ヘッド・ハンターのつぶやき(2) ―― 景況感の変化で揺れる求職者の意識,入社か? 辞退か?

米焼酎

tag: 組み込み 半導体

コラム 2013年1月28日

 筆者は,人材紹介(いわゆるヘッド・ハンティング)のしごとに従事しています.今回は,景況感の変化に伴う求職者の方の悩み,そして日本の半導体業界の再編に対する筆者の期待について述べたいと思います.

 

●風が変わってきた

 年が明けてムードが変わってきました.アベノミクスのおかげで円高から円安に転じ,株価も上昇しています.米国の景気が改善し,欧州の債務問題も底入れ.とにかく長いトンネルから抜け出たようです.このムードを長く維持できれば,雇用も徐々に改善しそうな気配です.

 個別に見れば,International CESにおける韓国のテレビ・メーカの強さ,米国Apple社の減産,ルネサス エレクトロニクスの追加リストラ,中国経済の減速など,心配ごとはたくさんあります.ですから,「本当か?」と疑いを持って見ているのが正しいのでしょうが,とりあえず風が変わってきたことを感じてます.

 求人は,相変わらずハードルの高いピン・ポイントの案件ばかりなのですが,求人数が倍増しており,これは良いシグナルです.内容は,新規の情報システムを導入する企業内エンジニア,営業統括責任者,海外営業担当など,積極的な事業推進に必要な人材を確保するための案件が増えてきた気配があります.ただし半導体分野を見てみると,国内半導体メーカ関連の求人がまったく見あたりません.残念ながら,日本の半導体産業はまだ底入れの気配がないようです.

 産業界全体で大企業の景況感が改善し,求人が始まると,次は中小企業やベンチャ企業へと波及して求人が増えていきます.今のムードが少なくとも1年は続いて多くの会社から求人が出てくることを切に願ってます.そうなれば,来春こそは本当に「きれいな桜が咲く」ことでしょう.

 

●入社するか,辞退するか?

 ここで紹介するのは,昨年(2012年)10月に退社されて2カ月転職活動を頑張り,やっと内定をもらった方の悩みです.

 景況感が変わらなかったら,何も悩むことなく入社と決まっていました.当初は半導体関係の仕事を探していたのですが見つからないので,視野を広げて仕事を探し始めました.2カ月奮闘して装置会社の経営企画職の仕事が見つかりました.勤務地は都内,報酬の条件は20%ダウンですが,許容範囲内です.「せっかくの縁ですから,チャレンジされるのが良いでしょう」と申し上げたのですが,「最近,ネットで条件の良い案件がたくさん出てきているので,辞退するか,とりあえず入社して,並行して転職活動を継続したい」との返事でした.

 昨年の10月,11月ころの景況感であれば,「内定した! 転職が決まった!」と喜んで入社されたことでしょう.しかし円安になって雰囲気が少し良くなれば,人は欲が出てくるものです.「もう少し転職活動を継続すれば,希望の半導体関連の職につけるかもしれない.今考えてみると,この職種は希望に合わない.(チャレンジするよりも)転職活動を継続したい」と言います.

 しかし,この考えはリスクが大きすぎるように思います.希望する求人が出てくるかどうか分かりません.出てきたとしても,勤務地や職位のミスマッチがあります.さらに,景況感が腰折れする可能性もあります.

 「とりあえず入社して...」という考え方もありますが,これは甘いです.転職活動を継続すると仕事に没頭できませんし,勤務態度にも表れます.入社早々,仕事をしながらの転職活動はどっちつかずになりがちで,決して長くは続きません.

 「せっかくの縁ですから,新しいことにチャレンジされたほうが良いです.10月の初心に帰って,生まれ変わったつもりでチャレンジする精神を忘れずに突き進んでいけば,将来は開けます」とアドバイスしてはいるのですが,なかなか納得していただけません.一つ内定が出ると,それまでの苦労は忘れてしまうのかもしれません.

 景況感が良い方に変わると,「もっと良い条件で...」と欲が出てくるのはしごく当然のことです.しかし相手があっての転職活動なのですから,思うように進展することは少ないのです.ちょっとした風の読み違いで,選択を誤ってほしくありません.

 このような悩みの人が増えないためにも,安定した良い景況感が続いてほしいものです.

 

 ●業界再編は今年3月の動きに期待

 外資系の半導体メーカの求人は増えています.特にネットワーク・インフラや自動車関連の顧客向けの営業力を強化しようとしているようで,数年ぶりの具体的な動きです.

 米国から日本市場を見ると,積極的な財政政策で景気浮揚が確実視されているようで,今が投資するべき時期なのでしょう.海外の半導体メーカは,数年先の半導体需要を見込んで動いています.米国Intel社は450mmウェハに向けて大きな投資を行い,ファウンドリ企業も投資しています.

 では,足元の日本の半導体メーカはどうでしょう.残念ながら,ルネサス エレクトロニクスから「3500人の追加リストラ」といったネガティブな話が出ているくらいで,良いニュースも求人もありません.業界再編は「今年3月がメド」と言われていますが,きちんと進んでいるのか,心配になります.ルネサスのリストラ実施時期が今年9月となっていることにも,一抹の不安を感じます.

 早く新会社をスタートさせて,スマート・エネルギー,ディジタル・ヘルスケア,グリーン・デバイスといった分野で活躍できる優秀なエンジニアを育てる体制を作ってほしいと思います.デバイスとソフトウェアを組み合わせて最適なソリューションを作り上げられるエンジニアの育成は,非常に重要です.

 日本の半導体業界の再編が成功し,自信を持って「やっぱり強い日本」,と言える産業になることを強く期待しています.

 

 

こめじょうちゅう

 

 

●筆者プロフィール
米焼酎(ペンネーム).35年前,F-8,8080,Z-80マイコンと出会い,半導体業界にあこがれて二つの外資系半導体メーカを経験.今は,人材コンサルタントとして活動中.話をするのが好きで,焼酎があるとお尻に根が張って何時までも飲む癖がある.

 

 

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