拝啓 半導体エンジニアさま(47) ―― 技術者の"異分野"コミュニケーション

ジョゼフ半月

tag: 半導体

コラム 2013年4月 3日

 

 今回は,技術者のコミュニケーションについて考えます.

 

●「例え話」を交えながら説明すると伝わりやすい

 業界内で会話しているぶんには,似たようなバックグラウンドをもった人同士が話しているので,「話の内容が理解されていない」と感じることは少ないと思います.けれども,違った分野の方にこちらの専門分野について話すことになると,話がすれ違ったり,よく分かっていただけないことがあります.分かっていないのに分かったような相づちを打たれると,内心,腹立たしくもなってきます.

 しかし先方にしてみれば,「よく理解できない話だ」と思うのも無理からぬことかもしれません.こちらは,それほど難しい話をしているつもりはないのですが,後から文章に起こしてみると,専門用語が多数入っています.また,背景の知識がないと分からないような話題も少なくありません.

 他分野の人は,業界内の人同士であれば「ふんふん」とほとんど無意識に通り過ぎる言葉の一つ一つに引っかかってしまいます.専門の分化も甚だしいので,同じ業界内にいても,しばしばよく分からない用語が出てきます.

 そのようなとき,まずは言葉の理解からということで,用語の定義や背景の説明を行うこともありますが,日常生活のような互いの理解が得られそうな体験をもとに,例え話(比喩)を交えながら説明すると,案外分かってもらえることが多いようです.ただし,例え話による説明は「分かってもらえた感」は大きいのですが,実際には誤解が混じっていることがままあります.例え話と実際の違いは,蛇足ぎみであっても補足しておくべきでしょう.

 

●理系出身者は,しばしば言葉や名前の意味に無頓着

 なかには用語の一つ一つに,「なぜそういう言葉なのか」,「なぜそのような名前になったのか」,と突っ込んで聞いてくる人もいます.筆者の経験では,理系の人にはあまりおらず,文系の人にこうした傾向の方が多いようです.そういう人は大抵,本当に理解しようと前向きな態度で取り組んでいるので,聞かれる方も真剣に対処しなければ,とは思うのですが,なかなか「お互いに分かりあえた」という感じになりません.例によって,ここにも理系と文系の断絶があるように思います.

 どうも理系出身者は,かの数学者ヒルベルトの「ビールジョッキ思想」(数学の抽象化・形式化を推し進める運動.数学的概念から一切の直感的内容を取り除くことを目指した)を意識しているかどうかは別として,名前を「それと他のものを識別」するための単なるシンボル,と捉える傾向が強いようです.特にコンピュータやITシステムにおいては,名前などというものは,「英文字を頭文字とする英数字の列」的な識別子です.それがユニーク(一意的)かどうかは意識するものの,名前から内容が「想像できるほうが,そうでないより分かりやすい」程度の理解でとどまっていることが少なくありません.

 実際,新しい技術やら物やら,識別しなければならないアイテムが続々と登場してくるので,あまり深く考えて名づけていられない,という見方もあります.その名前が指すものの実際の意味とか,実体の様子といったものは,数式やソース・コードを読まないと分からないのかもしれません.なぜなら,実体というものは,物理現象に即したものだったり,数値の羅列であるデータが別の数値に化けただけのものだったりするからです.そもそも人間の言葉で表現しずらいものが多いので,名前をいくら吟味しても何か理解できるわけではないだろう,という考えがその根本に横たわっているように思います.

 技術者であれば,何か新しい用語の説明を聞いてもなかなか全体を「理解できた」という気持ちにはなれず,実際に動かしてみたり,あるいは仕様書の図面やらソース・コードやらを見ないと分かった気にならない,というのは普通だと思います.そういう発想の技術者と,言葉による説明の中に「すべてがある」と考え,言葉の一つ一つの意味やニュアンスを読み取ろうとする文系の方は,ここですれ違ってしまうわけです.

 極論すれば,名前や言葉そのものには意味がなく,名前と名前の間の物理的,あるいは数学的,論理的関係に本質を見出す技術者と,名前そのものに本質的な意味を求める人の違い,というべきでしょうか.

 

●場合によっては,理系的な言葉の使い方を封印

 こんなことを長々と書いてきたのは,技術者が業界内で,特に自分の狭い専門分野の中で生きてこれた時代にはあまり意識していなかったコミュニケーションの問題が,ここに来て急に,多くの人に突きつけられているような気がするからです.また,転職せざるを得なくなったり,同じ会社の中でも畑違いの部署に異動を迫られたり,といったことが増えているからです.

 転職のコンサルタントや人事担当者と話をしても,なかなかうまく理解してもらえません.例えばソフトウェア一つとっても,組み込みマイコン用,基幹システム用,数理解析用などが一緒くたにされてしまいます.半導体についても,メモリ技術もマイコン技術もASIC技術もすべてひとくくり.たまたまそこに書いてあった理解可能な「言葉」で分類されてしまうわけです.

 能力とか,適・不適を正しく理解してもらって,新たな活路を見出さなければならない場合は,とりあえず理系的な言葉の使い方を封印し,言葉や名前に意味を込めていかないといけないのかもしれません.

 かのデーブ・オルソン氏が言ったと聞く言葉を思い出しました.「ソース・コードだけ見ていればいいのなら,人生はずっと楽になるのだが...」.

 

 

ジョゼフ・はんげつ

 


 

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