920 MHz帯特定小電力無線のあらまし
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2014年4月 9日
RFワールド・ダイジェスト版
Wi-SUN/スマートメータなどへの
応用が期待される新規格
920 MHz帯特定小電力無線のあらまし
萩野達雄
Tatsuo Hagino
■はじめに
Wi−SUN/スマートメータなどへの応用が期待される新規格の920MHz帯は,免許不要な無線システムが使えるもう一つのプラチナ・バンドとして注目されています.免許が不要な無線システムとしては2.4/5GHz帯の無線LANやBluetooth,ZigBee,微弱無線,特定小電力もあり,身近なものとしてはSuica,Pasmoなどの交通系ICカードなどもあります.
これら従来の無線システムと920MHz帯は,何が違うのでしょうか?
■1.1 微弱な無線局,特定小電力無線局,小電力データ通信システムの用途や種類
表1に無線局の種類や用途と割り当て周波数帯などを示します.通信速度と通信距離は市販の無線モジュールを調べたものです.
920MHz帯にはパッシブ・タグ・システム*,アクティブ系小電力無線システムが割り当てられています.Wi−SUN/スマートメータなどに使用されるはアクティブ系小電力無線システムです.これまで小電力無線システムは微弱無線,特定小電力無線,小電力データ通信システムの無線局無線と呼ばれるものなどが利用されてきています.920MHz帯の小電力無線システムは特定小電力無線局(空中線電力1mW,10mW,20mW)に加えて,あらたに簡易無線局(同250mWの登録局)が割り当てられました.いずれも免許が不要な無線局です.
■1.2 950MHz帯からの移行
そもそも950MHz帯は,電子タグ(RFID)で世界共通の周波数帯を確保することを目的に誕生しました.
電子タグ(RFID)は物流分野等で活用されていて,世界的にも互換性が重要で,135kHz帯,13.56MHz帯,2.45GHz帯については,全世界で共通の規格となっています.
UHF帯の電子タグについては,欧米を含めて世界共通の周波数を規定することは困難であるため,860MHz〜960MHzの帯域のうちで各国が利用可能な周波数帯でリーダ/ライタの運用を始め,電子タグ自体は860MHz〜960MHzで動作するものを使うことによって互換性が確保され,広く利用されています.
国際競争力の強化が目的で行われている700MHz帯および900MHz帯の周波数再編で,その一環として電子タグ・システムについては,欧米での割り当て状況を踏まえ,国際競争力強化の観点で2012年7月25日から920MHz帯(915〜928MHz)に移行が始まりました.図1はその概要をまとめたものです.なお,これまで950MHz帯で利用されてきた無線設備の使用期限は2018年3月31日となりました.主な変更点は次のとおりです.
●周波数拡張:スマートメータなどの導入に向け5MHz幅を拡充する
●送信電力上限が大幅にアップ:10mW→20mW,最大で250mW可能.ただし,250mWは簡易無線局としての登録が必要.
■1.3 920MHz帯の概要
920MHz帯のテレメータ用,テレコントロール用およびデータ伝送用簡易無線局および特定小電力局(アクティブ小電力無線システム),移動体識別用構内無線局および特定小電力局(パッシブ・タグ・システム)の周波数割り当てを図2に,技術的条件の概要を表2にそれぞれ示します.
■2.1 現行の特定小電力無線無線局や2.4GHz帯の問題点
表3に,現行の特定小電力無線無線局や2.4GHz帯の特徴を比較してまとめました.周波数帯による電波伝搬特性(到達性や回折性,通信距離)の違い以外にも通信速度,干渉問題,消費電力,マルチホップ特性などに違いがあります.
2.4GHz帯の問題点は,もともと電子レンジ,移動体識別装置(RFID),アマチュア無線局,無線LAN,Bluetooth,ZigBeeとも周波数割り当てが重複しており,電波の干渉による障害が発生する可能性があることです.それに加えて最近はスマートフォンやタブレット型端末の普及に伴うトラヒックのオフロード化等で無線LANシステムの利用が急速に拡大している中,干渉や輻輳(ふくそう)等によるスループット低下等の課題が顕在化しており,同一周波数帯での干渉回避や輻輳を解決する方法が必要です.
一方,400MHz帯の特定小電力無線局の問題点は,ほかの周波数帯に比べて通信速度が遅いことです.
以上から,使い勝手のよい下記のような特徴のある920MHz帯に期待されています.
●2.4GHz帯より長い通信距離
●到達性が良い
●干渉が少ない
●低消費電力で必要な伝送速度が可能
●大規模マルチホップが可能
●用途に応じて1mW〜250mWまでの空中線電力を選べる
■2.2 Wi−SUN,スマートメータ,HEMS/BEMS
●HEMS/BEMS
EMS(Energy Management System)は電力使用量の可視化,節電(CO2削減)のための機器制御,ソーラ発電機等の再生可能エネルギーや蓄電器の制御等を行うエネルギー管理システムです.管理対象によりHEMS(ヘムス)は住宅(Home)向け,BEMS(ベムス)は商用ビル(Building)向け,FEMS(フェムス)は工場(Factory)向け,CEMS(セムス)はこれらを含んだ地域全体(Community)向けのように名付けられています.それぞれ管理対象は違いますが,電力の需要/供給を監視し制御するというシステムの基本は共通です.
●スマートメータ
これは一般家庭やビルなど建物内の「電気,ガス,水道」などのインフラを監視制御できる電力量計です.エネルギー使用量をできるだけ抑え,人にも自然にも優しい環境作りを実現するのに役立ちます.
●Wi−SUN
世界初のスマートメータ用無線の規格認証団体"Wi−SUN"(通称:ワイサン)は,IEEE802.15.4g規格を利用する無線機等の製品に対して,各メーカ間の相互接続性を認証する団体です.本証明により,ユーザが適合機器を正しく分別し使用することが可能となります.2012年1月24日に設立されました.
IEEE802.15.4gとはSUN(Smart metering Utility Network)実現のために,既存のIEEE 802.15.4の物理層仕様の変更を策定しているタスク・グループ(TG)です.IEEE 802.15.4gでは,このような変更点として,国内外スマートメータ用割り当ての追加(国内では920MHz帯)のほか,変調方式の追加,周波数帯の拡張,データ・サイズの拡張等が規定されています.
IEEE 802.15.4eはIEEE 802.15.4g標準規格のような,IEEE 802.15.4の物理層仕様の変更に伴い,必要となるMAC層仕様の変更を策定しているTGです.IEEE 802.15.4eでは,IEEE 802.15.4gに関連するMAC層の変更点として,間欠型省電力通信動作の詳細等が規定されています.
また,電力系のスマートメータ以外にガスのスマートメータがあります.各家庭のガス・メータに設置した920MHz帯アクティブ系小電力無線システムをマルチホップの無線ネットワークで接続することにより,ガス・メータの遠隔監視制御やガス検針情報の自動収集が可能となるものです.
●無線モジュールのプロトコル構成と国際標準化
これらの国際標準や利用シーンから,920MHz帯では図3に示すようなプロトコル構成の無線モジュールが考えられます.各種独自方式によるものは従来の特定小電力無線のようにメーカ間の相互接続性はありませんが,920MHz帯の特徴を生かして400MHz帯や2.4GHz帯で実現できなかったサービスを実現すると思われます.
また,国際標準であるWi−SUN,Echonet Lite,IPv6/RPL,6LoWPAN,Zig Bee SEP2.0などに対応することで相互接続性が確保され,無線LANのWi−Fiのように異なるメーカの機器やシステムも接続でき,多種の機器/センサとの相互接続性を確保し,多様なサービスを創出することが可能となります.
この記事は,CQ出版社刊「RFワールド」掲載記事のダイジェスト版です.
全文は4月28日発売の「RFワールド」No.26をご覧ください.
▪参考文献▪(1)一般社団法人 電波産業会;ARIB STD−T108 1.0版,「920MHz帯テレメータ用,テレコントロール用及びデータ伝送用無線設備」,2013年2月14日.(2)一般社団法人 情報通信技術委員会;TR−1043,ホームネットワーク通信インターフェース実装ガイドライン,第1版,2012年11月6日.(3)情報通信審議会 情報通信技術分科会,移動通信システム委員会,報告(案)
はぎの・たつお 無線通信システムズ㈱
http://www.rfcomsys.co.jp/company.html
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