クラウド時代の組み込みLinux

木内 志朗

tag: 組み込み

2010年9月21日

2000年から組み込みシステムへの検討が始まったLinux は,現在多くのシステムへ採用される組み込みOSとなりました.そして,クラウド元年の今年,組み込みLinuxは新たな展開が期待されます.ここでは,この10 年間の組み込みLinux の経緯と今後の展開について解説します.

●オープンソースの波

 組み込みシステムでのオープンソースであるLinuxの利用は,この10年で急速に進み,標準的に組み込み機器へ採用されるOSの一つにまで成長しました(図1).組み込みシステムでのオープンソースを利用する流れは,不可逆な進化であり,これからもより早いスピードで進んでいきます.


図1 組み込みシステムに採用されているOS
(出展:経済産業省 組み込みソフトウェア産業実態調査 2004~2010年版)

 

●Linux の進化

 コミュニティでのLinux開発は,趣味やボランティアで成長してきたのではありません.多くの企業が戦略的にリソースを投入した結果,今日のような進化をとげてきたのです.

  • 自社の技術をコミュニティに公開することによりデファクトの技術として市場でのイニシアティブを取る
  • 自社の技術をコミュニティで公開する事により自社の技術を進化させていく
  • 自社が開発したソフトウエアをコミュニティに公開する事によりメンテナンス費用を分散させる

 このような戦略のために多くの企業はオープンソースに積極的に投資を続けてきています.そのため現在,多くの最新技術がオープンソースとして公開されているのです.今後も最新技術を組み込みシステムで利用するためには,オープンソースを積極的に取り入れていく必要があります.

●クラウドコンピューティング

 気がつけば,あらゆるところでクラウドの利用が始まってきています.クラウドを利用する端末はパソコンだけではありません.ネットブック,MID,スマートフォンなどのシン・クライアントが,クラウドを利用する端末としてとして広がっています.

 今後,パブリック・クラウドが広がり社会インフラとして成長していくことにより,シン・クライアントだけではなく,新たなデバイスや機器もクラウド環境に繋がっていく必要性が出てきます.

 クラウドの進化は早く,今後も新しいサービスが次々に生まれてきます.どのような技術が今後必要になっていくか,方向性を先読みすることは難しくなっています.

 クラウドで利用できる技術の多くはオープンソースとして公開されており,Linuxとの親和性が高くなっています.そのためクラウドに繋がる組み込みシステムにおいてもLinuxを採用する事により急速に進化していく技術をいち早く利用していく事が出来ます. 

●セキュリティ性


 クラウドが広がっていく中で,一つ重要なキーワードはセキュリティ対策です.あらゆる情報がクラウド側に保存されており,端末側はあらゆる場所からこれらの情報やサービスを利用する事になります.保存されているデータ,ネットワーク伝送路,端末側など幅広い領域にわたりセキュリティ対策が必要となります.

 新しいセキュリティ技術の多くもオープンソースとして公開されています.Linuxを使用する事によりクラウド時代に必要とされるセキュリティ技術を端末側の組み込みシステムでも利用することが可能です.

●クラウドと組み込みLinux の親和性

 クラウドコンピューティングに繋がる組み込みシステムを考えた場合,ソフトウェア基盤となるOSとプラットフォームには次のような特徴を備えている必要がります.

  • 柔軟なカスタマイズ性
  • 最新のネットワーク技術の利用
  • 高度なセキュリティ技術と維持
  • 最新技術の進化への追従
  • モバイル機器が必要する省電力,リアルタイム性
  • 安価,あるいは無償のOS とアプリケーション

 Linuxは既に組み込みシステムのOS として成熟しておりこれらの特徴を全て満たしている.Linuxは携帯電話を始めとするモバイル機器,ネットワーク機器,デジタルコンシューマ機器,医療機器,OA 機器等幅広い分野の製品に採用されてきています(図2).


図2 組み込みLinuxの主な搭載事例と業界団体動向

 

●組み込みシステムの進化

 かつての組み込みシステムは,特定用途向けの製品であり,特定機能だけを実現するソフトウェアだけが実装されてきました.ネットワーク化が進み,ネットワークを通じて機器同士が相互接続する事により新たな製品としての付加価値を生んでいます.それに伴い,あらゆるユーザを想定して組み込みシステムは,あらゆる機能を製品に搭載するようになりました.分かりやすい例が日本の高性能な携帯電話です.結果として,ソフトウェアは肥大化し開発コストも膨大になってしまいました.

 クラウド化が進む中で組み込み機器はどのような進化を遂げていくのでしょうか.おそらく,ユーザが本当に必要な機能だけを選択して,クラウドから提供されるサービスで実現するといったことが実現可能になると予測しています.つまり,Webプログラミングで行われている,複数のWebサービスのAPIを組み合わせ,あたかも一つのWebサービスのように見せるマッシュアップ的な発想です.

 組み込み機器においてもクラウドから提供されるサービスをマッシュアップ的に機器の一つの機能として使用します.つまり,組み込み機器自身で実装される機能とクラウドからのサービスにより実現される機能が混在したハイブリッド機器に進化していくと思われます(図3).
 


図3 クラウド時代の組み込みシステム

 

●組み込みLinux 2.0

 今日までの10年間は,Linuxをどのように組み込みシステムで利用していくかと行ったところが主眼におかれてきました.多彩なデバイスへの対応,リアルタイム性確保,起動時間短縮,メモリサイズ削減,開発環境の整備といった,従来の組み込みシステム開発と組み込みLinux開発とのギャップを埋める事に重きがおかれていました.

 現在は,Linuxをベースにアプリケーション・レベルまでのオープンソース・プラットフォームを利用していく流れが進んでいます.例えば,Androidは既にスマートフォンで広く採用が進んでいます.また,MeGooはMIDやネットブックなどで広がっていく可能性があります.さらに自動車向けインフォテーメント・プラットフォームの構築を進めているGENIVI アライアンスなどは,アプリケーション層まで含んだプラットフォームの代表的な動きです.コアとなるOSは全てLinuxです.

 これまでの10年を組み込みLinux 1.0と呼ばせてもらうと,まさに組み込みLinux 2.0というべき次のフェーズに差し掛かっています.より高い自由度(柔軟性)と開発スピードが求められる組み込みシステム開発において,Linuxは今後ますます広まっていくと考えられます.

きうち・しろう
モンタビスタソフトウエアジャパン(株)
技術本部 本部長 

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