PHS経由でネットに接続できるEthernetアダプタのファームウェアをハック・中編 ―― LANにつないでメールの送受信と自動実行を実現
今回は,Ethernetアダプタ「OSX-1」をLANにつなぎ,メールの送信や自動返信,電源投入時の自動実行などを実現する.メールを使えば,ファイア・ウォールを飛び越えて外部からアクセスできる.例えば,組み込み機器における遠隔制御や遠隔監視などのアプリケーションに利用できる. (編集部)
本稿の前編では,ウィルコムのPHSモジュール「W-SIM」を利用してインターネットに接続できるEthernetアダプタ「OSX-1(愛称:つないでイーサ)」をハックし,開発環境を導入して簡単なテスト・プログラムを動作させてみました(写真1).本機の魅力は,場所を選ばずインターネットに接続できることです.今回は,この機能を活用してメールを送受信する方法について説明します.
このような機器でメールを利用する利点として,ファイア・ウォールを越えて外部からアクセスできることが挙げられます.今後,この方法は組み込み機器においても重要なアクセス手段になると思います.
W-SIMを利用して,いつでもどこでもパソコンなしでインターネットに接続して,Ethernetを利用できる.内部のファームウェアを書き換えることで,さまざまな応用が可能.価格は16,000円前後.
● 携帯電話で部屋の冷房を制御するのは意外と難しい
メールを利用するシステムの代表例として,部屋の冷房を携帯電話でコントロールする事例を考えてみましょう.
ここでは,携帯電話で現在の室温やクーラの運転状態をモニタし,例えば室温が30℃を超えたときに運転を開始することを考えます.この場合,携帯電話を使って,どうやってこのシステムにアクセスするかが問題となります.
このような場合,部屋の中にLinuxなどを利用したWebサーバを立ち上げ,パソコンや携帯電話からこのWebサーバにアクセスし,CGI(Common Gateway Interface)を利用してポートをコントロールしようと考える方が多いと思います.しかしこの方法だと,想像以上にさまざまな問題を解決しなければ,期待する動作を実現することは困難です.例えば,設定するWebページのURLはどこにすれば良いのでしょうか?
一般のプロバイダ経由でインターネットに接続する場合,接続のたびに異なるIPアドレスが割り当てられます.ダイナミックDNS(Domain Name System)を利用すれば,IPアドレスが変動してもURLを元にしてサーバにアクセスできますが,仮にアクセスできたとしても,通常はルータがファイア・ウォールとして動作するので,外部から内側にある機器へアクセスできません.それが,悪意のある外部からのアクセスを防止するファイア・ウォールの本領なので,こればかりはどうしようもありません.ルータを細かく設定し,ポート・フォワーディング機能を利用して内部へアクセスするトンネルを作り,ようやく家庭内にあるサーバへアクセスできるようになります.
ケーブル・テレビ局や一部のプロバイダを利用している方は,プロバイダ自身のファイア・ウォールが存在するので,外部からアクセス可能なサーバを設置することそのものが不可能な場合もあります.
こうした課題は「ファイア・ウォール越え問題」と呼ばれ,組み込み機器を扱う技術者にとって,頭の痛い問題となっています.つまり,Webサーバを利用して携帯電話から部屋の中に設置した機器を制御することはかなり難しいのです.
● メールは組み込み機器にマッチしたアクセス手段
筆者は,組み込み機器をコントロールするためにはメールを利用するのが最も便利だと考えています.携帯電話でメールを作成することは,当たり前の操作になっています.組み込み機器にメール・アドレスを一つ与えて,メールの件名や本文中にコントロールする内容を書いて送信すれば操作可能です.また,機器に対して空メールを送信すれば,現在の状態をレポートするメールを自動返信してくれるという使い方になります.この方法ならば,割り当てられたIPアドレスは何でも構いません.