拝啓 半導体エンジニアさま(5) ―― パワー・デバイスやセンサに学ぶ次の一手
景気の方もようやく,(絶対金額はともかく)全体としては上昇傾向が定着してきたようです.また,いろいろな分野で減産から増産へと,変曲点を越えたと判断できるような報道が続いています.一方,「まだまだそう甘くない」という見方もあります.
とにもかくにも,各分野の「増産」によって半導体にも注文が回ってくることから,半導体各社の工場の稼動状況は良くなってきているのではないでしょうか.また,それにつれて諸兄もお忙しくなってきているかもしれません.一時期の落ち込みが急激でありすぎたために痛手は深く,いまだコスト・カットのアクションが続き,手放しでは喜べない状況かもしれませんが,それでも多少なりとも先行きに希望が見えてきた,というところでしょうか.
●“進化の袋小路”にはまり込んだという閉塞感
けれど,半導体業界,特に「0と1」で飯を食ってきた「ディジタルIC」の分野では,なぜか閉塞感を感じてしまいます.太陽電池とか,LED照明とか,最近のトレンドに乗って,「さぁ,これから行くぞ」と活力がみなぎっている分野が周辺にあるので,なおさらこの閉塞感が気になります.おそらく景気の先行きに対する希望とは無関係に,「構造的に先の展望が開けてこない」という感じがするからでしょうか.
かといってこの先,ディジタルICの分野が絶滅するといった危惧はないと思います.不可欠な部品なので,この先も確実に需要は存在するはずです.マルチコア化とか,いろいろな検証技術とか,ひと昔前と比べると格段に技術が高度化しており,それなりの進歩が年々あるからです.
振り返ってみると,ストアード・プログラム方式をICに導入して以来爆発したディジタルICの「進化」は,90年代あたりがピークだったんじゃないかという気がしてならないのです.筆者も出だしのころの動画用LSIなどに少しだけ関係したことがあります.原理では理解できていても,LSIによって処理されたディジタル画像がきちんと動き出したのを見たときは,感動をおぼえました.音や絵を自在に操り,それを地球の裏側にでも,移動中の人にでも送れる技術が商業的に確立したのが90年代だったと思います.その後も進化は続いていますが,いまだ,その時代に確立したシナリオの中から「生息場所」を拡大できていないように思うのです.
このままでもそれなりの進歩は続くのでしょうが,「なにか“進化の袋小路”にはまり込んで抜け出せなくなるのではないか」というのが閉塞感の正体ではないかと,自分なりに分析しています.
● その分野の原始的なところから新しい分野が生まれる
そこから抜け出して,もう一度,拡大放散というか,活力を蘇らせる方法はないものでしょうか? あまり変なことばかり書いていると怒られてしまうのですが,「引用」ということで小平 邦彦という数学者の言葉を書いてみます.「ある一つの分野が進歩していって,その進歩の最先端から新しい分野が生まれるのではなく,その分野の原始的なところから新しい分野が生まれる」と,この数学者は述べています.
はっとして書きとめたのですが,どの本に書かれていたのかは忘れてしまいました(どうもすみません).こういう言葉を引用させてもらったのも,ディジタルICの近隣の分野でまさにそのような感じがするからです.
パワー系の半導体も,かつて「ディジタルIC」の発展が著しかったころは,ディジタルに比べて停滞しているような分野だと思われていました.現在,純粋なパワー・デバイスが,新たな材料や新たな制御方法により急速に発展しています.パワーをソフィスティケイテッドに,かつインテリジェントにしつつあるデバイス群は,「ディジタル」起源とはいえ,今や本家を飲み込んでしまいそうな勢いです.センサなども同様です.これらも,ひと昔前にはもうすでにある程度まで成熟していて,「狭い市場で生き残っているマージナルなもの」と思われていたのではなかったでしょうか.
このところのそれらの分野の急速な変貌ぶりには,目を見張るものがあります.
● 「捨ててしまった」分野を「いまどきのディジタル」で復活させよう
どちらの分野も「“ディジタル”技術を取り込んで変身したのだ」という見方も成り立ちそうです.「“ディジタルIC”の進化の一形態だ」ともいえるかもしれません.そこで,先ほどの数学者の言葉が思い浮かんだのです.
ちょっと立ち止まって,「停滞している」とか「捨ててしまった」ような技術分野を振り返って,それを「いまどきのディジタル」でよみがえらせることができないか,と考えてみると面白いのではないかと思います.もちろん,その技術を昔のままの応用に持っていくのでは芸がありませんし,発展性もありません.なにか別の,いままでIC技術とはまったく無縁だったような分野に持ち込むと,双方の技術の「交配」によりびっくりするような新種ができ上がるのではないかと思うのです.
そんな新種(あるいは突然変異かもしれませんが…)が現れて「停滞気味」のディジタル・ワールドをかき回し,活力が戻ってくると良いな,と思いませんか? それは,市場の出現でもありますし,その中で働いている私たち自身の変化,あるいは進化をもたらしてくれるような予感がします.
でも,そのためには学生に戻った気になって異分野を勉強しなおさないと….