インテグリティな技術コラム(5) ―― 差動インピーダンス

碓井 有三

tag: 実装

コラム 2010年8月10日

●差動伝送ではディファレンシャル・モードのみ存在

 差動伝送(または平衡伝送)の場合,2本の線路間には常に逆極性の信号が加えられます.従って,ディファレンシャル・モードのみが存在し,基本的にはコモン・モードは存在しません.特性インピーダンスもZDのみを考えればよいことになります.「差動インピーダンス」という表現もよく用いられます.PCI Express(PCIe)やSerial ATA(SATA)は100Ω,USBは90Ωといった具合です.この場合の差動インピーダンスは,ZDの2倍を意味します.「2本の線路間」という意味です.コモン・インピーダンスも,ZCの半分と規定していることが多いようです.

 それぞれの規格において,差動インピーダンスは比較的厳しく値の範囲を規定していますが,コモン・インピーダンスは緩い規定になっています.結合が強い場合,コモンのノイズが2本の線路に同等に乗るため,引き算されて消えるので有利です.評価基板などでは,同軸用のコネクタで接続する必要性から,シングル2本の線路としている場合もあります.

 複数の線路の縦続接続となっている場合は,各線路のコモン・インピーダンスをできるだけ等しく選んだほうがよいでしょう.基本的にはディファレンシャルの信号のみが伝わりますが,何らかの状況により,コモンのノイズが重畳した場合には,線路間の接続点で反射が生じて,それがメインのディファレンシャルの信号に影響を与える可能性もあります.無用の反射を防ぐという意味で,各線路の二つのインピーダンスをそろえておくほうが無難です.

●シングルと差動の層内同居では調整が難しい

 差動伝送を多用する場合,ボードの一つ,あるいは複数の層を差動専用に割り当てることは可能です.一方,ほとんどがシングル伝送(シングルエンド伝送)で,差動伝送を少しだけ混在させるような場合,シングル伝送と差動伝送の両方の特性インピーダンスを所望の値に設定することはそれほど容易ではありません.

 シングル伝送の線路の特性インピーダンスZ0は式(2)で表されるので,一般的にはZ0ZDは異なります.図2の例では,線路が1本だけの場合,特性インピーダンスはおよそ70Ωです.PCI ExpressやSerial ATAのように差動インピーダンス(=2×ZD)を100Ωとするには,パターンのグラウンドからの距離を十分離して,ZD=50Ωになるような寸法に設定しますが,このままではシングル伝送の特性インピーダンスが高くなります.この層内でシングル伝送の特性インピーダンスを50Ωにするには,パターン幅を200μm以上に広げる必要があります.

 上記の例では,差動伝送の寸法を先に決めて,シングル伝送の寸法を後で決めたので,結果的に差動伝送を重視した寸法となりました.シングル伝送の場合,特性インピーダンスのほかにクロストークも考慮して,基礎クロストーク係数ξをある値以下に設定する必要があります.図3は,シングル線路のZ0を50Ω,基礎クロストーク係数ξを0.15とし,差動線路のパターン幅を100μmに固定し,差動間のギャップを差動内のスペースの2倍とした例です.シングル伝送あるいは差動伝送のどちらを重視するかによって選んだ場合を示しました.シングル伝送と差動伝送のどちらの配線が多いかにより,どちらを重視するかを決定する必要があります.

 


図3 シングル伝送と差動伝送の層内同居における断面寸法図

 

●極薄銅箔の採用で問題を解決できる

 差動インピーダンス(=2×ZD)を100Ω付近に選ぶことは,それほど簡単ではありません.図3のシングル伝送重視の場合はペア内のスペースを256μmと広く選びます.差動伝送を重視した場合でも,グラウンド間の距離を618μmという広い寸法に設定する必要があります.要するに,現在,普通に用いられている寸法から見ると,差動インピーダンスの100Ωは高すぎます.

 差動伝送は複数の信号をシリアル化して1本にまとめることが多く,一般的に高いデータ転送速度なので,伝送波形も高い周波数成分が主となります.周波数が高くなると,表皮効果により,信号は導体の表面だけを伝わります.例えば1GHzでは,表面の2μm程度しか電流は流れません.一般に用いられる銅箔(はく)厚の18μmは厚すぎで,数μmで十分と言えます.

 表2に18μm厚と9μm厚の銅箔を用いた場合の寸法の比較を示します.9μmの銅箔厚の場合,差動線路の実装密度が向上し,設計がずい分楽になることが分かります.18μm厚の銅箔では,導体幅W,パターン間ギャップG共に100μm程度が量産の際の実用的限界と言われていますが,銅箔厚を薄くすると,パターンの加工精度が向上し,WGも100μm以下の寸法を実現できるのではないかと考えます.

表2 異なる銅箔厚による寸法例

 

 新しい技術の採用に際しては,ためらいがあるとは思いますが,どなたか最初に実用化して,他社との差異化を図っていただければ幸いです.

 

うすい・ゆうぞう
シグナル インテグリティ コンサルタント
http://home.wondernet.ne.jp/~usuiy/

 

◆筆者プロフィール◆
碓井 有三(うすい・ゆうぞう).1972年,富士通株式会社入社.回路技術部長,テクノロジ本部主席部長などを経て,2001年に退社.同年,株式会社マクニカ入社.同社CTOなどを経て,2008年退社.現在,フリーのコンサルタント.

 

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