スマートフォンに見るLinuxの現状とポジション

中村 憲一

tag: 組み込み

2010年9月21日

クラウド時代を予感させるスマートフォンが,現在,全世界で発表されています.その機種には,さまざまなOSが採用されています.そこで,今後,エレクトロニクスの市場を大きく牽引するスマートフォンの現状とそこでのLinux のポジションについて解説します.

●スマートフォンのOS の現状

 スマートフォンといえばソフトバンクから発売されている米国Apple社のiPhoneが有名ですが,他にもさまざまなスマートフォンが各社から発売されています.例えば,NTT ドコモからは英国Sony Ericsson Mobile Communications社のXperiaやカナダResearch In Motion社のBlackBerry が,auからはシャープ(株)のIS01が,ソフトバンクからは台湾HTC 社のDesireが発売されています.


 日本で販売されているスマートフォンの一覧を表1に示します.日本ではまだ種類が少ないですが,世界市場に目を向けるとフィンランドNokia社,米国Motorola社,韓国LG 電子社からさまざまな種類のスマートフォンが販売されていることがわかります.


 米国ガートナー社による2010年4 ~ 6月のOS 別スマートフォンの世界シェアを表2に示します.これによると,世界シェアでは,Symbian OS が41.2%でトップです.以下BlackBerry が18.2%,Android が17.2%,iOS が14.2%,Windowsが5.0%と続いています.このデータだけを見れば,Symbian OSが群を抜いていますが,実は前年同期比では-9.8%となっており,その分,AndroidとiOS がシェアを伸ばしていることが分かります.中でもAndroidは,前年同期比では15.4%のプラスで,急速に伸びています.

 

表1.日本で販売されているスマートフォンの一覧

 

表2 2010 年4-6 月のOS別スマートフォンの世界シェア(エンドユーザー販売台数)

 

●スマートフォンの中でのLinux のポジションとメリット


 上記の調査結果にはまだ現れていませんが,現在,Linux FoundationによりNokia社のMaemoと米国Intel社のMoblinの技術を融合させたLinuxベースのモバイル向けOS「MeeGo」というプラットフォームの開発が進んでおり,その動向が注目されています.これら,AndroidとMeeGoに共通するのがLinuxです.

 Androidは,米国Google社により開発が行われている携帯電話向けのプラットフォームです.Androidでは,開発環境やカーネルにLinuxを採用しており,その他はBSDライセンスのライブラリやApacheライセンスのJava VM を採用しています.つまり,製品メーカにとっては厄介なGNU GPL というライセンスに抵触しないような設計が行われているのが特徴です.よって,ソフトウェア・ライセンスに敏感なメーカでの採用が進んでいます.

 また,MeeGoのほうも,同じくLinuxカーネルを採用していますが,ミドルウェアやユーティリティもさまざまなLinuxシステムで利用されているものを採用しているのが特徴です.

 なお,Linuxが採用されているのはスマートフォンばかりではありません.日本ではガラケー(ガラパゴス・ケータイ)と揶揄されている日本独自の携帯電話のOSとしても利用されており,世界においても,上記の通り,MaemoやMoblinを採用した携帯電話が利用されています.

 このようにLinuxを利用するメリットとして,高機能なOSを利用出来る,カーネルに含まれるミドルウェアが豊富である,特にネットワーク機能が強い,ロイヤリティが不要であることなどが挙げられます.

 

●スマートフォンのプラットフォームとしては,やはりAndroid を利用するのが優位なのか?

 Androidのアーキテクチャを図1に示します.スマートフォンに限らず,今後,組み込みシステムを開発する際には,QCD(Quality:品質,Cost:コスト,Delivery:納期)の観点からもほとんど完成されたプラットフォームを利用することが必須となっています.よって,スマートフォンの場合はやはりAndroidを採用するのが優位だと思います.なぜならば,スマートフォンに必要な機能はほとんど開発しなくても良いからです.もちろん,それでは製品は売れないので,ホーム画面をカスタマイズしたり,赤外線通信やワンセグなどの特殊なデバイスを載せたり,動作を早くしたりという開発をして他社との差別化を図る必要はあります.

 


図1 Android のアーキテクチャ

 

●それともLinux+ 各種ミドルウェアを利用するメリットはあるのか?

 Linux+各種ミドルウェアを豊富に揃えているのが,MeeGoです.MeeGoのアーキテクチャを図2に示します.MeeGoでは,ミドルウェア・レイヤの上に,ユーザ・エクスペリエンス(UX)レイヤーが用意されており,ユーザ・インターフェースを載せ替えることにより,スマートフォンだけではなくネットブックやタブレット,セットトップボックス,車載端末などの市場にも適用できることも特徴です.MeeGoはまだ発表されたばかりですが,Intel社とNokia社がリーダーシップを取っていることから,少なくともNokia社がIntel社の携帯電話向けのチップセットを採用したスマートフォンを発表するのも時間の問題です.

 


図2 MeeGo のアーキテクチャ

 

●今後のLinux は,さまざまなプラットフォームの基幹として採用

 1990年の発表から20年が経過し,Linuxはサーバやデスクトップなどのエンタープライズ分野だけではなくさまざまな組み込みシステムにも採用されています.すでに組み込みシステムを支える基盤となるポジションを確立したと言っても過言ではありません.今後も,LinuxはAndroidやMeeGoに限らず,さまざまなプラットフォームの基幹として採用され,より進化していくことはもはや間違いないと思われます.引き続き,Linuxの動向に注目していきたいと思います.

 


参考・引用*文献

・Androidのホームページ(http://www.android.com/
・MeeGoのホームページ(http://meego.com/
・Introduction to the MeeGoProject(http://wiki.meego.com/images/MeeGo_Introduction.pdf
・ガートナー プレスリリース「Gartner Says Worldwide Mobile Device Sales Grew 13.8 Percent in Second Quarter of 2010, But Competition Drove Prices Down」2010 年8 月12 日
http://www.gartner.com/it/page.jsp?id=1421013


なかむら・けんいち

(社)組込みシステム技術協会 技術本部 プラットフォーム研究会委員長 


 

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