると驚くほどバグが減る,という.「バグの発生状況でプロジェクトを管理していると,その経験則による判断ができなくなるほどに変わる」(鈴木氏).

[タイプを絞って,バグ摘出の前倒しをねらう]

 西氏からは,あるタイプのバグに絞って,バグの摘出前倒しを目標としてはどうかという提案があった.例えば,要求仕様の抜け漏れにターゲットを絞り,下流工程へのバグの流出件数を計測するという方法もある.前述の事例でも,テスト技法を要求分析に活用することで,要求をより適確に引き出すこともできた.要求の抜け漏れのような,上流で作り込んでしまったバグは,その摘出が遅れるほど,バグの修正にかかる労力は増大する.過去のプロジェクト・データなどから,上流で作り込まれていたバグのタイプを特定し,Wモデルの適用プロジェクトでは,その下流工程への流出件数を測る.下流へのバグ摘出遅延が抑えられたということは,プロジェクト改善効果としても,説得力の高いデータとなりえる.

 

●開発プロセスの成熟度が効果に影響

 ミニパネルによる質疑応答は,ここまでで時間終了となった.満員の会場はセッション終了まで人が減ることがなく,多くが真剣にメモを取りながら聴講していた,とても濃い95分だった.

 Wモデルの導入は,プロセス改善の手段として,やはり有効な策と思われる.上流でのバグの作り込みを,より早い段階で摘出するための策という点から見ても,これはテスト・プロセスの改善ではなく,ソフトウェア開発プロセス全体を改善するための方法だといえる.上流バグの下流流出による手戻りの大変さは,ソフトウェア開発者ならば過去の経験から身に染みているだろう.テスト担当と,開発担当とのコミュニケーションを図り,相互に協力しながらプロジェクト改善を進めるためにも,Wモデルは期待できる.

 しかし,失敗事例の紹介にあるように,テストの設計・実装が不適当なまま,それを上流に前倒ししても何も効果は得られない.つまり,テスト計画・分析・設計などのアクティビティがないままで,テストを実施している組織では,効果的なWモデルの適用は困難なようである.また,開発上流のソフトウェア分析・設計工程へフィードバックすることで,より大きな効果を得るためには,ソフトウェア開発プロセスがある程度は成熟している状態であることが前提のようである.これらのことから,現状のプロセスが混沌としたまま開発を続けている組織と,現状の開発プロセスが整いさらにWモデルで改善を進める組織とでは,開発スピードの面でも,品質の面でも,大きな差が生じると思われる.


さかい・ゆうこ
組込みソフトウェアギルド・幹事

 

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