拝啓 半導体エンジニアさま(23) ―― 拝啓 「激動の時代の」新人エンジニアさま

ジョセフ 半月

tag: 半導体

コラム 2011年4月 8日

 新年度に入り,被災地でも新入社員の皆さんの入社などがあったようです.ゼロどころかマイナスからの出発だ,といった切り口で,「がんばれ~」といった趣旨の報道がなされています.型にはまった入社式などなくても就職できれば良いほうで,震災の影響で傾いてしまった会社では内定取り消しとかもあるようです.そんなひどい目にあってしまった方々こそ,辛いですが耐え抜いて,諦めずにがんばっていただきたいものです.「塞翁がなんとか」で,時間がたつとまた風向きも変わるものですから....

●「最近の新人は...」という言葉が出る背景

 さて半導体業界ですが,震災の影響うんぬんを言う前に,(以前にも書きましたが)業界全体としての就労人口は減少傾向ではないかと思われる節があり,構造的に新人が少なくなっている気がします.それゆえ,そんな業界に「あえて」入ってくる新人の方々をもっと大事にしないといけないと思うのですが,きっとベテランの先輩の方々は若い皆さんにおっしゃるのではないでしょうか.「最近の新人は視野が狭い」とか,「若いやつらはブラックボックスの中身が全然分かっていない.ただ貼り付けて使うだけだ」とか.なにを隠そう筆者も年寄りの部類なので,そのたぐいの小言や苦情をついつい言ってしまう口です.

 確かに,長年,業界でやってきた設計技術者の方々は,広い分野でいろいろな経験を積んできています.商品の設計だけでなく,ツールや設計環境でもエキスパートだったり,テストや品質保証にも詳しかったりします.あるいは,ディジタルだけでなくアナログでも「プロ」だったり,ハードウェア設計だけでなくソフトウェア設計もできる,LSI設計だけでなくボード設計や装置の設計までできる,といった人が多数存在します.そういう人たちから,「最近の新人は...」というお言葉が出るわけですが,そういう人たちが多様なスキルを身に付けたのは,多くの部署や多くの会社を渡り歩いてきた経験から来ています.特に,昔は今のように高度な製品ではなく(例えば10万ゲートといったら,とんでもなく巨大な設計だった),分業体制も未熟だったので,何から何まで自分でやらざるをえなかったのです.業界そのものが未熟だったので,広く経験できたということです.

 また,その昔は,IP(Intellectual Property)コアなんぞという「貼り付けて使える」たぐいのものはありませんでした.「それでは生産性が上がらない」ということになって,年寄りの世代は自分でIPコアを作ったり,あるいは外から調達したりする,といったところから仕事をしてきました.ある意味,「ブラックボックスの中を知っている」のは当たり前といえば当たり前です.それに引き換え,後から入ってきた若い世代は,すでに高度なところまで進展してしまった設計環境と蓄積されたデータベースの中に,突然,投げ込まれるわけです.まずは自分の担当する狭い分野をキャッチアップするまでに覚えなければならないことが山積みで,とても広い分野などカバーしきれません.ともかく先輩方がウン十年かけてたどり着いたところに,ごくごく短時間で到達しなければならないのです.
 ブラックボックスといって,とりあえずそのままで使えるのですから,あえてその中に踏み込んで理解することに時間を使うこともない,といったところでしょう.どんどん製品そのものが進化してしまっているので,それに合わせて自分も「進化」していくとすると,さらに専業化につぐ専業化を果たしていかないと追いつけない,という状況だと思います.

●いろいろ応用のきく「基礎」を持っている方が生き残りやすい

 そういう方向に「進化」していくのは,ある意味,自然な流れで逆らえないようにも思うのですが,ここではあえて「やっぱり,より広い分野で,それも応用するだけでなく基礎のメカニズムから知ろう」と筆者は申し上げたいと思います.なぜなら,環境が激変するときに,あまり特殊化(専門化)しすぎていると,変化に対応できなくなるからです.

 生物学が教えていることに「アナロジ」があります.似たような環境が続くのならば,それに適合してより高度に特殊化していかないと,競争から振り落とされます.けれども環境が激変するとき,よりプリミティブで特殊化していないところは変化に対応できますが,過度に特殊化しすぎていると絶滅の憂き目を見ます.

 このたびの震災などは,自然災害としても大きなものでしたが,閉塞感が溜まっていた社会に対する変化のトリガとして,大きなものになりそうです.業界をとりまく状況も激変していくに違いありません.そんな中では,今までの路線の延長で済まなくなることは必定(ひつじょう)で,今までとは別な方向に「進化」しなければならなくなるときが,すぐにでも来るかもしれません.そのときに「これにしか使えない」という技術を持っているよりは,いろいろ応用のきく「基礎」を持っている方がサバイバルに向いているのではないでしょうか.

 いつまでサバイバルを続けにゃならんのかは「?」ですが....

 

ジョセフ・はんげつ

 

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