国内組み込みツール・ベンダ4社が共同設立したLinux企業「イーエルティ」

組み込みネット編集部

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インタビュー 2001年6月 6日

 国内の主要な組み込みツール・ベンダである,ガイオ・テクノロジー(コンパイラやデバッガ),ワイ・ディ・シー(ICE),エルミック・システム(ミドルウェアなど),ガイア・システム・ソリューション(シミュレータなど)が,組み込みLinuxの開発環境ベンダとして,株式会社イーエルティ(ELT:Embedded Linux Technology)を設立した.イーエルティは,組み込みLinuxのアプリケーション・ソフトウェアがすぐに開発できる環境の提供を目指している.GNUベースの開発環境だけでなく,上述のツール・ベンダが提供しているコンパイラ,デバッガ,ICEなどを組み込みLinux開発用として統合していく.今回は,イーエルティの代表取締役社長に就任した坂本秀人氏に,会社設立の経緯,組み込みLinux企業としての今後の取り組みを聞いた.

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イーエルティ代表取締役社長の坂本秀人氏

―― ELTの会社設立の経緯を教えてください

 ITRONに対する反省があります.ご存知のとおり,ITRONはOSの仕様を公開しています.しかし,性能を重視しているためか,実装はベンダごとにバラバラの状況です.当然,採用したITRON準拠OSに特化した開発ツールが必要になります.このため,一つのベンダで対応できる開発ツールは存在しません.

 また,外資系ソフトウェア開発ツール・ベンダとの付き合い方の難しさの問題もあります.欧米のソフトウェア・ベンダは合併や買収などが多く,ユーザが採用を決めて投資しても,むだになることがあります.

 Linuxの場合,シングル・ソースです.実装で,大きなバラツキが出ることはありません.また,コミュニティが支えているので,必要な技術情報は,随時,入手することができます.ミドルウェアが充実しているのも魅力です.しかし,ネイティブで動作するツールが少ないという課題があります.

 現時点では,バイナリの動作までテストして確認を行っている米国MontaVista社のHard Hat Linuxが一番だと考えています.組み込みLinuxのカーネルとしてHard Hat Linuxを標準採用しました.ただし,MontaVista社はPure Linux(カーネルに手を加えていない,オリジナルのLinuxという意味)を提唱しているため,GNU以外の開発ツールを提供することが難しいという問題があります.そこで,組み込みLinuxのポータル・サイト役になることを目指して,組み込みLinux向けの非GNU開発環境を提供する会社を設立することにしました.

―― なぜ4社で,会社を設立したのですか?

 1社だけで設立すると,「イーエルティは組み込みLinuxのポータル・サイト」と見てもらいにくくなります.このため国内の主要ツール・ベンダを中心に据えました.「組み込みLinuxを担いでいこう」というのが参加企業の考えです.

 それぞれの会社が持っているツールのコア・テクノロジをLinuxに特化することで,ITRONでLinuxのファンクションを使ったり,ITRONのIP(ミドルウェアなど)をLinuxで利用することも可能になります.

―― 競合として考えているのは?

 一番の競合は,半導体メーカが提供するソフトウェア開発ツールですね.

―― システム・インテグレータ(SI)とは競合しないのですか?

 SIとは競合しないと思います.イーエルティは,ツール,ターゲット,プロトタイプ,カーネル,ミドルウェアのコンサルタント,インプリメント,テストを扱います.

―― Hard Hat Linuxを標準カーネルに採用していますが,今後の予定は?

 ITRONについては,「LinuxとITRONのハイブリッドOS」のサポートを考えています.ブラウザ,Javaなどを組み合わせる製品を提供する予定です.

 イーエルティは,Linuxを組み込みに応用することを目的としています.現時点では,オープン・ソースであること,バイナリの動作までテストで確認していることなどから,Hard Hat Linuxが一番だと考えています.もっと良い,組み込み向けのLinuxが登場すれば対応していきます.

 Hard Hat Linuxだけを取り上げるのではなく,組み込み分野におけるLinuxの市場を広げていきたいのです.このためコミュニティ活動を充実させます.Emblix(日本組み込みLinux協会)を通して,公開できるものは広める考えでいます.

 これは極論ですが,将来,イーエルティやMontaVista社が統廃合の波に飲み込まれることも考えられます.しかし,オープン・ソースとしてまとめてあれば,サポートを続けることが可能になります.このためには,Emblixが主導でテスト,品質管理などを進める必要があると考えています.

―― 対応するターゲットCPUは?

 PowerPC,MIPS,ARM,SH,XScaleをターゲットCPUと考えています.意外かもしれませんが,x86への対応は考えていません.x86を採用するシステムは,OSにWindowsCEを採用する向きが増えています.また,ツールに関してWindowsネイティブの環境が整備されているからです.

―― Hard Hat LinuxのターゲットCPUとラインナップが異なりますが?

 MontaVista社との同調が取れていないのは事実です.しかし,移植が必要な場合は,日本支社のモンタビスタソフトウェアジャパンを窓口として依頼をもらえば対応していきます.

―― 最初のツールとして,提供する予定の製品を教えてください

 2001年7月からの本格参入を予定していましたが,実際には,最初の製品の出荷は2001年9月になりそうです.まず,ガイオ・テクノロジーのクロス開発環境とワイ・ディ・シーのICEを,Hard Hat Linuxに対応させて発売します.イーエルティが,OSとのインターフェースの情報を両社に提供します.また,開発された製品はイーエルティが検証し,パッケージとして出荷します.これらの製品は,2001年6月27日~29日に東京ビッグサイトで開催されるESEC(組み込みシステム開発技術展)で発表する予定です.


イーエルティのホームぺージ
http://www.emblit.co.jp/


関連情報
・5.29 エルミックシステム,Hard Hat Linux向けのTCP/IPとJavaVMを開発
・4.10 MontaVista Software,SH-3/SH-4などに対応したHard Hat Linux2.0を発売

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