拝啓 半導体エンジニアさま(18) ―― エネルギー・ハーベスティング技術にまつわる気になる「誤解」

ジョセフ 半月

tag: 半導体 電子回路

コラム 2010年10月27日

 「エネルギー・ハーベスティング」という言葉でくくられる技術分野があります.従来は知らぬ間に「捨てられ」ていたようなエネルギー,あるいは自然エネルギーを「すくい上げ」て,主として電子装置の動力源として活用しよう,といった考え方の技術全般に対して,そういう呼び方がなされているのだと理解しています.

 一部には実用になっている装置もあるようですが,まだまだ実験レベルの装置が多く,発展途上の技術分野だと思います.筆者も含めて関心を持っている人は多いのですが,どうも喧伝(けんでん)されるのは「都合の良い面」の情報が多く,そうでない部分については言及しないケースも散見されるようです.また,時には一部の駄目なケースを捉えて,ネガティブに評価される場合もあるようです.「どうしたら本当に使える技術になるのか」,「どうしたら総合的に評価されるようになるのか」と考え出すと,どうも心もとないような気がします.

 一面的な評価が多くなってしまう理由の一つとして,この分野が技術的な境界領域にあるため,狭い技術分野の専門家からはなかなか全体像を理解しにくい,ということがあるのかもしれません.広い意味での「発電」が含まれてくるので,電子工学だけでは駄目で,力学,機械工学,熱力学,化学といったいろいろな要素が含まれます.

 

 

●エネルギー・ハーベスティングは無限に動作する?

 まず,よくある短絡的な理解の一つは,エネルギー・ハーベスティングにより「電池を取り除ける」=「無限に動作する」というような理解です.電池交換が不要になったのだからずっと使えるに違いない,と思い込んで用途を考えてしまうのですね.ところが,たいていの場合,即座に「半導体の保証期間はたかだか10年だ」といった合の手(?)が入るはずです.

 半導体が一番のネックになるかどうかは別として,電子部品には当然寿命があります.たいていのエネルギー・ハーベスティングの場合,断続的に発電できたりできなかったりとムラが多いため,電力を貯めるコンデンサや2次電池などを持つことが多いようです.個人的には,このあたりの部品の寿命が一番のネックになりそうな気がします.当然,製品を作るためには,そのほかの部品も含めて,装置全体で寿命を考える必要があります.電池を取り除けることが,必ずしも長期間動作を保証することではないのです.

 産業用の電池の中には10年保証のものがあるので,低消費電力の電子装置であれば電池でも10年間動作させることは可能です.電池交換なしで長寿命という方向でエネルギー・ハーベスティング技術を適用する場合,最低でも10年以上の寿命を保証できないと製品化しにくいように思います.

 問題は,部品の寿命といった場合,「常時通電状態で」といった条件で示されるケースが多いことです.エネルギー・ハーベスティングでは,断続的な動作となることが多く,またその動作のデューティ(通電時間と非通電時間の割合)もまちまちです.「常時通電の場合よりもうんと寿命が延びるのではないか」という期待もあるのですが,実際に適用したときの寿命を予測するとなると,かなり困難そうです.

 とりあえず部品メーカのカタログ・スペックだけをかき集めて単純に適用すると,電池でも実現可能な「10年くらい」の装置寿命が妥当という結論になり,「わざわざエネルギー・ハーベスティング技術を適用する意味がないのでは?」ということになってしまいそうです.このあたりを定量的に評価する方法が必要なのではないかと考えます.

●エネルギー・ハーベスティングはエコ技術?

 また,別の理解(誤解?)として,エネルギー・ハーベスティングにより発電できているのだから,「発電した分,エコにつながっているに違いない」というものがあります.これは一般消費者に近い人ほどありそうな発想で,電子部品のメーカ側にいる人の間ではそういう理解は少ないと思います.なぜなら,メーカの中では,エネルギー・ハーベスティングに使われる電子部品を製造するために多大な電力が使われている,という認識があるからです.

 半導体をはじめ,ほとんどの電子部品の製造には大きな電力が不可欠です.製造時に使われる電力(=CO2)を積算したら,かなりの量になるはずです.これに対してエネルギー・ハーベスティング技術で取り出すことのできる電気エネルギーは非常に微弱です.熱力学が教えるとおり,100%の変換効率などありえず,理論的な上限があるのです.

 エネルギー・ハーベスティング技術がエネルギー源として取り扱っているものは,ほとんどが熱力学的には「劣化」の激しい使い難いエネルギー源であり,そこから電力を搾り取っているので,効率はそれほど高くできないはずです.つまり,製造時にドバッと使ってしまった電力を長時間チビチビとり戻して,結果としてプラスにならなければ,電力面での直接的な効果は期待できないわけです.これは使用可能期間の長さに左右されるので,さきほどの寿命の話もこれにからんできます.

 ただし,これを評価することもかなり難しそうです.どの部品がどのくらいの電力を使って製造されているのか,また輸送やそのほかの活動にどのくらいのエネルギーがかかっているのか,など,現状では知りようがないためです.ざっくりと部品の値段にそれらのコストが反映されていると考えると,なかなか辛いものがあります.

 多くのエネルギー・ハーベスティング技術で回収できる電力がmWやμWなどのオーダで測られる(そのうえ,継続時間もごく短かったりする)のに対して,一般家庭に「売られる」電力ですらkWh単位です.mW単位で発電できるエネルギー・ハーベスティング技術であれば無線通信にも使えるレベルで,そこそこ実用性があると思うのですが,それでも家庭用の電力とは,一定の時間で区切っても106の差があります.発電の継続時間まで考えると,その差は膨大です.エネルギー収支を「取り戻す」ところを期待してはいけないのではないでしょうか.

●「だだ漏れ」になっていたエネルギー消費を減らして初めてエコに

 やはり,「配線しないですむ」とか,「電池を交換しないですむ」とか,「従来とりつけられなかった場所で使える」というのがエネルギー・ハーベスティングの利点であって,直接的な発電のエネルギー量に価値を見出してはいけないような気がします.エネルギー・ハーベスティング技術を応用したシステムでうまく制御してやって,従来,「だだ漏れ」になっていたどこかのエネルギー消費を減らしてやる,といった情報面での処理こそがエコにつながるのであり,その効果は間接的なものです.

 ひと言付け加えると,従来なかった制御を行うために常時動作する無線機やらサーバやらのITインフラも必要になり,その分のエネルギー消費も考えてやらなければなりません.エネルギー・ハーベスティング技術を使った装置そのものは電力を自ら生み出して動作するけれども,それらをモニタリングしたり,インフラにつないだりする装置は,いつ来るか分からない通信などを待ち受けるため,常時稼動状態になりがちです.当然,電気を食うわけで,こいつらの分もちゃんとさっぴいて考える必要があります.

 

ジョセフ・はんげつ

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