拝啓 半導体エンジニアさま（56） ―― "夢"と"利権"の間に

　このごろ，同業他社の習慣（風習？）とか噂話などを多く耳にするようになった感じがします．悪い意味で業界が話題になることが多かったために，新聞，雑誌などにも取り上げられる機会が多かったためかもしれません．また，最近は業界の人々の「シャッフル」が進んだせいで，いろいろと異文化交流（？）が高まっているためかもしれません．

　ご同業といっても会社によって習慣もずいぶん違うものだなあと感心（？）することもしばしばですが，どこも一緒だな～と相づちを打ってしまう話題もままあります．そんな中でまず共通するのは，「このごろは夢のある開発をできなくなった」という話です．

●「夢のある開発」と口に出す人，出さない人

　そういうことを口に出して言う人は，大体が「たそがれて」いらっしゃることが多く，そして，それに共感を覚える筆者もまた，たそがれているうちの一人なのでしょう．「このごろは」というところには「昔はよかった」といった懐旧の情があり，「夢のある」というところにはロマンというか何かが感じられるのですな．典型的な年寄りの述懐かもしれません．

　一方，年齢の割に，まずそういうことを口に出して言わない人もいらっしゃいます．そういう人は，この荒波の中，沈みゆくかに見える事業を支えるポジションで生き延びている人に違いありません．観察するに，しっかり「お金の流れる今の事業」を握っており（握ったら放さないというべきでしょうか），そこを死守するためには「夢などバッサリ」という感じです．そうしなければ即座に沈没しかねないので，致し方ないといえば致し方ないのでしょう．

　苦しい事業には懐旧の情もロマンもなく，ひたすら直近のバランス・シートを眺めて「決断する」のですな．とはいえ，なまじっか事業になっているがために手かせ，足かせ，これまた多い．ただ今の状態を維持するだけでもリソースが足りない．そっと手の内を見てみれば，打てる手も限られている．一歩離れて客観的に見てみれば「普通ならそんな線になるだろうな」という，まずは順当な決断をするのにも後手に回ることがしばしば．

　「泥船」などと揶揄されても事業を握っていること自体が目標であり，目的でありと．そこまでくるとある意味「利権」にしがみついているだけ，と言われても致し方ありません．外には立派な顔をしているけれども，内輪ではひやひやもので愚痴をこぼしていたりするのですかね．その辺は"たそがれ組"とあまり変わりない感じもします．

●「夢」で終わらせないために

　とはいえ，「夢を追った開発」を手掛けてきたあげくにたそがれている面々の中には，胸に手をおいてよくよく考えてみると「夢を売ってきた」ばかりという方もおられるかもしれません．死屍累々たるジャンクの中から，本当に売れるのは一握りばかりなのだから，運が悪かった，ということもあるでしょう．けれども，あれやこれやと流行に乗って，次々と新しいもの，面白そうなものと，楽しい開発ばかりに熱中したあげく，面倒な商品化など避けてきたのかもしれません．自業自得だなどと言われそうです．

　まあ，どっちもどっちなどと分かったようなことを書けばそれまでですが，それではお互いに立つ瀬がなくなります．ここで円安で一息ついている期間になんとかしないと本当にヤバい．フォエバーに売れ続ける商品などはなく，新製品の投入がなければいずれはジリ貧です．泥船が本当に沈み，しがみついていた「利権」もなくなります．一方，夢が夢のままではどうにもならず，追い詰められた中で打率10割の上に一打逆転のクリーン・ヒットへのプレッシャーは高まるばかり．楽しい夢だったはずが，悪夢の戦場，デス・マーチとなるのですね．

　生き延びる道は，「夢」を追うのと「利権」を追うところの間に細く通っているように思うのですが，いかがでしょうか．その細いところに見事に通してみせないとなりますまい．昔からどこの会社も共通して「チームワーク」だの言ってきたわけですが，ここでこそ真のチームワークが必要とされているんじゃないかと思います．新年が業界復活のつながる年になりますように．

じょせふ・はんげつ