米国発クリーンテック便り(2) ―― トーマス・エジソン vs. ニコラ・テスラ,130年後の決着

阪口 幸雄

tag: 電子回路

コラム 2010年12月 3日

 今回は,送電線の話です.バッテリ駆動ではない電気製品を使おうと思ったら,電気のコードをコンセントに挿さなければなりません.当たり前ですが,コンセントに来ている電気は交流です.米国の場合,通常は120Vの単相の交流が,大電力が必要な場合は240Vの3相の交流がコンセントに来ています.本コラムの第1回で書いたように,電気自動車に充電する際には240Vでないと,とんでもない時間がかかります.コンセントにプラグを差してすぐ電気が使えるのは,ひとえに電力会社と送電網のおかげです.

 図1は米国の送電網です.密集している地域とまばらな地域が混ざっています.


図1 米国の送電網
出典:FEMA(Federal Emergency Management Agency of the United States),Wikipedia


 

 

●米国の電力会社の数は3000社以上


 米国には,電力会社がなんと3000社以上もあります.大規模な私営の電力会社だけでも200社以上あり,これらが75%程度の電力を販売しています.そして,小さな地方公営電気会社2000社が,大手が手がけない(手がけたくない)小規模な,しかしあちこちに分散している地域への16%の電力を販売しています(残りの10%は協同組合による発電・給電).カリフォルニア州の中だけでも,大小の電力会社が入り乱れています.このあたりは,日本と大幅に違います.電力料金もそれぞれの会社で異なります.


 米国にはこれだけたくさんの電力会社が入り乱れていますが,交流電力網については,米国とカナダを含めた全体を,東半分,西半分,テキサス州という大きな三つのエリア,およびケベック州,アラスカ州などの小さな幾つかのエリアに分かれています.そして,それぞれのエリアでは完全に同じ周波数で同期(シンクロ)しています.米国の西半分だけでも日本が何十個も入る面積なので,これはこれですごいことです.


 図2は,米国とカナダの送電網の区分けです.それぞれのエリアの中では60Hzで同期しています.




図2 北米(米国とカナダ)の送電網の区分け

出典:DOE(United States Department of Energy)




●かつて「交流送電 vs. 直流送電」のバトルがあった


 送電を交流で行うか直流で行うかについては,130年前(1880年代後半)にトーマス・エジソン(直流派)とニコラ・テスラ(交流派)によるし烈なバトルがあり,最終的にニコラ・テスラの主張する交流方式が生き残りました.以来130年間,基本的に交流電力網が世界中で使われています.


 テスラの名前は,シリコンバレーにある電気自動車の会社名(Tesla Motors社)として,最近,再び聞かれるようになって来ました.交流派のテスラが,直流のバッテリとモータで動く電気自動車メーカの名前になったのは,ユーモアです(もちろんそれだけではなく,テスラのすばらしい業績にあやかっての命名だろうが...).


●再生可能エネルギーの利用には送電の壁がある


 さて,地球温暖化防止のためのクリーン・エネルギーへの移行,そして太陽光/太陽熱発電や風力発電への投資は活発です.


 これらの再生可能エネルギーは,太陽エネルギーや風力エネルギーを使うので,どうしても米国の中でも人里離れた地点に施設が作られます.太陽光/太陽熱発電のメッカは,カリフォルニア州,ネバダ州,アリゾナ州の間に広がっているMojave(モハーヴェ)砂漠です.風力発電のメッカはGreat Plains(大平原)と言われる北米大陸の中西部で,米国における風力発電の総発電量である35GW(ギガワット)のかなりの部分はここで発電されています(35GWは,原子力発電所35基分に相当する).


 さて問題は,「どうやって発電した電力を消費地まで運ぶのか?」ということです.最近,筆者が参加したAmerican Wind Energy Association主催のシンポジウムでもこのあたりが活発に議論され,「今の交流送電網はとにかく限界いっぱいである.これ以上大容量の電力を運ぶ余力はない」といった具合いに,かなり厳しい意見が飛び交っていました.


 送電網はとにかく「網」ですから,細かくそのエリアに存在する需要家に電力を供給するのがメインの仕事です.人の住んでいないところではどうしても網がまばらになってしまい,とても巨大な電力を遠くの消費地に運ぶ能力はありません.

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