これからのライフスタイルと組み込みシステムの発想のヒント ―― 組み込みネット新春インタビュー(2)

Tech Village編集部

tag: 組み込み

インタビュー 2014年1月 7日

Tech Village「組み込みネット」では,新春特別企画として「2014年,組み込み技術の展望」をお届けします.第2回は,ニュアンス・コミュニケーションズ・ジャパンの山崎 辰雄氏(写真1)に,音声認識や音声合成を活用した2014年の組み込みシステムについてお話を伺いました.

写真1 ニュアンス・コミュニケーションズ・ジャパン プロフェッショナル サービス プロジェクト・マネージャの山崎 辰雄氏

 

 

―― ニュアンス・コミュニケーションズについて教えてください.

山崎氏:当社は,音声認識/音声合成ミドルウェアの技術を持つ米国Nuance Communications社の日本法人です.これまで,さまざまな音声認識/音声合成ミドルウェアを買収して,それぞれの良いところを取り込んでいるので,かなり完成度の高いものとなっています.日本法人では,カー・ナビゲーション・システムなどへの組み込みや,顧客の開発サポートなどを行っています.


―― ご自身はどのような仕事を担当されていますか?

山崎氏:組み込み機器への移植のプロジェクト・マネージメントや海外とのやり取り,いわゆるブリッジSE(システム・エンジニア)などをしています.


―― 2013年は,音声認識/音声合成の観点で言うとどのような年でしたか?

山崎氏:当社の事業としては,以前から継続してやっていることを粛々と継続しているわけなのですが,CPUの性能がどんどん上がってきていることを実感しています.特にスマートフォンに採用されるCPUがどんどん良くなっており,カー・ナビゲーション・システム専用機のスペックを超えている状況です.


―― 2014年の組み込みシステムには,どのような変化があると思いますか?

山崎氏:「2014年」といった短期間に絞ってしまうと難しいですが,長期的な傾向としては,仕様の書ける開発は人件費の安いところで開発できてしまうので,価値が低下していくでしょう.そして,仕様の書けない開発が増えていくでしょう.「仕様が書けない」とは,あらかじめ決められないことや,ふるまいを特定できないことです.例えば人間の脳みそなど,どんどん思考が変わるものなどです.

 仕様書に基づいた開発とは,大砲のようなもので,狙いをつけてガーンとうち,当たったかどうかを見るものです.それに比べると,仕様書に基づかない開発は誘導ミサイルのように対象を追いかけながら当てるものと言えます.Googleなどはユーザの反応や環境を見てどんどん作り変えていくような開発をしています.人間が仕様を定めるのではなく,機械学習や無数の試行錯誤などにより,データや状況を基に仕様が定まっていくようなやり方が主流になるでしょう.

 今後,どのような製品を開発すればよいのか,という意味では,かの有名なAppleの「Knowledge Navigator」が参考になると思います.これは,1987年にApple Computer社の当時のCEOであるJohn Sculley氏が発表した,未来のコンセプト・モデルです注1.本の形をした端末で,不在時にあった連絡や必要な資料の検索などを,まるで秘書か助手のように,人間と対話しながらサポートしてくれます(図1).

注1:映像はThe Open Video ProjectのWebサイトからダウンロードできる.また,Youtubeなどで日本語吹き替え版を見ることができる.

 

図1 Knowledge Navigatorの動画の詳細(The Open Video Projectより)

 

 

 この動画には,現代にそぐわないと感じる点もいくつかあります.例えば,今なら,不在時の連絡(留守電)を聞く場所は部屋の中に限られないでしょう.端末を「開く」必要もないかもしれません.端末自身が見える必要もないでしょう.また,端末側が,ユーザが何を見ているのかを把握して対応してくれれば,もっとユーザにとって便利なものになると思います.このように,今後のライフスタイルを考えたときに欠けているものが,これから開発されると考えられます.


―― 未来のライフスタイルで必要とされるシステムはどのようなものでしょう.

 ライフスタイルは,例えば通信手段一つ取ってみても,じっくりとしたためる手紙からメールに,そしてTwitterなどのSNSにと変わってきています.今後はさらに,つながりっぱなしで存在感や息遣いまで共有するようになっていくのかな,という気がしますね.

 でも,それだけなら,全部スマートフォンやタブレットに機能を集約してしまえば終わりです.今は,ユーザ・インターフェースが過度に画面依存になっており,大きなディスプレイを備えたタブレットに専用機(カーナビなど)がなかなか勝てません.それに対抗するためには,機能を環境に溶け込ませる環境統合が有効なのではないかと考えています.例えば,方向を示すためにハンドルが光るとか,ユーザの視点を把握して「その二つ先の角」とか,「あそこの銀行の角を曲がってください」と指示する,などです.

 あともう一つ,未来のライフスタイルを見る方法としては,富裕層の生活が参考になると思います.例えば,移動したいときには黒塗りのハイヤーがお迎えに来て目的地に連れて行ってくれる.これがいずれ自動運転に置き換わる.というように考えてみてはどうでしょうか.

 

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