拝啓 半導体エンジニアさま(55) ―― 製造業ビジネスでも基本要素となる「5W1H」

ジョセフ半月

tag: 半導体

コラム 2013年12月11日

 昔,学校で文章を書くときに「5W1H」などという話を聞いた人は多いと思います.たぶんそれはビジネスにおいても,頭に置いておかねばならない基本要素を示しています.特に「何を作るか」,「どう作るか」のWhatとHowは半導体業界に限らず,製造業の両輪ではないかと思います.売れる物(What)を考え出し,コストなのか性能なのか他社に差のつく作り方(How)で作り出す.どちらか一方だけではビジネスとして成り立ちません.

 ときには後追いのビジネスのようにWhatを考えていないように見えるケースもありますが,後追いは「いつ作るのか」というタイミング(When)と,コスト作り込み(How)に偏重があるだけで,Whatはある意味固定的であるものの,明確だと思います.客先向けのASIC商売なども,「誰に売るか」(Who)に重きがあるだけに,WhatはWhoに連動してこれまた固定的に決まってくると考えるべきでしょう.

 

●WhatとHowのバランスが取れていない

 ともあれ,Whatがグラグラしていると事業は安定せずジェット・コースタ状態となり,Howが弱ければ,性能なのかコストなのかで差をつけられてジリ貧となるでしょう.WhatとHowの両輪のバランスがとれて初めて,継続する事業が実現できるのだと思います.

 ところが残念ながら,このところの日本の半導体業界では,このバランスが崩れてしまっているのではないかと感じられる局面がままあるように思います.バランスがとれていないというのは,実にいろいろなレベルで感じられます.会社全体,部門や職場といった単位の組織レベルでもそうですし,個人レベルでもありえます.皆さんはどうお感じでしょうか?

 原因を考えれば,うち続いたリストラの影響が当然ながら大きいと思うのです.会社レベルでは,まず出血を止め,採算がとれるようにするために,大は事業所,工場の単位から,小さな職場にいたるまで,採算のとれないところ,すぐにリターンの見込めないところなどがバッサバッサと切られてきたのはご存じの通りだと思います.いまだに続いていますが,そのかいも多少はあったのか,それとも単なる円安効果であるのかは別にして,このところ採算については改善の兆しが見えてきたのではないかと思います.

 しかし,切っている時に考えるのは,まず採算の部分ばかりでしょう.ものづくりのWhatやHowのバランスなどは深く考えている余裕がありません.それに「切っている人」がものづくりの専門家ということはまずないのでしょう.悠長に時間をかけてやるような作業ではないので,致し方ない面もあるのでしょうが,バランス・シート上のバランスを整えるリストラが,ものづくりの側でのWhatやHowのバランスの崩れ ―― 多くは直接は見えないものが多いですが ―― を引き起こし,結果,見えない事業リスクを高めているようにも見えます.

 

●WhatとHowが硬直化していないか?

 リストラしても切らずに残す部分というのは,現在もうかっている(採算のとれている)商品,「見えている」ビジネスにかかわる部分が多いことでしょう.当然,残ってくるWhatやHowは,現在の主力商品に偏る集合になりがちだと思います.金食い虫とみなされて,先を見たWhatやHowの部分は刈り込まれてしまったケースが多数あったことでしょう.また,過去にはできていたはずのHowの部分が刈り込みの結果として消滅している,というケースも多いように感じます.こちらの方は広い意味での品質とか生産性とかにボディ・ブローのように効いてきている感じです.

 結果,表面的にはもうかっている部分に「集中」できて採算は向上しているようには見えますが,Whatでは事業が袋小路にはまり込んでいってしまっているリスク,Howでは,広い意味での品質を支える足腰が弱体化しているリスクもまた高まっているように思われます.

 生物学が教える通り,あまりに特殊化してしまいすぎると環境が変化したときに生き延びることができず,絶滅の憂き目を見ます.実際,電気電子業界のトレンドは,次々と市場の中心が移り変わってきた歴史であり,10年もたてば市場構造は変わってしまっているに違いありません.変化に対応できる余地まで刈り込んでしまっていないことを祈るばかりです.

 

●部門,職場,そして自分を見直してみる

 また,部門や職場が残っていてもバランスが崩れてしまっているというケースもままあるでしょう.技術にせよ,商品にせよ,「属人的なやり方はダメで,誰がやってもできるような」というのは理想ではあります.けれど,実際は人にかかわる部分は大きいと思います.そうでなければ人事などサイコロを振って決めればよいはずです.長年のリストラで人は減り,各個人の処理すべき仕事量は増えていると思います.それに予算も縛られる,外注もなかなか使えない.いろいろの作業を見直して簡素化もしますが,仕事はどうしても目の前の処理をこなすことばかりになってしまう.WhatにもHowにも創造性がなくなって固まってしまいます.

 そうこうするうちに,そんな環境に不満をもったキーマンが抜けてしまったり,良く知っているベテランが引退したりして,ますます,WhatもHowも形式的になり中身が空っぽになってしまう.職場が残っているから,こういうことができるはずだと乏しい新規のWhatを下ろしてみると,既に実体はもぬけの殻で,Howがついてこられない.

 それどころか,一番恐ろしいのは個人レベルじゃないかと思います.袋小路の事業の中で,固定化した職場で負荷は重いけれども進歩に乏しい仕事を繰り返して歳をくっていってしまうわけです.知らず知らずのうちに自分の能力とか考え方も,ある特定のWhatとか,Howとかに固定してしまう.変化が恐ろしくなるし,実際に,新たなWhatもHowに転換することなど自信がない.そんな状況に固定化してしまった後で,袋小路の事業が立ち行かなくなったりすると,もういけません.「この事業のある特定のHowに関してならば,すばらしくできるのだけれども,他に転用できへん」,と.ひどい言葉ですが,余剰人員あつかいされておしまいです.まじめに職場の仕事に貢献してきたのに....

 やはり,受け身でなく,主体的,積極的に新たなWhat,Howに挑戦し続けるしか手はありません.エンジニアは疲れる商売ですねえ.

 

じょせふ・はんげつ

 

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