デバイス古今東西(22) ―― 続・TSMCはなぜ強いのか,企業文化に見る台湾ファウンドリ企業2社の違い

山本 靖

tag: 半導体

コラム 2011年2月24日

 今回は,台湾のTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Co.)とUMC(United Microelectronics Corp.)のビジネス・モデルが類似しているにもかかわらず,なぜTSMCがシリコン・ファウンドリ産業において独占的な勝者になっているのか? というテーマについて考えます.その答えは,TSMCとUMCという二つの台湾企業の企業文化の差異に起因する,と筆者は考えています.

●10年の間に大きな格差

 本連載コラムの第20回では,TSMCの強みと市場の占有者に至る企業価値形成のスパイラルについて説明しました.

 このTSMCと,TSMCの競合企業であるUMCは,相互におよそ90%の等価性を持ったビジネス・モデルである,と言われていました.そして1995年のTSMCとUMCの売上は,それぞれ287億6600万台湾ドル(NT$),242億4600万台湾ドルと,ほぼ同額でした(1台湾ドル=2.8円,2011年2月23日現在).

 ここで,それ以降のTSMCとUMCそれぞれの売上と利益の対比を図1に示します.ご覧のとおり,今ではたいへん大きな格差があることが分かります.実際のところ,TSMCは2006年以降の全世界のシリコン・ファウンドリ産業において,50%以上の市場占有率を獲得しています.

 

図1 TSMCとUMCそれぞれの売上と利益の推移

 

 TSMCとUMCのビジネス・モデルは類似しているのに,なぜUMCはシリコン・ファンドリ産業の勝者になれなかったのでしょう.2社の企業文化を比較した論文を参照しながら,話を進めます.

●台湾ファウンドリ2社の類似点と相違点

 企業文化をとらえる方法として,主たる経営者などの行動様式や経歴を分析する方法があります.表1は,TSMCとUMCについてのさまざまなデータ収集と分析を行った研究(1)から抽出された類似点,および相違点です.

 

表1 主たる経営者などの行動様式と経歴の対比(参考文献(1)のTable 1をもとに筆者が作成)

 

 設立当初,この2社は政府からの資金援助を得ながら,技術革新を考慮して高度な専門教育を受けた人材を確保していきました.この人的資本の進展が企業の成長を加速させる源泉となっています.台湾政府からの資金援助,および優秀な人材の確保は,2社で共通する点です.一方,経営における行動様式や主たる経営者の経歴には大きな相違点が見受けられます.

 例えば,TSMCは常に「ビジネス主義」という志向を持つ企業,と言われています.UMCが事業を多様化したのと対照的に,TSMCはファウンドリ事業に経営資源を集中し,かつそれを継続してきました.「半導体の製造事業では付加価値は生まれない」という意見もありますが,大規模な資本を投下し続けるTSMCは,大きな売上と利益をもたらす資本の論理に沿った経営を実践しているとも言えます.

 一方UMCは,ビジネスの多様化についてはとても俊敏に行動していました.メモリやマルチメディアなどの製品,あるいは新しい技術のための数多くのジョイント・ベンチャの設立,そしてデザイン・サービス,ファブレス・ベンチャの設立など,半導体の複合集団(Conglomerate)の形成に力を注ぎました.例えば,新日鐵との提携は,日本進出の最初の足がかりとなりました.UMCからスピンオフしたNovatek Microelectronics社,AMIC Technology社,MediaTek社は,現在では台湾の優良なファブレス半導体メーカです.このように事業を整理,あるいはスピンオフして,1997年以降は純粋なシリコン・ファウンドリ企業として再出発しています.

●企業文化の違いがビジネスに大きく影響

 台湾を代表するシリコン・ファウンドリ企業のTSMCとUMCは同時期に創業し,1995年前後は売上もほぼ同じでした.そして,ほぼ同等のビジネス・モデルを構築してきたにもかかわらず,2006年以降,TSMCは全世界のシリコン・ファウンドリ市場を独占しています.それは,TSMCとUMCという二つの台湾企業の企業文化の違いに起因すると考えられます.

 TSMCは自助努力を尽くし,「ビジネス主義」という堅実志向であるのに対して,UMCは組織内外のネットワークを駆使し,ビジネスの多様化において俊敏性を志向しています.このような企業文化ゆえに,UMCは経営資源が分散し,ファウンドリ事業への投資が手薄になっていきました.これが,TMSCの市場独占へとつながった理由の一つだと思います.

 

参考文献
(1) Tzu-Hsin Liu,Yee-Yeen Chu,Shih-Chang Hung,Shien-Yang Wu;"Technology entrepreneurial styles: a comparison of UMC and TSMC",International Journal of Technology Management 2005,Vol.29,No.1/2,pp.92-115.

 

やまもと・やすし


◆筆者プロフィール◆
山本 靖.半導体業界,ならびに半導体にかかわるソフトウェア産業で民間企業の経営管理に従事.1989年にVHDLの普及活動を行う.その後,日米で数々のベンチャ企業を設立し,経営責任者としてオペレーションを経験.日米ベンチャ企業の役員・顧問に就任し,経営戦略,製品設計,プロジェクト管理の指導を行っている.慶應義塾大学工学部卒,博士(学術)早稲田大学院.

 

 

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