ウェアラブル心拍センサで見守りから居眠り防止まで ―― ワイヤレスジャパン2013,運送システムEXPO
●後付けの衝突防止補助システムMobileyeがスマホに対応
オランダMobileye社の日本輸入総代理店アイモバイルは,後付けもできる衝突防止補助システム「Mobileye-560」を展示した(写真6).Mobileyeは,車載カメラの映像に基づいて歩行者や自動車,二輪車,車線などを検知し,事故防止のために警告を発する衝突防止補助システムである.前バージョンである「Mobileye C2-270」の国内出荷台数が1万台を超え,新たにスマートフォンとの連携機能を備えたバージョンが「Mobileye-560」だ.
写真6 オランダMobileye社の「Mobileye-560」

「Mobileye-560」は,カメラを搭載した「メイン・ユニット」と,警告表示や設定変更ボタンを備えた「アイウォッチ」から構成される(写真13).メイン・ユニットに搭載されたカメラの映像を解析し,設定された状況下において一定のしきい値を超えると警告音および警告表示を発する.例えば,前方車両との距離から衝突の危険が2.7秒以内に迫ったら警告する(前方車両衝突警報),歩行者や自転車を識別して2秒以内に接触の可能性があると判断したら警告する(歩行者衝突警報),といった機能を備える.他にも「車線逸脱警報」,「前方車間距離警報」,「低速時前方車両衝突警報」といった機能もある.
本システムは,スマートフォンに専用アプリをインストールすることで,Bluetooth経由で連携動作する.スマートフォンの画面に,アイウォッチと同様の警告を表示する.また,連携中に発生した各種警報の記録をスマートフォンに蓄積し,日別,週別,月別の統計情報としてスマートフォン上で確認が可能だ.運転時にどのような警告が多いのかを見れば,自己の運転技量を測る目安になるだろう.
なお,「Mobileye-560」はメイン・ユニットにカメラが内蔵されており,解析の精度を上げるためシャーシのセンタ軸に沿うよう取り付ける必要があるので,車種によっては取り付けられない場合がある.取り付けにも特殊な技術が必要で,アイモバイル認定の整備工場での取り付け工事となる.
「Mobileye-560」の価格は131,250円.取りつけ料金は別途36,750円.
●日本語表示に対応した「Firefox OS」を搭載したスマートフォンを公開
Mozilla Japanは,「Tizen(タイゼン)」などと共にモバイルOSの新興勢力として耳目を集めている「Firefox OS」を搭載したスマートフォンを展示した(写真7,写真8).
写真7 「Firefox OS」を搭載したスペインGeeksphone社製のスマートフォン

写真8 「Firefox OS」を搭載した中国ZTE社製のスマートフォン

「Firefox OS」は,Webアプリケーションに対応したオープンなモバイルOSの一種であり,HTML5やCSS,JavaScriptなどで構築されたアプリケーションが直接動作する.AndroidやiOSにあるネイティブ・アプリという概念はなく,その分シンプルで軽い設計となっている点が特徴.本展示は,日本語に対応した初の「Firefox OS」搭載機であり,いくつかの日本語対応アプリもインストールされていた.
なお,展示されていた「Firefox OS」搭載のスマートフォンは,中国ZTE社製やスペインGeeksphone社製などで国内ではなじみが薄いブランドが多く,スペック的にも1世代前程度のものという印象が強かった.例えば,Geeksphone製品の場合,CPUは米Qualcomm社のSnapdragon S4 8225 1.2GHz,デュアルコア,ディスプレイは4.3インチ,解像度は960pixel×540pixel,メモリはROMが4Gバイト,RAMが512Mバイトなどとなっていた.実際,ZTE製の筐体に触れてみたが,説明されたほど軽やかな動きではなかった.
その点で,現行スペックの機種に搭載された場合のFirefox OSの使い勝手は未知数である.また,Androidと同じようにLinuxカーネルをベースにしているためか,ホーム画面のイメージやページ遷移などの動作はAndroidによく似ている.現在のところ,国内でFirefox OSのスマートフォンへの搭載の検討を表明しているのは,KDDIのみである.
●「IMES」による屋内位置計測システムを参考出展
佐鳥電機は,宇宙航空研究開発機構(JAXA)が中心となって考案した屋内測位技術「IMES(Indoor Messaging System:アイメスと発音)」を利用した屋内位置計測システムを参考展示した(写真9).現在の位置情報サービスの多くはGPS(Global Positioning System)を利用しているが,衛星から送られてくるGPS信号は屋内や地下には届かず,位置情報サービスの穴となっている.「IMES」はGPSと同等の信号を使い,本来GPS信号が届かない屋内や地下においても位置計測が可能になるシステムだ.
写真9 佐鳥電機の屋内位置計測システム
左奥が日立産機システム製のIMES送信機,手前中央にあるのが佐鳥電機製のIMES受信機(試作機)である(IMES送信機は通常,天井などに設置される).

今回展示したデモンストレーション用システムは,ブース内に設置されたIMES送信機(日立産機システム製)からの位置情報をIMES受信機(佐鳥電機製の試作機)が取得し,その情報を920MHz無線にてリピータに送信,ゲートウェイを経由してLANに変換後,無線LANを使ってAndroidタブレットに現在位置の地図を表示するというものである.IMESはGPSとの親和性が高いため,スマートフォンなども受信機として想定できるという.
GPSと異なりIMESでは,送信機から位置情報(緯度/経度)をダイレクトに送信している(送信機の情報は国土地理院が管理する).そのため,一つの送信機で位置を計測できる.また,受信信号強度の最も高い送信機の情報を選択するようになっているので,位置精度はGPSに比べて安定している.さらに,送信する位置情報には,地下街やビルの階数といった高さの情報も入れることが可能だ.一方で,GPSと同じ周波数帯および通信フォーマットを採用しているので,GPSとの相互運用も問題なく行える.つまり,屋内ではIMES,屋外ではGPSによる位置情報の取得を,IMES受信機によってシームレスに実行できる.
いいことずくめのように見えるIMESだが,導入にはそれなりのハードルもある.例えば,IMESによる位置情報の精度は約10mと言われているが,これは,送信機による位置情報送信のカバー範囲がおおむね10~15mであることによる.つまり,実際にIMESによる屋内位置計測システムを導入しようとすると各フロアに相当数の送信機を設置する必要があり,コスト面での問題が指摘されている.
●災害時にも限られた通信経路を有効活用
KDDI研究所は,災害に強い情報通信技術の実現に向けた研究開発の一環として,同研究所が関わった研究成果を展示した.東日本大震災では,発生直後から安否確認などにより電話回線やインターネット回線が繋がりにくい状態が発生した.基地局の倒壊や長時間停電による基地局の無力化が重なり,通信ネットワークが損なわれ,災害情報などの共有に大きな支障が出た.総務省はこの震災被害を教訓に,災害に強い情報通信技術の確立を目指す事業を推進している.KDDI研究所は,この事業の中で,災害時の限られた通信経路や電力でも安否確認や情報共有を可能な限り円滑に行えるようにする技術についての研究を担当し,音声通話やメールなどをより長く使い続けられる仕組みを開発した.
災害時においては,安否確認などでいっせいに通信が開始されるため,ネットワークが輻輳(ふくそう)し,通信や通話が困難になる.現行の携帯端末はこの混雑状況を把握できないため,単に電波が強い基地局に接続を試みることになるが,これがさらに輻輳を生み,通信が行えない状況に陥ってしまう.そこで,各端末がネットワークの混雑状況の通知を受け取れるようにし,電波強度に加えネットワークの混雑状況を見て各端末が通信可能なネットワークを選択できるような技術を開発した.さらに,災害時新たに構築されたり開放されたりしたネットワークの情報を端末に通知し,ユーザに意識させず最適なネットワークに接続させるという機能を追加した.これら災害時に連携するネットワークは,平常時は独立して運用されているが災害時には連携して通信を確保するもので,重層的通信ネットワークと呼ばれる.
ブースには,重層的通信ネットワークに接続させるための利用可否や負荷情報といった接続支援情報を蓄積し,各端末を通信可能なネットワークに接続させる中継装置「重層的通信端末」の模擬機を展示した(写真10).「重層的通信端末」は複数の無線システムを搭載し,利用困難なネットワークを避けた通信を行うことができる.また,周囲の無線状態の取得,監視も可能だ.また,独立して無線状態の測定を行う「無線情報測定装置」を開発.災害時・平常時を問わずに無線状態の測定および監視を行わせ,災害が起こった場合の通信の可否判断などに利用するとした.参考出品された装置は,平常時使用も考慮してディジタル・サイネージの機能も備えている(写真11).これらのシステムは実際にテスト運用され,一定の成果を挙げているという.
写真10 KDDI研究所が展示した重層的通信端末(中継装置)

写真11 KDDI研究所が展示した無線情報測定装置

いその・やすたか