ソフトウェア・プロダクト・ライン開発手法の実践的導入事例(4) ―― 社内・社外から見た導入のかぎ
筆者らが取り組んできたソフトウェア・プロダクト・ライン開発手法の導入事例を3回にわたって紹介してきた.各プロジェクトでの効果はさまざまだったが,いくつかのプロジェクトで具体的かつ定量的な成果が見え始めたことにより,その結果に触発された複数の部門が自ら進んでプロダクト・ライン開発に取り組み始めるという好循環が生まれた.最終回となる今回は,プロダクト・ライン開発手法の導入に成功するためのかぎを,社内および社外の視点から紹介する.(編集部)
技術解説・連載「ソフトウェア・プロダクト・ライン開発手法の実践的導入事例」 バック・ナンバ
第1回 管理者は「石の上にも3世代目」
第2回 狙いを定めて投資を回収,ガイドライン策定は必須
第3回 導入方法と効果は開発タイプごとに異なる
1.社内から見た成功の五つのかぎ
筆者ら(岩崎,内場)は,プロダクト・ライン開発を推進した社内の立場から,導入に成功するためのかぎは下記の五つだと考えました.
- あらかじめ開発プロセスを定義すること
- フィーチャ・スコーピングを戦略的に行うこと
- 推進体制を確立すること
- 経営層の理解を得て長期投資を可能にすること
- 大学や地域コミュニティとの協業
以下,一つずつ解説します.
●あらかじめ開発プロセスを定義すること
筆者らは,プロダクト・ライン開発手法導入にあたり,既に開発プロセスが定まっていることが重要であると考えています.当社では2007年にCMMIレベル3を取得しており,それぞれのプロジェクトでは,既に標準となる開発プロセスを用いて開発を行っていました.現場にプロダクト・ライン開発を導入する際には,基本となる開発プロセスは変えずに必要な作業を新たに追加することで,エンジニアが混乱することなく導入を進めることができました.
図1は,プロダクト・ライン開発を含む開発プロセス全体の概略です.緑部分が既存のプロセスです.ピンクの部分がプロダクト・ライン開発にて新たに追加したプロセスであり,設計フェーズの前に追加されています.
●フィーチャ・スコーピングを戦略的に行うこと
連載第2回では,最も成果の上がったファームウェア開発の事例を紹介しました.その開発では多くのフィーチャを抽出・分析し,その総数は2000以上にも上りました.そのうち設計・実装までの再利用に結びついたフィーチャは130弱であり,取り組みの効果が最大となるようスコーピングを行いました.
フィーチャ・モデルを作成すると,多くの部分で再利用できるフィーチャが見つかりますが,システム全体にわたって再利用できるすべてのフィーチャに対して,プロダクト・ライン開発を適用することは困難です.なぜなら,それぞれのプロジェクトでは再利用の取り組みに許される時間(工数)は限られているためです.フィーチャ・モデルによって,再利用に十分取り組めない部分を明らかにし,効果の見込める部分の再利用を進める必要があります.
欲張らずにできる範囲で最大の投資対効果を得るためには,フィーチャ・モデルによりプロダクト・ライン開発を適用する範囲を決定するスコーピングは,大切なかぎだと考えています.