拝啓 半導体エンジニアさま(26) ―― 既に普及しているBluetoothや無線LANを「エネルギー源」兼「通信経路」として利用する技術に注目

ジョセフ 半月

tag: 半導体 電子回路

コラム 2011年6月30日

 新聞などを読んでいても,電力事情が話題に上らない日はありません.そろそろ夏場に近づき,エアコン需要が増えて電力の余裕があまりなくなった上に,問題が東北と関東だけでなく日本全域にまで広がってしまったからでしょう.また,個人レベルでも「クールビズ」や「省電力」が直接的,または間接的にいろいろな影響を与えており,ほとんどすべての人が自身の問題として受け止めざるをえなくなっているからだと思います.

 

●人に節電を促すツールの次は「スマート化」

 そこで,このごろよく目につくのが,「消費電力の見える化」や「最適化」のツールです.配電盤に取り付けて家庭の消費電力を刻々と知らせてくれるもの,パソコンやそのほかの情報機器を利用するものなど,さまざまな形態のものがこの機会に一気に表に出てきた感じがします.

 実際のところは以前から開発が進められていたのだけれど,実験的なレベルでとどまっていたものが,このところの関心の高まりに乗じて市場に投入され,かつ関心を持つ人も増えて,実際の導入例が出てきた,というところでしょう.そのせいか多少の「ドタバタ」感があり,いまだに玉石混交という印象を受けますが,なんらかの形で市場に定着しそうな勢いを感じます.また,これらの機器やITインフラをうまく組み合わせて,かねてより懸案となっていた「スマート・グリッド」に結びつけようという動きも盛んなようです.

 消費者が瞬間瞬間の消費電力を見て,「ああ使いすぎているな」と気づき,何かのスイッチを切る,という行動が促されれば,節電について十分に実効性があると言えるでしょう.やはり無駄な電力消費の大きな要因の一つは人間自身の行動だからです.

 ただし,最初は人間の気づきを促すだけで十分だったシステムも,そのうちにより高い実効性が求められるようになるに違いありません.なぜなら,今は関心が高くて,グラフを見て「ああスイッチを切らなければ」と思う人でも,そのようなことを四六時中いつも考え続けているわけではありません.

 だいたい「見える化」システムそのものは人間の行動を促す点で省電力に有効であっても,人間が何も対応しなければ,そのシステムを稼働させるための負荷が増える分,かえって電力消費は増加します.当然,「自動的になんとかしてくれ」ということになるはずです.例えばエアコン一つとっても,外気温が下がってきたらエアコンを止めて窓を開けるとか,部屋から人が居なくなったら自動的に切れるとか,あるいはスマート・グリッド的に電力の余裕がなくなってきたら設定温度を自動的に上げるなど,「スマート化」を進めざるをえなくなると思います.

 

 

 

●既存の無線機器の搬送波からエネルギーを収穫

 そこで細かいけれど面倒なのが,「スマート化」の末端に位置するセンサやスイッチをシステムに繋いでいく技術ではないかと考えます.こうした末端のデバイスにAC電源を使ってしまうと配線が問題になるうえ,待機時の消費電力も無視できません.電池にはこうした問題はありませんが,交換という面倒くささが付きまといます.

 以前,電力を自然界から収穫(harvest)するエネルギー・ハーベスティング技術に触れたとき(本連載 第18回)に述べましたが,こうした環境発電の技術は不確実性が伴います.例えば,ドアの開け閉めの機械的な動きで発電し,そのイベントを無線で知らせるような技術は既にあります.しかし,動きのないときや極端に遅い動きまで対象とするときは,そのような方法だけではうまくいきません.

 そんなとき,ちょっと面白い発表がルネサス・エレクトロニクスからありました.環境に飛んでいる電波からエネルギーを取り出してセンシングし,その結果を「飛んでいる電波」を「乱す」ことで外部に伝える,という技術です.環境に飛んでいる電波からエネルギーを取り出すというのは,確かIntel社なども研究していたことがあったと思いますから,それほど奇っ怪なものではありません.無線送信装置が近くにあり,それに寄生するようなアンテナを作れば,昨今の低消費電力の半導体を動作させるのに十分なエネルギーを取り出せるでしょう.無線の場合,情報が欲しいときにエネルギーを与えることができるので,環境による発電の不確実性を抑えられるはずです.

 この原理そのものは,外部のリーダ/ライタが出力する搬送波からエネルギーをもらって動作し,返信は自ら積極的に電波を出すのではなく,搬送波を受ける「負荷」を変動させることで送信元に情報を伝えるタイプのデバイス(パッシブ型のRFIDなど)と共通点があると思います.

 ただし,普通は専用のRFIDリーダ/ライタなど,決まった相手からの搬送波が対象となるのに対して,ルネサス エレクトロニクスの技術では,Bluetoothや無線LANなどの既存の無線機器の搬送波からエネルギーを得ます.また,それらの無線に微妙に「外乱」を与えることで,返信を外部に伝えようとする点がなかなかユニークです.UHF帯の専用のリーダ/ライタは価格が高く,各家庭で使えるようなものではないのですが,既に普及している各種の無線を「エネルギー源」兼「通信経路」として使えるのであれば,普及する可能性も出てくると思います.

 ただし,パッシブ型のRFIDと同じように,その通信距離はあまり長くありません.現状では1m程度で,通信速度も数kbpsにとどまります.ですからルネサス エレクトロニクスの発表文では,人体周りのセンシングなどを念頭に置いているようで,あまりエネルギー系を対象には考えていないように読めました.無線LANは家庭にも普及しているので,無線LANを「エネルギー源」兼「通信経路」とし,速度はもっと遅くてもよいので距離をある程度伸ばせると,意外とスマート化の末端として使えるのではないか? と筆者は思っています.

 これは目についた一例ですが,まだまだ無線技術には単なるデータ通信にとどまらない可能性がありそうです.そのあたりをほじくって,「エネルギーの制御に使えないか」と考えてみるのも,半導体技術者の面白い仕事になりそうです.

 

ジョセフ・はんげつ

 

組み込みキャッチアップ

お知らせ 一覧を見る

電子書籍の最新刊! FPGAマガジン No.12『ARMコアFPGA×Linux初体験』好評発売中

FPGAマガジン No.11『性能UP! アルゴリズム×手仕上げHDL』好評発売中! PDF版もあります

PICK UP用語

EV(電気自動車)

関連記事

EnOcean

関連記事

Android

関連記事

ニュース 一覧を見る
Tech Villageブログ

渡辺のぼるのロボコン・プロモータ日記

2年ぶりのブログ更新w

2016年10月 9日

Hamana Project

Hamana-8最終打ち上げ報告(その2)

2012年6月26日