プリント基板の可能性を再考,「プリント基板アート」制作へ(後編) ―― 零細企業でもクラウド・ファンディングで気軽にアイデアを実現

加藤木 一明

tag: 実装 電子回路

コラム 2013年1月23日

 初めて制作した「プリント基板アート」は,なかなかの仕上がりでした.

 筆者は次に,自社商品として販売できるかどうかを判断するために,多くの方々に「プリント基板アート」を知ってもらい,さまざまな意見を聞く必要があると考えました.知り合いに聞いて回ったところ,プリント基板と言うと,「光ったり,音が鳴ったり,部品を実装していなければ意味がない」,とおっしゃる方が多かったのが印象的でした.このほか,「葉っぱ以外のデザインはないのか?」という質問もいただきました.

 

●デザイン系のアワードに応募,イベントにも出展

 「アート」として認知されるには,デザイナとのコラボが必要です.当初はFacebookのページだけで紹介していましたが,それでは不十分だと感じ,どうしたらプリント基板アートをデザイナの方々に知ってもらえるかを考えていました.

 そのような中,東京都主催の「東京ビジネスデザインアワード」のテーマ募集を見つけました.このアワードに応募したところ,運良くテーマの一つに選定されました.残念ながら今回は,該当するデザインは出てきませんでしたが,多くのデザイナの方と出会えた貴重な機会となりました.

 このほかに効果的だと感じたのは,「デザインフェスタ」への出展です.試験的にプリント基板アートのストラップを制作・販売し,完売しました.お客さまの感想や反応が直接得られた点が有効でした.例えば,「一見では,基板と判断できないところが自慢になる」というコメントを購入された方からいただきました.

 さらに,テレビ東京の「ワールド・ビジネス・サテライト」の特集や,月刊誌「PROJECT DESIGN」の記事などにも取り上げられました.

 

●資金集めにクラウド・ファンディングを利用

 「プリント基板アート」を新規の事業としてスタートするためには,資金集めの問題があります.筆者は現在,資金集めの手段としてクラウド・ファンディング・サービスを利用しています.クラウド・ファンディングで有名なのは,米国のKickstarterで,「iPod nano腕時計」の成功などが知られています.

 日本ではCAMPFIREが最大のクラウド・ファンディング・サービスです.クリエータのアイデアを実現するため,賛同したファンから小口の資金を募り,資金調達してプロジェクトを達成させるシステムです.面白いのは,目標金額が設定されている点です.目標金額未達成の場合は決済されることがなく,目標金額に達成して決済された場合は,出資金額に応じた「リターン(お返し)」があります.プリント基板アートのプロジェクトは,こちらに掲載されており,2013年1月31日まで,出資を募っています(図1写真1).

 

図1 クラウド・ファンディング・サービス「CAMPFIRE」に投稿

※ 以下の図,写真をマウスでクリックすると,拡大できます.

 

 

写真1 Healing-Leaf初期モデル(70mm×30mm)をベースに,CAMPFIRE投稿中の 【こもれび】ペンダントを作成

 

 

 筆者は2012年8月末にCAMPFIREに申請し,2012年12月中旬~1月31日の掲載となりました.掲載までの3カ月半は,動画の作成や掲載内容の準備に追われました.本業とは勝手が違い,商品や想いをアピールしたり,プロモーションするのが不慣れで,思うように作業は進みませんでした.

 特に動画の作成については,プリント基板アートが動きのない商品であるだけに,困り果てました.何度も撮影し直し,最後には筆者自身が出演して想いを伝える動画を作成しました.最終商品がなくても,CGや試作品,プロジェクトへの想いを動画で伝えることでアピールできるのがクラウド・ファンディングの良さだと思います.撮影は,仲間の応援や協力がなくては実現できなかったでしょう.あらためて仲間の大切さを実感しました.

 CAMPFIREに掲載されてからは,支援者の数と金額が気になる日々が続きました.ありがたいことに,2週間ほどで支援者は50名となり,現在は支援者が70名を越え,目標金額を達成することができました.この投稿により,多くの方にプリント基板アートを知っていただくことができました.メディアにも取り上げられ,弊社の規模では考えられないほどの反響が起こっています.実際の商品開発の前にプロモーションと調査を行え,また発売後のリスク軽減にもつながったと実感しています.

 

●CADベンダや基板製造業者の協力のもとで作品が完成

 最近では,Facebookやビジネスデザインアワードなどを通じて知り合ったデザイナの方に相談にのっていただき,新たな作品を発表できる体制が出来上がりつつあります.ただし,プリント基板アートはデザインだけで作品が作れるわけではありません.プリント基板の設計にはプリント基板CADが必要ですし,製造にはプリント基板メーカの協力が必要です.

 プリント基板CADは,実は曲線の扱いを苦手としています.筆者が所有している図研の「CR-5000 Board Designer」は複雑なアナログ回路のパターン設計などで実績があり,プリント基板CADの中では比較的,曲線の取り扱いを得意としているツールです(図2).しかし,そのCR-5000 Board Designerでさえ,プリント基板アートの設計の途中でシステム・ダウンが発生することが数回ありました.加えて,生成したCAMデータ(製造用データ)の容量は,非常に大きなものになってしまいました.

 

図2 CR-5000 Board Designerで曲線の多い葉っぱを設計

 

 

 今回のプリント基板アートの設計では,担当営業の方をはじめ,図研の多くの方の協力によって問題を乗り越えることができました.今後,さらに曲線パターンの描画に強いプリント基板CADが提供されることを期待しています.

 プリント基板アートの製造にあたっては,多くのプリント基板製造工場に断られました.配線や外形,穴のすべてに曲線が多く,生産性や製造技術上の問題があったからです.例えば大量生産のための標準化運用があだとなり,レジストの特注色の依頼などに対応していただけないケースが増えているように思います.

 そのような状況の中でも,プリント基板アートの製造に挑戦し,ご協力いただいた基板製造業者がありました.そのままでは加工データを取り込めず,手で入力するなどの手間が発生しましたが,その苦労を乗り越えて,今回の基板は完成しました.基板が出来上がったとき,製造現場の皆さんが喜びの声を上げて盛り上がった,といううれしい話も聞きました.

 

●ちょっと違った挑戦はワクワクする

 弊社のプリント基板アートの活動には,一般の方々にプリント基板のことをもっと知っていただくことで,プリント基板の新たな可能性やニーズを開拓することをねらっています.今後5年,10年と本業のプリント基板設計の仕事を続けていくためには,何もせず,価格競争へと突き進んでいくわけにはいかないと考えます.また,自社の強みをアピールできる自社製品の開発が必要だと思います.何よりも,ちょっと違った挑戦は,エンジニアとしてとても楽しく,ワクワクします.

 ぜひ皆さんも,自社で出来ることを生かした製品の開発に取り組んでみてはいかがでしょうか? いずれ景気が良くなり,本業の設計の仕事が戻ってくるとは思いますが,以前と同じようになるとは思えません.大手メーカの元気がない今こそ,弊社のような零細企業や,大手メーカを早期退職した方々が,クラウド・ファンディングなどを活用して自身のアイデアを実現する良い機会なのだと思います.

 弊社の活動が,そういった方々の参考になれば幸いです.

 

 

かとうぎ・かずあき
(有)ケイ・ピー・ディ
http://www.kpd-jp.biz/

 

 

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