低消費電力とA-Dコンバータを大幅に改良したマイコンが新登場!------開発者にお話を聞く

田中 邦夫

 小型化が進む組み込み機器の世界では,バッテリを長持ちさせることが大きなテーマです.その解決として,HALT(ホルト)状態に段階を設けて消費電流を抑える工夫をしたマイコンが,ロームグループのラピスセミコンダクタ株式会社から新発売されます.
 また新製品では,高精度なA-Dコンバータを内蔵しているため,センサ情報の精度を高めることが可能になります.CPUの休止状態が長く続き,高精度のデータ取得が要求されるヘルスケア製品をはじめさまざまな分野で活用できそうです.
 これらを実現させたマイコンML620500シリーズについて同社のLSI商品開発本部 AS-MCU開発ユニット 平塚 真史氏にお話を伺いました.
  注:HALT(ホルト)=【動詞】CPUが停止した状態

 

ラピスセミコンダクタの平塚 真史氏


■ HALTを3段階にして低消費電力を実現─HALT時の電流0.45uA


 ML620500(図1)は独自コアのRISCマイコンです.HALT(ホルト)時の電流が少なく電子棚札や温湿度ロガー,サーモスタット,ヘルスケア製品など電池で長時間駆動させる場合に効果的です.16bitマイコンは8bitに比べて動作時消費電流は大きくなりますが,処理時間が短いのでスリープ時間が増えて8bitより平均消費電力を抑えられます.特に複雑な演算やカラー表示など高性能処理が求められる製品には16bitが向いています.    
注:HALT(ホルト)=【動詞】CPUが停止した状態


図1 ML620500シリーズのシステム・ブロック図
上図のスタンダード・タイプの他に,LCDドライバ搭載タイプも出荷予定


 ML620500にはパワーダウンのモードとして3段階のHALTが用意されており処理内容で使い分けることで,低消費電力を実現しています(図2).
 省電力のモードは,3段階のHALTとSTOPモードがあります.どのモードでもRAM内容は保持されます.各々のHALTモードの違いは,タイマやシリアル通信など周辺機能の動作状況に応じます.またSTOPモードはクロックの発振も停止でき,消費電流も0.3uAと最小になります.必要な機能を残しながら電流を削減できるためバランスの良いソフト構築が可能です.


図2 段階的HALTモードで赤色部分の消費電流が減った

 


● ボタン電池1個で10年駆動


 温度・湿度計で使う場合,CPUの動作は数秒に1回の計測と表示の更新で十分です.このときCPUはほとんどHALT状態になり,HALT時の消費電流を抑えれば平均消費電流が抑えられます.
 ここで,消費電流5uAの低消費電流LCDを1秒毎に動作させる場合を考えてみます.このとき,LCD更新時の瞬間消費電流を2mA,その時間を1msとすると平均電流は約7.45uAとなります.3V系コイン電池CR2032(容量220mAh)を用いた場合は約3.3年間,CR2450(容量620mAh)の場合は約10年間駆動できます.もちろんこの駆動年数はLCDの性能によります.



■ 2種類のA-Dコンバータを使い分け,センサが活きる製品が生まれる



● 逐次比較型A-Dコンバータは電圧を比較


 アナログ-デジタル変換ではマイコンに内蔵されたA-Dコンバータが使われることがほとんどですが,そのほとんどは逐次比較型です.ML620500も12bitの逐次比較型A-Dコンバータが採用されています.これは,コンパレータとDACの組み合わせでデジタル変換を行います(図3).基準電圧に対して1/2の電圧から順に比較を行い,続いて1/4,1/8,1/16…とビット数に合わせてDACで電圧を作りながらコンパレータ出力の結果を基に変換値を割り出していきます.電池電圧の検出や光センサのレベル検出,振動センサなど電圧出力などに使います.


図3 逐次比較型のADCは,基準電圧とセンサからの入力電圧を比較してデータの変換をする



● 24bit解像のRC発振型A-Dコンバータは一方の基準値を消し合って誤差を減らす


 ML620500の大きな特徴は24bitのRC発振型A-Dコンバータを内蔵している点です.RC発振型は抵抗やコンデンサの変化量が直接A-Dコンバータの結果として表されるため,体温計やサーモスタットに使用するサーミスタの抵抗変化を測る場合に役立ちます.
 抵抗変化を測る場合は,図4のように外付け抵抗やコンデンサをマイコンのポートに接続にします.基準抵抗と基準コンデンサで発振させた場合と,サーミスタと基準コンデンサで発振させた場合(図4 ①と②)の違いから抵抗の変化を計測します.基準コンデンサ側が共通のためコンデンサ側の誤差がキャンセルされ抵抗側の誤差を減らします.
 RC発振回路を内蔵しないCPUの場合,RCを接続して同じように発振周期を計測できますが,前述のようなリファレンスとの比較を行わないため誤差が大きくなってしまいます.


図4 RC発振型はRCどちらかを基準にして誤差を減らしている
基準発振器をもう一つ(3つ目)追加して補正することもできる

 


■ 内蔵発振器は誤差±1%


 ML620500のまた別の特徴が発振器にもあります.内蔵にしては精度が高く誤差は±1%@25℃となっているためシリアル通信に安心して使えます.また高速クロック16MHzと低速クロック32.768kHzの両方が用意されています.


■ データ・フラッシュの書き替えは10,000回,外付EEPROMは不要


 ML620500にはデータ格納用にデータ・フラッシュ領域が2kバイト確保されており,10,000回書き換えが可能です.10年間データ保持を想定した厳しい仕様です.外付けEEPROMも不要になります.

■ スターターキットは低価格を予定


 スターターキットML620Q504-SK(写真1)は,エミュレータ・ボードとリファレンス・ボードおよびアプリケーション・ボードの3点合わせて低価格で用意されるようです.アプリケーション・ボードでは,LCDやタッチ・パネルなどが試せます.コンパイラの機能制限もなく,HPからライブラリも提供されていますので一度試してみてはいかがでしょうか.

写真1 スターターキットML620Q504-SK
nanoEASEは単独でも使えるので,開発した基板につなげてターゲットにすることもできる

  

たなか・くにお

 

 

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