USB 3.0規格のFAQ(2) ―― SuperSpeed USBはいかにして高速伝送を実現しているのか?

畑山 仁

tag: 実装 電子回路 Interface

技術解説 2009年8月26日


Q.EMI低減のため,どのような工夫がなされているのか?
A.スクランブル/デスクランブルとスペクトラム拡散クロックが導入されている
. 


 

 

 スクランブルはデータを攪拌(かくはん)し,同じデータ・パターンが繰り返されないようにする方法です.これにより,特定周波数にエネルギのピークが集中するのを防ぎます.具体的には,図15に示す線形フィードバック・シフト・レジスタ(LFSR:Linear Feedback Shift Register)で生成した乱数を,送信したいデータと排他的論理和(XOR)することで,実際の送信データを生成します.スクランブルは8b/10b符号化を行う前に適用します.受信側では,8b/10bデコード(復号化)を行ったあと,受信データとLFSRが生成したデータと再度XORすることで,元のデータに戻せます.もちろん送信側と受信側のLFSRは同期している必要があり,COMと呼ばれる8b/10b符号の中の制御用特殊文字の一つ(K28.5)を使ってリセットし,同期をとります.



図15 線形フィードバック・シフト・レジスタによるスクランブラ/デスクランブラ

 

 図16は,スクランブラの動作を説明したものです.この例では,データは00hを連続して送信しているので,LFSRが生成したデータがそのまま送信されます.この結果,USB 3.0の物理層は,省電力モードで回路がスリープ状態にある場合以外は,データを送信していない状態(論理的な待機状態であるロジカル・アイドル)でも常にランダムな信号が流れていることになります.ただしランダムといっても,あくまでも8b/10b符号化されたデータが送信されています.



図16 スクランブラ/デスクランブラ動作

 

 スクランブルしない場合とスクランブルした場合の物理層の信号の周波数分布を,オシロスコープのFFT機能を使って観測してみました.何も送信するデータがない場合,元のデータは繰り返し送信される'0'のデータに相当するD0.0というデータ・パターン「1001110100」です.図17はスクランブルを適用していない状態,図18はスクランブルを適用した状態です.この例では,エネルギの最大値として17dBほどの違いがあることが分かります.



図17 スクランブルを適用していない物理層信号の周波数分布

 




図18 スクランブルを適用した物理層信号の周波数分布

 

 スペクトラム拡散クロック(SSC:Spread Spectrum Clocking)はクロック周波数に対して故意にジッタを持たせることで,EMIのピークを分散する手法です(図19).今日のパソコンでは,ほとんどの機種でSSCを利用しています.また,その多くはOFFできません.USB 3.0のデータ・レートは5Gbps~4.995Gbps(0~-0.5%)のダウン・スプレッド,周期に換算すると200ps~201psの範囲を30μs~33μsの周期,すなわち30kHz~33kHzで変動します.



図19 スペクトラム拡散クロック

 

 図20はオシロスコープのジッタ解析ソフトウェアを使用して,データ・レートの変動を時系列的に表示したもの(タイム・トレンド)です.200μsにわたって観測しました.データ・レートが三角波状に変動していることが分かります.この変動形状を三角波プロファイルと呼んでいます.なお,フィルタ機能を使って2MHz以下の成分だけを表示しています.



図20 データ・レートのタイム・トレンド表示によるスペクトラム拡散クロック(SSC)の確認

 

 前述のようにスペクトラム拡散クロックは,規格のクロック周波数およびデータ・レートに対して下がる方向への変調であるダウン・スプレッドとなっています.もし周波数を上げる方向へ変調すると,回路の時間的な余裕がなくなり,動作が厳しくなります.しかし,性能向上のために周波数を上げ,上限周波数が規格値を超えているメイン・ボードが市場に見られます.こういったメイン・ボードでは,機器間を接続した際の相互接続性(インターオペラビリティ)について,問題を引き起こす可能性があります.図21は,実際にセンタ・スプレッドされている(規格周波数を中心に上下に変調されている)マザー・ボードの例です.最高データ・レートが周期として199.51ps(5.012Gbps)~200.48ps(4.988Gbps)の範囲で変動していることが分かります.

 



図21 センタ・スプレッドの例

 

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