大冒険に巻き込まれる「のび太くん」みたいな青年の話だと思って読もう ――『それがぼくには楽しかったから』

仮屋和浩

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書評 2001年8月20日

大冒険に巻き込まれる「のび太くん」みたいな青年の話だと思って読もう

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リーナス・トーバルズ,デビッド・ダイヤモンド 著
風見潤 訳
小学館プロダクション 刊
ISBN:4-7968-8001-1
四六判18×13cm
384ページ
1,800円(税別)
2001年5月


 スティーンブン・ジョブスの閃き.ビル・ゲイツのあざとさ.デビット・カトラーの技術者魂.Linux開発者リーナス・トーバルズから,そんな何かは感じられない.

 無欲で無心,律儀でシャイ,純粋培養のオタク.幼少の頃,祖父の膝の上で,祖父が書いたプログラムをコモドールVIC20に入力して遊んでいたというから,オタクとしては筋金入りだ.

 青春を,ターミナル・エミュレータやディスク・ドライバの開発に費やした彼が,その成果をftpサイトにアップロードしたところから,Linuxの革新は静かに始まった.ネットワーク上で寄せられる要望やトラブル・メールを,彼は,疎ましがるどころか友人の言葉のように受け止め,むしろ励みにしてLinuxの改善を続けたのである.

 基本機能も安定性も上々,要求や問題点を提示すると,利益誘導も自己主張もなく,真摯に改善してくれる.しかもタダ.そんなOS,だれだって使ってみたい.商業主義のMicrosoft社に反感を抱くハッカーやエンジニアたちがLinuxを支持し,世界中にユーザと開発協力者の輪が広がり,オープン・ソースの象徴として開花した.

 過去,多くの技術革新は戦争やビジネス競争で生まれたが,この時代,リーナスが言うように『Fun』が原動力となった技術革新は多い.Linuxの躍進を偶然という人は多いけれど,存外,彼は,インターネット情報共有時代に適合した新しい技術革新スキームの具現者として歴史に名を残すのかもしれない.

 それにしても,オタクのリーナスに,一般人向けの本を書かせるなんて,共著のデイビッド・ダイヤモンド氏も苦労したことだろう.マシン3世代入手ヒストリやLinux開発の経緯の記述はノリノリだが,タネンバウム教授との論争や,世間を巻き込んだオープン・ソース化,知的財産権問題などはサラっとやり過ごしている.だが,ディビッド氏の尽力により,家族や周囲の人々のコメントや客観的記述が散りばめられており,だれにでも読みやすい内容に仕上がっている.

 『プロジェクトX ~挑戦者たち~』みたいな開発ストーリを期待すると,肩透かしを食らう.未来のロボット「ドラえもん」をお金もうけに利用しようなんて考えず,平凡な毎日を送っているうちに,大冒険に巻き込まれる「のび太くん」みたいな青年の話だと思って読めば,Linuxとリーナスを応援したい気持ちになるだろう.


仮屋和浩
(株)図研

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