ソフトウェア・プロダクト・ライン開発手法の実践的導入事例(4) ―― 社内・社外から見た導入のかぎ
●推進体制を確立すること
当社ではさまざまな開発タイプへのプロダクト・ライン開発の導入を進めるため,二つの推進体制を組織しました.一つは,専任推進チーム(2~3名)であり,もう一つは,各開発部門から選出されたエンジニアに専任推進チームの一部のメンバが加わった導入ワーキング・グループ(10名以上)です(図2).
専任チームは,Carnegie Mellon大学のソフトウェア・プロダクト・ラインへの要求事項の調査やCMMIの要求事項との比較,他社のソフトウェア・プロダクト・ライン導入事例の調査のほか,開発タイプに依存しない共通的なプロダクト・ライン開発手法の導入ガイドラインやフィーチャ・モデリング実施ガイドラインなどの作成,そしてそれらを各開発タイプのプロジェクトに展開する活動などを行いました.
導入ワーキング・グループでは,共通的なガイドラインで定めることが難しい,それぞれの開発タイプの傾向に沿った「開発部門別設計ガイドライン」を作成するなど,各開発部門へプロダクト・ライン開発の導入を進める活動を行いました.導入ワーキング・グループの活動状況や課題は,専任推進チームを通じて定期的に経営層や各部門長に報告し,社内展開しました.
このようにして,トップの経営層から開発現場までがつながり合う組織を作り上げることで,効果的にプロダクト・ライン開発の導入を進めることができました.
●経営層の理解を得て長期投資を可能にすること
四つめのかぎは,当社の経営層が長期的な投資を継続したことにあります.連載第1回でも紹介しましたが,おおよそ3年間,粘り強く投資を続けた結果,大きな効果が得られたプロジェクトが出現し,投資を回収する見込みが出てきました.
このように,すぐに成果が見えないような開発手法に取り組む際には,継続した投資を行う経営層の判断が必要と考えています.
●大学や地域コミュニティとの協業
筆者らの取り組みを大きく後押ししたのは,九州地域ならではの,大学や地域コミュニティとの共同活動です.特に九州大学の福田・中西・久住研究室とは,共同研究の枠組みのもと,緊密に連携しました.プロダクト・ライン開発の導入に向けた社内へのプライベートなセミナを通じて,プロダクト・ライン開発の諸概念の解説や国内外の事例,開発方法論の紹介を行っていただき,延べ100名以上のエンジニアが参加した結果,プロダクト・ライン開発の考え方が開発現場に広く理解されるようになりました.社内普及活動のみならず,導入ワーキング・グループや開発現場のエンジニアとの技術交流の場にも参加していただき,開発現場が直面している課題に対する議論や関連事例の紹介,先述のガイドラインのレビューなどにも協力していただきました.
また,当社のプロダクト・ライン開発導入への取り組みと時を同じくして,九州地域では組み込み技術者コミュニティや大学によって,プロダクト・ラインに関する研究会や公開セミナが頻繁に開催されるようになりました(詳しくは稿末のコラム「九州地域におけるプロダクト・ラインへの取り組み」を参照).これらの研究会やセミナの多くは,当社のある福岡市内で行われました.そのため,数多くの現場技術者が開発業務の間にこれらに参加し,プロダクト・ラインに対する理解を深めることができました.こうした「地の利」が,プロダクト・ライン導入に向けた社内の空気作りに大いに役立ちました.