プリント基板のGerberフォーマットがなくなる!? (1) ―― GerberからODB++へ

剣持 裕治

tag: 実装 電子回路

コラム 2010年7月 9日

 ODB++(「オーディービープラスプラス」と発音する)は,プリント基板の設計工程から製造工程へ情報を伝達するための統合されたデータベースです.現在,こうした用途ではGerber(「ガーバー」と発音する)フォーマットと呼ばれるデータが広く使われています.しかし,このGerberデータだけでは製造に十分な情報が含まれておらず,別途,ドリル・データ(Excellonや日立フォーマットなど),さらには部品実装機(マウンタ)の部品配置座標情報,そして基板の材質/厚さなどの指示書が必要になります.これらの情報のどれ一つが欠落しても,プリント基板は製造できません.また,プリント基板の多様化・複雑化に伴い,最近では「製造しやすさに配慮した設計(DFM:Design for Manufacturability)」や「設計工程から製造工程への情報の確実な伝達」が重要な課題となっています.こうした問題を解決する技術として注目されているのがODB++です.

 本コラムでは,海外を中心に普及し始めたODB++について解説します.今回は,現在使われているGerberの問題点とODB++の普及状況について述べたいと思います.

●標準Gerber(RS-274D)にはアパーチャ・リストが必要

 プリント基板の製造に使われるフォトマスクを作成するためには,パターンやランドなどの形状をプリント基板CAD(Computer Aided Design;設計支援ツール)からCAM(Computer Aided Manufacturing;製造支援ツール)へ伝えなければなりません.その目的のために古くから使われているフォーマットがGerberです.

 このフォーマットはもともと,旧Gerber Scientific Instrument社のフォトプロッタ(フォトマスクを作画するための露光機)を制御するためのデータ形式でした.世界的にデファクト・スタンダード(事実上の業界標準)となり,1979年に米国EIA(米国電子工業会)で「RS-274D」として規格化されました(図1).日本では「標準Gerber」と呼ばれることが多いようです(ドリル・データは別途,「RS-274C」として規格化された).


図1 RS-274Dの構造


 このフォーマットはXY軸で動くベクタ・タイプのプロッタを稼働させることを目的としているため,「ある形状」をどこに描くか(フラッシュ)という機能と,「ある形状」をXY座標のどこからどこまで動かすか(ドロー)という機能しかありません.この「ある形状」を定義するには,「アパーチャ・リスト」と呼ばれる形状やサイズのリストが必ず必要になります.また,座標を表すための数値解釈,すなわち最小単位(0.01mmや0.1mil),および絶対座標か相対座標かの指定を指示書で伝える必要があります.これらの指示書がないと,RS-274Dのファイルだけでは基板を製造することができません.

●拡張Gerber(RS-274X)だけではビルドアップ基板を作れない

 RS-274Dでは,アパーチャ・リストや数値解釈のための指示書を別途,準備する必要がありました.こうした欠点をなくし,面や異形形状描画のためのコマンドを拡張したフォーマットがRS-274Xです.これは「拡張Gerber」と呼ばれており,RS-274Dの上位互換のフォーマットになります.RS-274Dで不足していた情報はファイル・ヘッダに記述されており,RS-274Xのみでもプリント基板のフォトマスクを作図できます(図2).


図2 RS-274Xの構造


 ただし,1レイヤ1ファイルとなっているため,各層のパターンやシルク図,ソルダ・レジスト,ハンダ・マスクなどの基板を構成するレイヤがどのファイルに該当するのか,またそれらのレイヤがネガで描いたのかポジで描いたのかを指示する必要があります.さらに最近では,ビルドアップ工法による基板層数の増加と全層IVH(Interstitial Via Hole;層間を接続するビア)の普及により,基板構造が立体的に複雑化してきています.こうした複雑な層構成も,別途,指示書で伝えなければなりません.

 このような問題点はありますが,RS-274Xは現状,プリント基板製造における標準フォーマットとなっています.RS-274Xについては,フォトプロッタ・メーカであるベルギーUcamco社のサイトのダウンロード・ページから,最新版の仕様書をダウンロードできます(名前やメール・アドレスなどの登録が必要).

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